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第33話 大陸への道


 昨日は調子に乗って、肉を沢山食べ過ぎた。 そういうわけで今日の朝ご飯は簡単なもので良いだろうということで、俺たち四人の意見は一致した。ラズルグレナを利用したスープと、簡単な野菜料理を支度して、軽めの朝食を終えたとき、ヨルからのメッセージが届く。


「みなさん。昨晩、この島付近の海域を探索していたアルゴスが、大陸沿岸部で熱源反応を検出しました。自然発火とは考えられず、おそらく焚き火、あるいは何らかの人為的な火です」


 俺は手に持っていた工具を置く。陽奈ひな葉月はづきが顔を見合わせ、かえでが息を呑む。


「誰かいるのか」

「確定はできません」


 大陸に誰かがいる。恐らくゼウス号の乗員だろう。しかし、それを確かめる必要がある。

「どうやら、いよいよ大陸に渡るときが来たようだな」


 俺が言うと、陽奈が拳を握った。


「やろうよ! ずっと話してきたじゃん、リヒトくん」


「そうね・・・・・・」「いよいよ、この島の外に出るんだね」


 葉月も口元をほころばせ、楓も静かにうなずいた。


「よし、早速、大陸行きの準備を始める。保存食、水、探索用の装備。必要なものを全部揃そろえるぞ」

「「「りょーかい!!」」」


 威勢のいい声が、室内に響き渡る。



 まずは保存食の用意だ。調理場の横には、これまで作ってきた燻製くんせいや干物が蓄えられている。だが大陸までの航海と、到着後の探索を考えると、もう少し欲しい。


「燻製器をフル稼働させよう。ヨル。釣りマシンも、今日は漁獲量をできるだけ増やしてくれ」


 ヨルにそう頼み、デミでさらに燻製ラックを二段追加する。


「魚だけじゃなく、アルテミスが捕ってきたクサムラウサギも燻製にしよう」


 葉月が早速、アルテミスの狩ってきた肉をさばいて、塩漬けにし始める。


「燻製だけじゃなくて、干物も作ろうよ」


 陽奈が干し網を広げる。


「ラズルグレナの乾燥ペーストも、携行食としてどうかな?」


 かえでが提案する。


「いいな。栄養価が高いし、軽い」


 デミで作った圧縮成型器を稼働させて、ラズルグレナペーストを板状に固めて乾燥させる。湯で戻せばすぐにスープになる。


 保存食のリストはみるみる長くなっていく。魚の燻製、ウサギ肉の燻製、干し魚、ドライフルーツ、乾燥野菜、ラズルグレナの携行食、それから非常用の魚粉。どれも軽量で日持ちするものばかりだ。


「水はどうするの? 大陸の水が飲めるかわからないよね」


 陽奈の疑問に俺は答える。


携帯型けいたいがた濾過器ろかきを作ろう。オデュッセイア号にも装備する。海水でも川の水でも、これを通せば安全に飲める」


 俺はデミで円筒形の濾過器をいくつも作り、フィルターを組み込む。



 保存食と水の準備を進める一方で、俺たちは探索用の装備も次々に作り出していく。


「まずは多機能ナイフ。一人一本、携帯するやつだ」

 デミで高炭素鋼を削り出し、刃渡り十センチの頑丈なナイフを四本作る。グリップには滑り止めのラバーを巻き、鞘には簡易の火打石も仕込んだ。


「次は、携帯用の簡易テントだ」


 建築資材モジュールにあった合成繊維をデミで縫い合わせ、軽量で防水性の高いシートを作る。ポールは軽合金の折りたたみ式で、設営も撤収も数分で済む。


「照明はラズルグレナの発光パネルで足りるが、遠くを照らす用のライトもいるな」

「タロスの予備パーツに、高輝度LEDがあったので、それを流用しましょう」


 ヨルの助言で、小型のハンディライトも四本完成。


「それから、これは葉月に」


 俺は小型のクロスボウを差し出す。矢はデミで量産し、専用のクイーバーに二十本を収めた。


「これ、私に?」

「ああ。葉月、使い方は分かるか?」

「ありがとう。うん、大丈夫。一通り訓練は受けているし。これなら遠距離から安全に仕留められる」


 葉月はクロスボウを手に取り、感触を確かめるように構えた。


「それと、これはみんなに」

 俺はデミで作ったフィールドノートと防水ペンをみんなに手渡す。紙は合成樹脂を混ぜて水に強くしてある。


「記録用だ。地図を描いたり、新しい生き物のスケッチをしたり・・・・・・色々な用途で使ってくれ」


「うん、任せて!」


 深く首肯して、陽奈、葉月、楓はそれぞれノートを受け取った。



 そして最後に、オデュッセイア号の整備だ。アクアベースにて、と電動機を点検する。船底の点検ハッチを開け、バッテリーの状態を確認。電池を補助電源として追加し、万が一の時に備えた。


「船内に水と食料を積み込むスペースを確保します。デッキには簡易シェルターを設置。天候が悪化した場合も船内で過ごせます」


 ヨルが設計図を示す。オデュッセイア号はもともと六人乗りの小型船だが、今回は四人、そして大量の物資を積む。重量バランスを慎重に計算する必要があった。




 丸二日、俺たち準備に明け暮れて、創星村そうせいむらは大忙しだった。


 燻製器は煙を絶やさず、干し網には魚や肉がずらりと並び、デミは休む間もなく道具を作り続けた。陽奈は保存食のパッキングを担当し、楓が重量と栄養バランスを計算しながらリストを整理する。葉月は積み荷の検品とオデュッセイア号の船体点検を一手に引き受けた。


 そして出発前夜。


 調理場のテーブルには、これまでの成果が並んでいた。燻製、干物、乾燥野菜、ドライフルーツ、ラズルグレナ携行食、濾過器、密封水容器、多機能ナイフ、簡易テント、ハンディライト、クロスボウ、中継アンテナ、フィールドノート・・・・・・。


「なんか、引っ越しみたいだね」


 テーブルの上に並べられた物を見て、陽奈が笑う。


「でも、これだけあれば、向こうで何があっても大丈夫な気がするね」


 葉月がうなずく。


「よく考えたら、すごいよね。私たちの村でこんなにたくさんのものを作ったなんて・・・・・・」


 楓がしみじみと言う。


「ああ。あとは人事を尽くして天命を待つだけだ」


 俺は窓の外を見る。海の向こうには、まだ見えない大陸がある。


 明日はいよいよ出発だ。


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