第27話 三人目の遭遇
天王寺楓。教室ではいつも静かに本を読んでいるようなタイプのクラスメイト。俺自身、まともに話した記憶はほとんどない。
「・・・・・・蛍坂くん? それに、蒼海さんに、土御門さん? どうして三人が、ここに?」
楓はゆっくりとまばたきをした。まだ眩しさに慣れていないのか、目を細めている。その声は静かで、どこかかすれていた。
「楓ちゃん! 本当に楓ちゃんなの!?」
陽奈が叫んで駆け寄る。
「蒼海さん……本当に、本物?」
「本物だよ! 私も、リヒトくんも、はづも、みんな本物! あ、わたしのことは陽奈でいいよ!」
楓はふわりと微笑み、そのままぺたりと砂の上に座り込む。
「ごめんなさい、ちょっと足に力が入らなくて」
「無理もない。長いあいだポッドに乗ってたんだろ」
俺はしゃがみ込んで、楓の顔をまじまじと見た。顔色は悪くないし、目に生気もある。
「ヨル、彼女の状態は?」
「ポッドの生体データを確認しました。栄養状態がやや低下していますが、生命に危険はありません。まずは水分補給を」
ヨルの言葉を受けて、葉月が水筒をっと差し出す。楓はそれを受け取り、ゆっくりと水を飲んだ。
「ありがとう、葉月さん」
「いいの。それより、よく無事でいたわね」
「私も、まさかみんなに会えるなんて思ってなかった・・・・・・でも、これはどういう状況なの? 私たちは、ゼウス号で惑星コンスタンティアへ向けて出発したはず・・・・・・」
「それは・・・・・・話せば長くなる。歩けるか?とりあえず、俺たちの拠点に行こう」
♢
楓を連れて創星村へ戻る道すがら、俺、陽奈、葉月の三人は今の状況について楓に解説する。
「つまり、ゼウス号は何らかのトラブルで惑星コンスタンティア大気圏突入時に爆散、私のポッドは、ゼウス号から射出された後、海に落ちた、てことなんだね。それでずっと海中を漂っていた・・・・・・」
「大変だったね」
「でも、私は安全なポッドのなかで眠っていただけだから・・・・・・」
そう言って、楓は小さく微笑む。
「それより、この星に降り立って最初に出会ったのが、まさかクラスメイトのあなたたち三人だったなんて。すごい偶然ね」
「ああ、まったくだ」
そう話しているうちに、村に到着した。
「ここは私たちの村。名前は創星村っていうの」
「創星村・・・・・・いい名前だね」
「今、人口は人間三人に、AIひとり。でも今日からは人間四人だ」
俺が言うと、楓は少しだけ目を大きくした。
「私も、ここにいていいの?」
「もちろんに決まってるでしょ! あ、もちろん楓ちゃんが良ければ、だけれど!」
陽奈が、楓の手を取る。
「友達が増えるのは大歓迎だよ。ね、はづ!」
「あたりまえでしょう。人手が多いに越したことはないわよ」
「ありがとう・・・・・・」
楓はそう言い、それから空を見上げた。青い空が、どこまでも広がっている。
「この星には何もないけど、そのぶん何だって作れる。俺たちの村も、まだまだ小さな集落だけど、もっともっと大きくなる」
「頼もしいね」
楓がくすりと笑う。その笑顔は、教室では見たことのないものだった。自然で、どこか晴れやかなその笑顔を目の当たりにして、俺は初めて、この天王寺楓という女の子のことを知れた気がした。
楓は居住棟を見て、調理場を見て、畑を見て、そのたびに小さく感嘆の声をあげた。
「これ、全部みんなが作ったの?」
「ああ。厳密には、万能工作機械のデミでな。それで道具も家も作れる」
「あと、ケレスっていう耕作機械もいるんだよ」
陽奈が格納庫を指さす。
「すごい・・・・・・まるで、開拓時代みたいね」
「まあな」
俺たちは、案内を続ける。
♢
一通りの案内が終わったあと、楓は少し休みたいとのことだったので、陽奈の部屋を貸して休んでもらうことにした。
俺、陽奈、葉月の三人は調理場でちょっとした作業をする。
「まさか楓ちゃんが来るなんてね」
陽奈が、沸かした湯で茶を入れながら言う。
「クラスメイトがこれで四人目。すごい確率だよね。これって、偶然なのかな?」
「ゼウス号に乗っていた三十万人の脱出ポッドが、どのへんに散らばっているかなんだろうけれどな。この島の近辺に集中してるのだろうか」
にしても、こうも同じクラスの人間ばかりとはな。
「ひょっとして、うちのクラス全員、ゼウス号に乗っていた、て可能性も考えられるな」
「さすがにそれは・・・・・・何人かは、乗らないって言っていたよ」
「いずれにせよ、これで私たちは四人家族ね」
葉月が言う。
「家族・・・・・・葉月、その表現は・・・・・・」
「ん? あ、そうね・・・・・・」
葉月は少し顔を赤くして、慌てたように視線を逸らして、テーブルの上に置かれた茶をすする。
年頃の男子一人に女子三人が家族になる、なんて表現。ちょっと、危ういものを感じる。 陽奈と葉月。ここまで行動を共にしてきたし、彼女たちに好意めいた感情を抱いていないといえば、嘘になる。しかし、まだそういう色恋のたぐいは、控えておきたかった。
「四人家族? はづ、なに言ってんの。ヨルちゃん合わせたら五人でしょ」
陽奈が、察したのか察していないのか分からない口調で、会話の雰囲気を変える。俺と葉月は、顔を見合わせて、どちらからともなく笑う。
「そうね。うん、ヨルちゃんも含めて、創星村の住人は五人よね」
「そうだな」
「べ、別に、私は住人にカウントしてもらわなくても、いいんですからね!」
ツンデレ口調で、ヨルがおどけるように口を挟んでくる。
陽奈がにこやかに微笑む。
「ヨルちゃんも、立派な家族の一員よ」
「ふぇーん、ありがとです陽奈さん・・・・・・」
和やかな雰囲気に、ダイニングが包まれる。 ゆっくりとお茶を飲みながら、俺はその光景を眺める。
人数が増えるたび、この村は少しずつ賑やかになる。声が増えて、笑い声も増えて、それからきっと、できることも増えていく。
他の乗員がどうなったのかは、いまは知るよしもない。だが、まずは新しいメンバー・楓と上手くやっていこう。密やかな決意をする俺だった。




