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第42話 第二の村


 オデュッセイア号のデッキに、潮風が吹き抜けていく。島を出てから二時間、船は順調に大陸へと進んでいた。


 手すりに寄りかかって水平線を眺めていた雫が、振り返って口を開く。


「ねえ、リヒトくん。あの作戦って、本当に上手くいくのかな」


 少し不安の色が見え隠れする、雫の顔。


 俺は地図を広げながら答える。


「ああ。いずれにせよ、この作業は必要なんだ。俺たちの、今後の計画のために」

「と、いうと?」


 陽奈ひな葉月はづきかえでしずくがそろって首をかしげる。


「まずは確認。昨日、楓が提案したのは、こうだったよな。前回、ベースキャンプを張った河口の近くに、村の出張版みたいなものを作ろう。そうすれば、食糧庫モジュールにいる人たちの中から、エインダに密かに反発している人が出てきたとき、受け入れることができる」

「うん、そうだったね」


 楓が静かにうなずく。


「だけれど、それだけではない。正直、俺としても、いつまでもあの無人島にいるだけは、つまらないと思っていたんだ。だからこそ、こうして大陸までやってきた。そしてな、俺はゆくゆくこの巨大な大陸さえも、改造していきたいという野心がある。その第一歩が、今回のこの大陸拠点作りだ」

「つまり、今後とも永続的に使えるような、第二の創星村みたいなのを作る、てことね」

「そうだ」

「でも、そう簡単じゃないわよね。第二の村を建設しても、エインダ勢が攻撃してくるかもね」

「もちろん、それは百も承知だ。だけれど、たかが高校生だと思われてるなら、その高校生が何をできるのか見せてやりたくないか」


 俺の言葉に、全員が深く首肯する。


「作戦会議、続けるよ」


 俺たちは、地図を囲む。


「まず場所だけど、前回ベースキャンプを張った河口がいい。川があるから水に困らないし、オデュッセイア号の係留にも便利だ」

「じゃあ、そこを開拓して果樹園を作ろう。島で見つけた果実の苗を持ってきてるし、この大陸にも食べられる果実がいくつかあるし」

「あとは居住区と、できればちょっとした作業場も欲しいわね」

「ま、欲張り過ぎずにぼちぼちいこう。当面の目標は、ここを第二の村の種みたいにすることだ」

「でも、エインダ勢からの攻撃から守るための防御が必要ね」



 オデュッセイア号が大陸に到着した。俺たちは、一目散に河口に向かい、さっそく行動を開始した。



 まずはデミを駆使して、土地を開拓する。それから、果実のなる木を探して、見つけて、重力制御で引っこ抜いていく。アルテミス一号機と二号機には、周辺の警戒に当たらせる。


「私と雫さん、アルテミス三号は伐採した木を運ぶわね」


 葉月が手を挙げる。


「居住区の建設チームね」


 しずくも作業用手袋をはめた。


「じゃあ、私と楓ちゃんは、リヒトくんと果樹園作りを手伝いましょうか」


 陽奈が言う。


「了解です。ちょっと待ってくださいね。どこに何を植えるか、いま設計しますから」


 ヨルが、色々と考案を始めている。




 果樹園に植える木々は、ある程度集まった。川の東側、日当たりの良い緩やかな斜面を選んで、果樹園作りを始める。


「このあたりは水はけもいいし、陽当たりも十分です。最適ですね」


 俺はデミで地面を耕し、木を植えていく。柑橘に似た果実、ベリーの仲間、その他、発見した甘い実をつける低木も加える。


「大きくなあれ」


 陽奈が根元に水をやる。


 その隣では、伐採された木々がアルテミス一、二号によって運び出され、居住区の建設準備が始まっていた。


「基礎は石でいいか。この川原の石を使おう」

「居住棟はとりあえず一部屋。あとから増築できるようにしておく、て感じね」


 葉月が設計図を指さす。


「屋根は合金パネルと透明パネルの組み合わせで。島のと同じね」


 雫がパネルを運びながら言う。建築資材は、島からある程度は持ってきた。


「このパネル、軽いのね。ゼウス号の船体素材は知ってたけど、こうやって建築に使うのは初めて見た」


 それから、なによりも大切な水の確保も忘れない。川から水を引くための簡易水路を急いで作った。島で作った本格的な水路に比べれば仮設のものだが、ひとず飲料水には十分だ。


「この川、上流に鉱物の層があるみたいで、水にミネラルが豊富です」


 ヨルが、水中ドローン・トリトンによる水質分析の結果を報告する。


濾過器ろかきを通さなくても飲めます。料理にもいいですね」



 夕方までに、大陸の拠点――俺たちの第二の村の骨格は、ほぼ完成した。


 川沿いには簡易水路が走り、東の斜面には十本以上の果樹が整然と並んでいる。


 中央の広場には、伐採した広葉樹の切り株をそのまま活用した野外テーブルとベンチが置かれ、その奥には小型の居住棟が建っていた。壁は島と同じくゼウス号の合金パネルと現地の木材の組み合わせで、屋根には透明パネルがはめ込まれている。


 果樹園の入り口には、かえでが手書きで「創星村大陸第一拠点」と書いた木の看板を立てていた。


「いい字だな」

「習字は昔、少しだけしたからね」


 楓が照れくさそうに笑う。


「この拠点、名前をつけようか」


 陽奈が提案する。


「何がいいかな。創星村の出張所みたいなものだけど」

「創星村の種、とか。そのまんまで、味気ないか」

「そうね・・・・・・創星村の分村ぶんそん、ということで『分星ぶんせい』とかどうかな」


 雫が言う。


分星ぶんせい・・・・・・悪くないんじゃないの」

「星を分ける、か。大げさだけど、悪くない」

「じゃあ、ここは今日から分星村だ」


「これで、大陸にちゃんと根っこが生えたね」


 陽奈が看板を指でなぞる。


「うん。小さな一歩だけど、でも大事な一歩だ」


 色とりどりの果実を実らせている、果樹園の木。川の水は澄み、居住棟の屋根が夕日に照らされている。


「一日、かかってしまったな」

「でも、一日で村を作れたんでしょ? これ、すごいじゃん」

「そうかもな」


 大陸の空は広く、星がまたたき始めていた。アルテミス三体は静かに周囲を警戒し、果樹園の苗木は夜風にそっと葉を揺らしていた。


 俺たちの、大陸への一歩が踏み出された。


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