第39話 創星村へ
ひとまず俺たちはベースキャンプを畳み、オデュッセイア号に乗り込んだ。
アルゴスには、大陸上空をパトロールするよう、指示を出しておく。何か異変があれば、すぐにヨルを通じて連絡がくる。
すでに日が暮れ始めていて、夕陽が海を橙色に染め上げている。その中を、オデュッセイア号は進む。
「今日中には、島にたどり着きますよ」
「ちょっと遅くなりますけれどね」
「ありがとう、みんな。なんとお礼を言っていいやら・・・・・・」
雫は俺たちの顔を順番に見てくる。
「リヒトくん。あなた、不思議な子よね。高校生なのに、妙に大人びているような、幼いような・・・・・・あ、これ、悪い意味で言っているわけじゃないからね」
「それくらい、分かりますよ」
俺が肩をすくめると、雫は小さく笑った。
潮風を受けた帆が膨らみ、オデュッセイア号は快調に海の中をゆく。
「・・・・・・食糧庫を独占してる人たちがいるなんて、想像もしてなかったな」
楓が、ぽつりと漏らす。
「私たちは自分たちの力で生きていける。人に頭を下げる必要もない。でもそれは、いろろいろな偶然や幸運が重なった結果なのよね」
葉月がしんみりと言う。
「そうだな」
俺は操舵席に手を置く。
「正直、食糧庫モジュールのことは気がかりよね。でもまずは、それに対処するための準備をしっかりしないと、ね」
陽奈が言う。
「そうね。でもみんな、無理はしないで」
「もちろんですよ」
俺たちは、雫の言葉をしっかりと受け止める。
♢
島のシルエットが水平線に浮かび上がったのは、出航から三時間後のことだ。
「見えた! 私たちの島です!」
陽奈がシルエットを指さして、雫に教える。
「へえ・・・・・・あれがあなたたちの島なの」
雫は感心したように、目を丸くする。
「はい。といっても、ごく一部を村として開拓しているだけですが」
アクアベースのハッチが開き、オデュッセイア号はゆっくりと船着き場に滑り込む。係留ロープを結び、タラップを降ろす。俺たちは一人一人、船を降りていく。
アクアベースを出て、砂浜に足をつけた瞬間、陽奈が大きく伸びをした。
「うーん、やっぱり、なんか落ち着くね」
「そうだよね。たった一日空けただけなのに、なんだか懐かしい」
楓も笑顔を咲かせる。
「さて、村に戻るか。ケレスやアルテミスも待ってる」
創星村に着き、まず害獣の襲撃などがなかったかを確認する。うん、大丈夫そうだな。ケレスはきちんと農作業を続けている。リーフレタスは一回り大きくなり、ジャガイモの葉も青々と茂っている。
「ケレス、ご苦労さま。ちゃんとやってくれたんだね」
陽奈がケレスのボディを軽く叩くと、万能耕作機械は低くブーンと唸って応えた。
アルテミスは村の入り口で直立し、光学センサーを静かに点滅させている。
「アルテミスも、お疲れ様。村は無事に守れたみたいね」
ウィン、と短い電子音をアルテミスは発する。
「すごいわね・・・・・・これ、全部あなたたちが作ったの?」
雫は、夕闇に包まれた村を見回しながら、驚きの声をあげる。
「はい。といっても、大部分はこの万能工作機械デミがやったんですが」
「そうはいっても、あなたたちも充分すごいわよ」
「雫さん。今日はもう遅いので、また明日、村の案内をしますね」
俺たちはオデュッセイア号から降ろした荷物を調理場に運び込む。余っていた燻製や干物は保存庫に入れておく。一通りの片付けが終わる頃、陽奈が口を開いた。
「そういえば、雫さんの泊まる部屋、どうする? わたしの部屋でも貸しましょうか?」
「え、私はそこらで雑魚寝で良いわよ」
「良くありません。ヨル、デミを使って雫さんの部屋は何時間あれば作れる」
「ちょっとお待ちを・・・・・・今この村にある材料の状況から考えると、一時間半ばかりですかね」
「了解。それじゃ、女子陣は風呂入ったり、部屋でトランプでもしといてくれ。俺はその間に、雫さんの部屋を作っておく」
「ええっ!? いいわよ、そんなの」
「大丈夫です。雫さんは、もう立派な村人なんですから」
「そうですよー。雫さん、ここは遠慮なさらず」
「さ、一緒にお風呂入りましょー」
陽奈、葉月、楓の三人に囲まれる形で、大浴場まで連行されていく雫。
その姿を見送った俺は、ヨルに言う。
「さて、俺はもうひと作業あるからな。ヨル、デミ、頼んだぞ」
「はいです!」
俺は、作業を開始する。
♢
一時間と少しばかりが経過した。陽奈、葉月、楓たちの住む居住等の横に、新たに一棟加わる形で、雫の部屋が完成した。
「リヒトくん、おつかれ~」
お風呂上がりの陽奈たちが、やってくる。
「えぇっ!? リヒトくん、この短時間で、本当にこれを作ったの・・・・・・?」
唖然とする雫に、葉月が、
「ね? こういう奴なんですよ、リヒトくんは。なんでもすぐに作ってしまう」
「でもこれ、本当に私が住んでいいの?」
「もちろんですよ。さ、雫さん、どうぞ入ってください」
俺は新築居住棟のドアを開けて、雫を中に案内する。
「ありがとう・・・・・・」
雫は、恐る恐るといった様子で、自分の部屋へと入る。
「ベッドに机、衣装棚まで・・・・・・すごいわね」
室内を見て、感嘆の声を漏らす雫。
「なんか足りないものがあったら、いつでも言ってくださいね、雫さん」
「うん、本当にありがとう」
雫は、満面の笑みで、そう感謝してくるのだった。




