第46話 生まれ変わるオデュッセイア
朝早く、俺は格納庫でオデュッセイア号の設計図を広げていた。アルテミスやドローン・アルゴスも無事に増産できたし、タロスの改良も順調。だが、それらを大陸へ運ぶ手段は、いまのところデミの重力制御しかない。やはり安定して、大陸に運んでいきたい。
「オデュッセイア号の船体を延長し、再設計します。・・・・・・こうすると、安定性が飛躍的に向上し、広い貨物スペースを確保できます。タロスもネプチューンも一緒に積めるようになります」
ヨルが、驚くべき改造案を次々と提示していく。
「船尾に専用の進水ドックを設ければ、航行中でもネプチューンの発進・回収が可能です。まさに海上の移動拠点になりますね」
三次元で展開される図面に、俺たちは見入る。もうこれは船舶というより、ちょっとした要塞のようだ。
「ヨル。この改造、どれくらいの時間がかかるんだ?」
「資材等の見立てはすでに完了しています。あとは作業に移るだけですので・・・・・・明日中には、いけるでしょうね」
「了解だ。すぐ始めよう」
まずはオデュッセイア号の現状の寸法を精密に測定する。
「最初は、船体をいったん切断します。それから、そこに新たな区画を挿入します・・・・・・」
資材モジュールから運び込んだ大型の合金パネルに加え、隔壁やフレーム材・・・・・・あらゆる材料がふんだんに使える。新造されたアルテミスたちも、資材運搬などを手伝ってくれる。
「えーと、こうすれば、タロスを立てたまま収容できます。さらに両舷に一メートルずつ張り出した構造にしましょう。これで安定性が確保されます・・・・・・」
デミの出力を最大にし、合金パネルを一枚ずつ溶断していく。切断面は正確に、再結合できるように平滑に。船体が二つに分かれる。
「なんだか、ちょっと不思議な気分。私たちの船が、まっぷたつになっちゃった」
陽奈がなんとも言えない表情をする。
「ここからが本番ですよ」
アルテミスたちが、新しいフレーム材を運び込む。楓が図面を確認し、雫が仮止め用のクランプを手渡す。美玖とゆかりと萌奈も、重いパネルを支えるために加わってくれる。俺たちとデミの共同作業で、オデュッセイア号は改良されていく。
「床面は二重構造に。タロスの重量に耐えられるよう、下部フレームは、あの隔壁を支えていた梁材を再利用して・・・・・・」
「両舷の張り出し部は、耐水区画も兼ねます。万が一、片方の船体が破損しても、もう片方で浮力を保てます。不沈構造というやつですね」
ヨルの的確な指示とデミの万能工作能力のもと、次々と新たな要素が付け加わっていく。
「貨物区画の天井には大型のハッチを設けましょう。タロスをクレーンで吊り上げて、そのまま上陸させられるように」
「クレーンも作るの?」
陽奈はじめ、驚く一同。
「デッキ上に折りたたみ式のものを設置しましょう。」
ヨルはさらに続ける。
「小型潜水艇・ネプチューンのドックは、船尾の喫水線下に設置するのが最適です。航行中に後部ハッチを開放すれば、そのまま進水できます。
回収時は、ドック内に誘導用のガイドワイヤーを展開します。ネプチューンが自力でドックに戻り、ハッチを閉めて排水すれば完了です」
ヨルの解説を聞いて、萌奈が目を輝かせて食いつく。
「すごい! 潜水艇が出たり入ったりするんだ!」
「萌奈、喜びすぎよ・・・・・・」
「えー、だって格好いいじゃん。なんかさ、そういうの」
意外というか、萌奈はひょっとしたら、こういうメカ類が好きなのかもしれない。
「それから、貨物区画の上部に、新しく艦橋を設けます。海中ドローン・トリトンから収集した情報をまとめて、船内の状況をリアルタイムで把握して・・・・・・」
「艦橋か。いよいよ本格的な船になってきたな」
俺がつぶやくと、ゆかりがおずおずと口を開いた。
「あの・・・・・・艦橋って、具体的にどんな感じなんですか?」
「トリトン関係の他には、全景を見渡せる大きな窓と、通信機、レーダーなどをまとめて設置します」
「へえ・・・・・・本格的ですね」
「ああ、もちろんだ」
船体は見る見るうちに姿を変えていく。延長された中央部、左右に張り出した部分、船尾の潜水艇ドック。大きな窓ガラスが取り付けられ、コンソールパネルがずらりと並ぶ艦橋。デッキには折りたたみ式のクレーンが設置され、貨物ハッチの開閉テストも瞬く間に完了する。
そうして、丸々二日を費やした、夕方。
「オデュッセイア号、改造完了です」
ヨルの声が、静かに、しかし誇らしげに響いた。
アクアベースに浮かぶその姿は、もはや以前の小型船とはまるで別物だった。全長十二メートル、安定したシルエット、艦橋、後部の潜水艇ドック。まさに移動拠点と呼ぶにふさわしい偉容だった。
「かっこいいです!」
萌奈が歓声をあげる。
「これが、私たちの新しい船、ね」
葉月が、満足げに見遣る。
「さあ、時間はあんまりないぞ。早速大陸行きの準備を始めよう」
俺のかけ声とともに、皆が動き出す。
クレーンを操作して、まずタロスを貨物区画に収める。改良されたパワードスーツは、専用の固定フレームにがっちりとロックされる。続いてネプチューンが船尾ドックに格納され、トリトンとアルゴスもそれぞれの充電ポートに収まる。
「ほぼ完了ね。増産したアルテミスもすべて搭載済み。食料と水も十分積み込んだわよ」
葉月が、チェックリストを確認しながら言う。
「ヨル。分星村の方は、どうだ」
「いまのところ、異常ありません。ただ、エインダグループの偵察隊が、村の近くまで来たことが、数回ありました。幸い、村の領域内にまでは踏み入れてきませんでしたが」
「ひょっとしたら、奴らも拠点を広げようとしているのかもしれないな」
「その可能性は大きいですね」
エインダたちの目的は、よく分からないが、用心するに越したことはない。
「浜に着いたら、まずは拠点の防備を固めましょう。それからエインダとの接触を試みる」
「出来るといいけれど、ね」
「難しいかもしれませな。でも、あたしたちはもう逃げたくない。だから、できることがあれば何でもします」
ゆかりが、強く決意を宿した瞳で、そう言う。それに賛同するように、うなずく美玖と萌奈。
「わかった。それじゃみんな、今夜はゆっくり休もう。明日は朝早く、大陸へと向かう」
「ええ」
「それじゃ、みんな。今日はよく食べて、よく寝ることよ」
「それじゃ、今から夕食の支度をするわね!」
「えいえいおー!!」
士気の高まる俺たちを、夕暮れの風が優しく包み込む。
アクアベースに浮かぶオデュッセイア号も、銀色に静か輝いている。
エインダ。大陸の食糧庫を支配する冷酷な指導者。問題は山積みだが、今はただ、この新しく完成した船と共に進むだけだ。




