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第2話 水の確保、そして家をつくろう


 ポッド内の寝心地ねごこちはお世辞にも良いとは言えなかった。そのためか、まだ薄暗い早朝に目が覚めた。


「おはようございます、リヒトさん!」


 ヨルは快活な朝のあいさつをしてくる。


「おう、おはよう。ヨル」


 とりあえず喉が乾いているので、水筒の水を飲む。一晩寝ているあいだに、大気中の水分を集めて満タンになっていた。


 しかし、このポッドだけに頼るのは、ちょっと不安だよな。いつ装置が故障するかも分からないし。


「リヒトさん、とりあえず朝ご飯にしませんか? 自動釣りマシンに何かかかっているでしょうし・・・・・・」


 そうだな。一晩中動かしていたので、何か釣れているだろう。


 俺は、釣りマシンの方へと向かう。


 夜のうちにも、沢山の魚が釣れていた。ヨルが解説を始める。 


「お、サンドフラットが今日も二匹ですね。それからこれはジュリアウィード・・・・・・」


 惑星コンスタンティアが発見されたのは、およそ十年前だ。それから俺たちが移民する今日こんにちまでの間に、調査隊が何度か派遣されて、調査用ドローンが惑星内を隅々まで探索した。そのときに発見された生物や鉱物、気候などに関する膨大なデータは、この惑星が生存可能なものだということをあらゆる面から示していた。ヨルは、その膨大なデータと付き合わせて、解説してくれているのだろう。


「・・・・・・お、リヒトさん! それ、いいもの見つけましたね! それはエナ・ウナギじゃないですか」

「ウナギ?」

「見た目がウナギに似ているから、そういう名称になったそうです。実際はこの惑星特有の海洋生物なのですが・・・・・・特徴的なのは、その体表を覆う膜です」


 確認してみると、その細長い全身が、透明なゼリーのベールで覆われている。


「この膜は、元々このエナ・ウナギの水分蒸発を防ぐ機能を果たしているんですね・・・・・・えーと、つまり簡単に言うと、このウナギを利用すれば、水の濾過器ろかきが作成できる、てことです」

「なに? それは本当か?」

「はいです。デミちゃんに命じれば、恐らくすぐに作ってくれますよ!」


 それはありがたい。水の確保はやはり重要だ。 


 俺は早速、ポッドの側に置いていた万能工作機械デミの所に、エナ・ウナギを持っていく。


 ビビビ・・・・・・という音を建てて、早速デミが作業を開始する。二十分ほどあれば、作業は完了するそうだ。


「ヨル。ところで、森の方も探索したいのだが、いいか?」

「はい! 事前調査データによると、この一帯には地球人類の脅威となるような動物は一切存在しないとのことです」


 そうか。なら安心だ。いつまでもこの砂浜にいるばかりなのも、良くないしな。


 俺はテクテクと歩いて、うっそうとした森の中へと足を踏み入れる。


 ヨルの太鼓判のおかげかは分からないが、不思議と安心して俺は森の中へと入ることができた。


 うっそうとした森の中を歩くこと十五分ほど。不意に、開けた場所に出た。


「おおっ・・・・・・」


 目の前に広がる光景を前に、俺は思わず息をのむ。


 森の中にぽっかりとできた空間。穏やかな緑が広がっていて、暖かな陽光が周囲に満ちている。


 広場の中央辺りには、巨大な樹木がひとつ、どっしりと根を張っている。まるでこの辺りの守り神のようだった。


「すげえな、ここ・・・・・・よし、決めた。俺、ここに住む」

「はい! それが良いかとヨルも思います! リヒトさん、巨木から向かって右側の方へ、ちょっと歩いてください・・・・・・ほら、岩壁が見えますでしょ?」


 俺は言われた通りにする。すると、どうしたことだろうか。まるでここを守るようにそびえ立つ岩壁にある割れ目から、小さな湧き水が流れていた。手ですくって口にしてみると、真水まみずだった。やたらと上手い。


「これで、水問題は解決ですね!」

「ああ。でも、せっかくデミに、濾過器ろかきを作ってもらっていたのに、無駄になってしまったな」

「そんなことはありません! 確かに、リヒトさんだけなら、この湧き水でも充分でしょう。でも、よく考えてください。ゼウス号には、沢山の人たちがいたんですよ? そういう人たちと遭遇したとき、きちんとした飲み水を提供できれば、すぐに仲間になってもらえます」


 ヨルの言うことも一理あるな。


 俺は周囲の空間を見回す。綺麗な水がすぐ近くにある。日当たりも良い。面積もけっこうある。


「ヨル。ここを拠点にしようと思うんだがねどうだ?」

「私も同じことを考えていました」


 ならば、大丈夫だろう。決まりだ。ここを、ひとまずの拠点場所にしよう。


「ヨル。デミを使って、ここに家を建てることはできるか?」

「はい! 早速デミちゃんに頼んでみましょう」

 

 ということで、海岸に置いてきた万能工作機械・デミのところへと戻る俺。

 デミはすでに濾過器ろかきを完成させていた。とりあえず試験運転として、その濾過器を海岸沿いに設置しておく。


 デミの行動は早かった。俺が住居建築を命じると、浜辺にあるゼウス号の残骸を素早く解体し始める。瞬く間に、住居用の金属の建築資材が積み上がる。


 それから重力操作モードに切り替える。とても俺ひとりで運べない重さの資材も、無重力にすればなんのその。ふわふわと空中を漂いながら、拠点へと運び込む。それから後は、デミが自動で建ててくれる。


「ヨル。せっかくだから、また森を探索するよ。そろそ果実とかも食べたくなったし」

「了解です。おいしい果物くだものが沢山ありますよ、この惑星には」


 森の中に、踏み入る俺。


「ヨル、これは食べられるのか?」

「はい。それはブラスト・オレンジと言ってですね・・・・・・」


 地球と極めて似た環境だからだろう。木々になっている果物くだものも、似たようなものが多かった。ポッドに内蔵されていたサバイバルナイフを使って、採取していく


 そうしてカバンが果実でいっぱいになり、そろそろ拠点に帰ろうと思ったとき。


 ガサゴソッ・・・・・・! 前方の茂みが、不意に音をたてて揺れた。


 俺は思わず身構える。この惑星特有の生物だろうか? ヨルは危険ではないと言っていたが、絶対とは限らない。まだ見つかっていない危険な動物がいるかもしれないのだし。


 はたして、サバイバルナイフ一本で戦えるだろうか。いや、ここはおとなしく逃げることにしよう。俺は、いつでも走り出せるように、体の向きを変える。

 

 バサバサッ!・・・・・・ 茂みから、黒い塊が出てくる。

 

 しかし――その姿を見て、俺は逃げモードを解除する。

 

 なぜなら、俺の目の前に現れたのは、危険なけものではなく人間だったからだ。


 茂みの中から転がるように出てきたのは、一人の少女だった。俺と同じ白い服を着ていて、肩まで伸びた黒髪は乱れていて、ところどころに葉っぱがからまっている。顔には擦り傷があり、大きな瞳が不安と警戒心で揺れていた。


 だが――俺を真に驚かせたのは、彼女の顔だった。まさか、こんな偶然があるとは・・・・・・。


蒼海あおみ、さん?」


 少女の瞳が驚きで、一際ひときわ大きく見開かれる。彼女の桜色の唇が動いて、言葉をつむぐ。


蛍坂ほたるざか、くん?――」


 俺の目の前に現れたこの少女は、地球で同じ学校で、かつ同じクラスでもあった、蒼海あおみ陽奈ひなだった。


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