第37話 他の生存者
彼女は両手を開いて、武器を持っていないことを示した。
俺たちもまた、クロスボウやナイフの構えを解いて、敵意のないことを示す。
「俺たちは敵じゃありません。ゼウス号の生存者」
女性は数秒間、じっと俺たちを見つめた。それから四人の顔を順番に見て、最後に俺に視線を戻す。
「あなたたち・・・・・・ひょっとして、ゼウス号に乗っていたの?」
「ええ、そうです。あなたもですか?」
葉月が尋ねる。
「私はゼウス号の乗員。三島雫よ。あなたたちは?」
サバサバした雫の問いに、俺たちは簡単に自己紹介をする。
「あなたたち、遭難してから、ずっとこの辺りに住んでいたの?」
「いえ。無人島で生活しながら、ここまで来ました」
「島からこの大陸まで? 筏でも作ったの? よく来れたわね」
雫の目が大きく見開かれる。
「まあ、そこまですごいわけでは・・・・・・雫さんの方こそ、今日までどうされてきたんですか?」
「私は・・・・・・逃げてきたのよ」
そう言うと、彼女は少し顔をうつむかせる。
俺たちは顔を見合わせる。何があったのかはわからない。でも、話を聞く必要があるようだ。
「よかったら、私たちのベースキャンプに来ませんか。食べ物もあります」
陽奈がそっと声をかける。
雫はしばらく黙っていたが、やがて小さくうなずいた。
ベースキャンプに戻る道すがら、雫はぽつりぽつりと自分の状況を話し始めた。
「ゼウス号に乗って、ポッドの中で冬眠していた私は、気付いたら、この大陸の沿岸に不時着していたの。そのことは、みんなも多分同じだと思う」
俺たちは静かに頷いて、先を促す。
「でも、この大陸には他にもたくさんのポッドが不時着していたみたいで、ほどなくして何人もの乗員と合流したわ。最初はお互いに助け合って、なんとかやっていこうって感じだったのだけれど・・・・・・」
「最初は?」
俺の疑問に、雫は苦い表情でうなずいた。
「食糧庫モジュールが見つかってから、色々とおかしなことになったのよね」
「食糧庫・・・・・・ゼウス号のですよね」
雫は静かに首肯する。
「ええ。ゼウス号の大型格納区画の一つで、長期保存食が大量に収められているの。ここから北に五キロほどの丘の中腹に、ほぼ無傷で落ちていたのよ」
それは、俺たちが島で見つけた格納モジュールと同じくらいか、それ以上の規模の残骸らしい。雫の話では、中には数百人を一年以上養える食料があったという。
「それだけあれば、みんな助かるんじゃないの?」
陽奈が首をかしげる。
「そう思うでしょ。でも、そうならなかった」
雫は、三つ編みを弄りながら続ける。
「食糧庫を最初に発見したのは、とある五人ほどのグループだった。元々、地球では仕事か何かの仲間だったみたいで、まとめて同じところに落下したみたい。で、彼らは食糧庫を独占して、他の生存者にはただでは分配しないと言いだしたの」
「え、でもそれって・・・・・・どうして、そんなことをするんでしょうか」
葉月は、心の底から疑問だという感じだ。
「リーダー格の女によれば――名前は、たしかエインダとか名乗っていたっけ――『資源は管理できる者が管理すべき。それが、この星で秩序ある生活を営むための鉄則だ』とかなんとか。もっともらしい御託を並べているけれど、要は自分たちが他者を従えたいだけなのよ」
「まるで王様気取りだな」
俺は思わず声に出していた。
「うん、確かにそんな感じ。食糧庫を城みたいに占拠して、自分たちのルールで全てを決めている。従う者には十分な食料が与えられる。逆らえば追放される。武力で抑えつけるための武器も、食糧庫の中から見つけたみたい」
「そんな・・・・・・みんな同じゼウス号の生存者なのに」
陽奈が顔を曇らせる。雫は、話を続ける。
「私も、こんなことをする人たちがいるなんて、最初は信じられなかった。でも、それが現実だった。私は従うのは嫌だったから、食糧庫を離れて一人で生きることにした。さっさとポッドで再び冬眠した人もいる。あそこには今、三十人ほどの生存者が集まっているはず」
「その三十人は、どんな人たちなんだ?」
「色々ね。一部は積極的にエインダに従っている。一部は生きるために、仕方なく。そして、私みたいに離脱した者もちらほら。でも、この大陸で一人で生きるのは簡単じゃないからね。食料を探すのも、水を確保するのも、原生生物から身を守るのも。冬眠ポッドで眠る選択が、本当は一番かもね」
雫はそこで言葉を切り、少しだけ自嘲気味に笑った。その言葉を、陽奈が穏やかに否定する。
「そんなことないです」
その声は、静かだが、はっきりとしたものだった。
「わたしだって、同じ状況だったら、雫さんと同じ選択をすると思います。いや、どうかな。すぐにポッドに逃げたかも」
「そうかしら・・・・・・」
「そうです。少なくとも、雫さんは何も悪くありません。わたしたちだって、リヒトくんがいなかったら、どうなっていたか分かりませんし・・・・・・」
「リヒトくん・・・・・・」
雫は俺の顔をじっと見つめてくる。あの、そんなにじっと見られると、ちょっと気恥ずかしいんですが・・・・・・。
「リヒトくんは、すごいんですよ。一人で私たちの住む家を建てて、水も食料も確保して、畑も作って・・・・・・」
「えぇっ? リヒトくん、あなた、何者なの?」
興味津々の様子の雫。俺は苦笑して答える。
「いえ、大したことありませんよ。ていうか、万能工作機械のデミがすごいんであって・・・・・・」
「謙遜しないの、リヒトくん。あなただって、充分にすごいでしょ?」
楓が、暖かく励ましてくれる。
「雫さん、とりあえず俺たちのベースキャンプに来ませんか? そこで、色々とこれからの対策を話し合いましょう」




