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第3話 まさかの遭遇


「・・・・・・蛍坂くんも、ゼウス号に乗っていたんだね」


 森の中を俺と一緒に歩きながら、陽奈ひなは、俺にそう話しかけてくる。


 蒼海あおみ陽奈ひな。地球でクラスメイトだった少女。とはいえ、そこまで親しいわけではなかった。俺がクラスの隅っこにいる系なら、彼女はいつもクラスの中心にいるタイプだった。


蒼海あおみはどうして、ゼウス号に乗ったんだ?」

「・・・・・・家族の都合で。友達も一緒、というのもあったけれど。蛍坂くんは?」

「俺は・・・・・・あのまま地球にいても、なんか人生つまらないかな、て思ってさ。惑星コンスタンティアで、なんかやれないかなー、て。それでゼウス号の移民に応募した、て感じ」

「なんか、随分と単純な理由だね」

「ま、そんなものさ」


 家族の乗ったポッドはどうしたんだろうな、という質問が、喉元まで出てきて、言わずに飲み込む。恐らく無事ではあるのだろうが、ぶしつけにそれを話題にするのはためらわれた。


「それで、わたしをどこに連れていくつもりなの?」

「ああ、ちょっと待ってな・・・・・・」


 それから五分後。ようやく、俺が拠点とした場所に到着した。 


「え? 蛍坂くん、あれって・・・・・・家?」


 中央の巨木から少し離れたところで、万能工作機械・デミによるゼウス号の残骸から作られた家が、ほぼ完成していた。


「えっ・・・・・・蛍坂くん、これ全部ひとりで作ったの? わたしたち、遭難してからまだたった一日くらいしか経っていないよね?」

「厳密には俺じゃなくて、万能工作機械がやっているんだ」


 俺は包み隠さず、万能工作機械を入手した経緯を説明する。


「へえ・・・・・・」


 感心したように、完成した俺の新居を眺める陽奈ひな


 家の中に入り、俺ははたと気付く。どうしようか。この家は、俺一人用に作ってしまっている。彼女の分を用意していない。


「ヨル、どうしたらいいかな?」

「デミちゃんに頼んで、もう一部屋作ってもらいましょう」


 そうだ。その手があるな。


「蛍坂くん、誰と喋っているの?」

「サポート音声AIのヨルだ。蒼海あおみさんのポッドにも、搭載されていなかったのか?」

「ううん・・・・・・」


 静かに首を振る彼女。


「ひょっとして、不時着時に壊れたかもしれませんね。リヒトさん、予備の通信用イヤリングを持っていましたよね?」

「ああ」

陽奈ひなさんに、渡してください。これで私たちみんな会話できますよ」


 俺は、ポケットから予備の通信用イヤリングを手渡す。彼女は、そっとそれを自分の耳につける。


「これは・・・・・・?」

「こんにちは! アシスタントサバイバルAIのヨルです」

「うわっ!?」

「あ、ごめんなさい! ひょっとして、音が大きすぎましたか? ただいま音量調整を・・・・・・」

「いや、そうじゃなくてちょっとびっくりしただけ・・・・・・」


 とりあえず、落ち着きを取り戻す陽奈。


「これで陽奈さんも、わたしの音声を聞けますね!」 

蒼海あおみさん、色々と助けになるぞ、ヨルは」

「そ、そうなんだ・・・・・・」


 いまだ半信半疑といった感じだが、そのうちヨルとも仲良くなれるだろう。


「それで、蒼海あおみさん・・・・・・」

陽奈ひな、でいいよ」

「そうか。・・・・・・じゃあ俺もリヒトで」

「うん。リヒトくん、よろしくね」

「どういたしまして」


 陽奈の表情が安堵あんどゆるみ、笑顔になる。その顔を見ると、俺まで安心した気持ちになれた。


「あ、それじゃ俺、食べ物を取ってくるから・・・・・・」


 そういえば、釣りマシンの横に設置していた濾過器ろかきは上手く作動しているのだろうか。湧き水を発見したから、濾過器ろかきなんか必要なくね? とか言っていていたが、あっさり他の遭難者と合流して、早速必要になりそうだ。

 

♢ ♢ ♢


 パチパチと燃える炎が、半径1メートルほどをうっすらと照らしている。その周囲には、串刺しにされたこの惑星特有の魚類たちが、良いあんばいに焦げていて、香ばしい匂いが辺りに立ちこめている。


「そろそろ焼けたかな。それじゃ、いただきます」

「いただきます」


 陽奈が、魚を焼くための串を一本取り、口に運ぶ。


「・・・・・・おいしい」

「そうか。それならよかった」


 しばし、黙々と食事にいそしむ俺たち。俺たちの間に静寂が流れる。

 その静寂を、陽奈が打ち破る。


「・・・・・・リヒトくんは、すごいよね。たった一日で、食料と水を確保して、家まで建てちゃうなんて・・・・・・」

「俺がすごいんじゃない。万能工作機械のデミがすごいんだ」

「でも、それをちゃんと使いこなしているじゃん。わたしだったら、絶対に無理だったな・・・・・・」


 火の粉がパチリと音をたててはじけた。


「わたし、どうしたらいいか分からなかった。目が覚めたら、周囲に誰もいなかったし・・・・・・だから、リヒトくんに出会えて、本当に良かった」


 陽奈が目を細めた。


「でも面白いよね。わたしたち、地球では同じクラスで・・・・・・そしていま、何十光年も遠くのこの惑星で、こうして一緒にワイルドな食事をしている・・・・・・夢にも思わなかった」

「それはこちらも同じだよ」


 地球で同じクラスだったとき、陽奈に対して悪いイメージは無かった。というか、良いイメージしか無かった。誰とでも分けへだてなく接して、周囲を太陽のように明るく照らす、そんな元気いっぱい快活さを絵に描いたような女の子。


 食事を終えて、焚き火を消して、住居に向かう。日が暮れていて、もう薄暗くなっている。


 そろそろ寝ようかな。そう思ったとき、俺はあることに気付く。


「あ、しまった・・・・・・」

「どうしたの、リヒトくん」

「すまん。俺、陽奈に会うとか想定していなかったから、あの家、ベッドを一台しか作っていない・・・・・・俺はポッドで寝るから、陽奈は使ってくれ」

「ええっ・・・・・・!? いや、それはさすがに悪いよ。せっかくリヒトくんが建てたのに・・・・・・」

「だけれど、今からデミを動かして、もう一件家を建てるのも時間がかかるしなあ・・・・・・」


 ここはいさぎよく、俺が譲ればいいだろう。


 しかし――陽奈は、住居の内部をのぞいて、それからこちらを振り向き、こう提案してきた。


「それじゃあさ・・・・・・今夜は、一緒に寝る?」


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