第36話 新たな出会い
昼過ぎまでには、アルゴスの空撮データをもとに、ヨルが周辺の地図を作成してくれた。川の流路、森の密度、地形の起伏が少しずつ明らかになっていく。
「川を遡れば、もっと内陸に入れるな。でも、まずは熱源反応のあった方角を優先したいけれど、どう思う?」
俺が地図を指さす。
「うん、それがいいと思う」
「でも、恐い人とかだったらどうしよう・・・・・・」
不安そうにする楓に、葉月がテーブルの上のクロスボウをポンと叩き、
「大丈夫よ。いざとなったら、私がこれで反撃するから」
「葉月さん、ちょっと恐いです・・・・・・」
「ヨルちゃん、ひかないでよ!? というか、私だって、研修を受けただけで、本当に撃てるかは分からないし・・・・・・」
「まあ葉月、落ち着け。いざとなったら、デミの重力操作を武器にすることも出来るしな」
俺は、葉月をなだめる。それから、空の様子を見る。まだ日は高く昇っている。
「なにはともあれ、ひとまずそこに行ってよう。三キロなら、小一時間ほどだろう」
♢
熱源反応の方角へ向かう俺たちの足取りは、慎重そのものだった。
クロスボウや多機能ナイフを手に手に、一歩一歩、進んでいく。
「この森、島よりずっと古い感じがする。変な言い方だけれど」
楓が巨木を見上げて言う。
「確かに、あの島にはこのサイズの巨木はないよな」
「樹齢三百年ぐらいですかね」
ヨルが答える。
「こんな森がどこまでも続いてるんだ。まだ誰も名前をつけてない場所ばかりだよ」
「名前、つけていく?」
陽奈が近くにあった川を指さす。
「たとえば、あの川はどうする?」
「そうだな・・・・・・ランタン川、とか」
「それ、どういう意味でつけたの?」
「なんとなく」
「リヒトくんのセンス、よくわかんないわね」
葉月が穏やかに笑う。
「ちっ、仕方ねーだろ。ネーミングセンスには、お世辞にも恵まれていないんだ」
そんな軽口を叩きながらも、俺たちの足は確実に熱源へと近づいていた。
森が少しずつ開け、低い丘陵地帯に差しかかる。足元の草は腰の高さまである。アルゴスからの情報では、熱源反応はこの丘陵を越えた先にあるらしい。
「ここからは、さらに慎重に行こう」
「そうね」
葉月がクロスボウを構え直す。
「もし誰かいたら、まずは私が声をかけるね」
陽奈が言う。コミュ力高い陽奈が、そういう役目には適任だろう。
「私は、後ろからサポートする」
楓が静かにうなずく。
「陽奈、危なかったらすぐに逃げるんだぞ」
「分かっているって」
俺たちは丘を越える。眼下に小さな谷が開けた。川の支流が流れ、そのほとりに、焚き火の跡が見える。
「近くにいるかもね」
そろりそろりと、俺たちは丘を下り、焚き火跡に近付く。
「ねえ、リヒトくん。見て。まだ、火を消したばかりみたい」
葉月の指摘通り、まだ火がくすぶっていた
「・・・・・・人の気配があるよ」
楓が、静かに言う。
俺たちは、身構える。
――ガサリ。
茂みが動き、人影が出てくる。葉月がクロスボウを向ける。
「あわわ、待って待って! 撃たないで! 私、丸腰だから」
慌てたような、少しハスキーな女性の声が響く。
出てきたのは、長い黒髪を一本の三つ編みにまとめ、薄汚れたゼウス号の乗員用ジャケットを着た一人の女性だった。見たところ、俺たちとほぼ同年代だ。
俺たちの、新しい邂逅が始まった。




