第26話 小型船の完成、そして試運転
ついに、小型船舶・オデュッセイア号が、無事に動けるようになった。
それほど沢山の時間をかけてきたわけではないし、作業のほとんどは万能工作機械のデミがやってくれているのだが、やはり感慨深いものがある。
俺たちは、アクアベースで進水式を執り行う。
「すごいねリヒトくん!」
陽奈が興奮を隠しきれないように言う。
俺は、水平線の彼方にうっすらと浮かぶ、大陸の影を見る。
「さあ、目指すは大陸・・・・・・と言いたいとこだけれど、まずは島の周囲でテストドライブといこう」
「いいね、それじゃすぐいこ!」
俺たちは、オデュッセイア号に乗りこむ。
♢
ざっぷんざっぷんと波に揺られながら、オデュッセイア号は、発進する。
「おお、本当に動き出したね!」
「ちょっと感動するわね」
二人とも、満足げだ。
「感度、視界、共に良好ですね。今日は航行しやすいです」
操縦を一任してくれるヨルも、ご機嫌な声だ。
「ヨルちゃん、ありがとうね」
「いえいえ、それでは参りましょう。島一周ツアーの始まりです」
潮風の匂いが、心地よい。
「この辺りの海岸部は、断崖絶壁ですね・・・・・・それから、続いては、北側の沿岸部です。あ、ここからだと私たちが登った山が見えますね」
ヨルの解説を聞きながら、俺たちは無人島をぐるりと一周する形で、船を走らせていく。
「こうして見ると、この島って思ったより大きかったんだね」
「普段は何気なく生活しているけれどね」
オデュッセイア号、どうやらどこにも問題はなさそうだな。この調子だと、近いうちに大陸に足を踏み入れるのも、夢じゃないだろう。
「やっほー!!」
唐突に、陽奈が海に向かって大声で叫ぶ。葉月もそれに続く。
「二人とも、なにやってるんだ?」
「ほら、なんかさ、大海原に出れた解放感? みたいな」
「まだ、島の付近をうろついているだけだがな」
「いいじゃん、細かいことは! さ、リヒトくんも思いっきり、海に向かって叫ぼう!」
「俺もかよ・・・・・・」
そう言いつつ、俺は海に向けて思いっきり声を張り上げる。
うん、実に良い気分だな。陽奈と葉月の気持ちも分かった気がする。
♢
オデュッセイア号のテスト航海は無事に終了した。結果は成功と言って良かろう。動作ほか、何一つ異常はなかった。
そうして、俺たちが遅めの昼食をとっているときだった。
「リヒトさん、陽奈さん、葉月さん。ちょっとよろしいですか」
いつもより少しだけ張りつめていたヨルの声が、俺たちに話しかける。
「どうした?」
「数時間ほど前、トリトンが海を漂流中の小型の人工物を捕捉しました。海流などを計算した結果、今日中には島の北東部の海岸に到着するとのことです」
「へえ。それって、またゼウス号の残骸とか?」
「トリトンの感度だけでは、そこまでの判定は困難でした。そこで、空中用ドローン・アルゴスを飛ばして、海域のスキャンを実施しました。その結果、形状から、ゼウス号の脱出ポッドである可能性が極めて高いと判断します」
「脱出ポッド・・・・・・!?」
陽奈が立ち上がる。
「ということは、ゼウス号の乗員よね?」
「はい、恐らくは」
「数は?」
「一基です。」
「あとどれくらいでこの島に着くか、分かる?」
「一応、現在の計算ですと、約一時間半後に北東部の砂浜へ漂着する見込みです。ただし、海流等の条件次第では、変わるかもしれません」
俺と陽奈と葉月は顔を見合わせた。また新たな生存者がいる。それも、今まさにこの島に近づいている。
「行こう」
俺は即断した。
「葉月のときと同じだ。誰が乗っているかわからないけど、助けられるなら助ける」
「もちろんよ」
葉月がうなずく。
「私も行くよ!」
食事をかきこんだ陽奈は、すでに出入り口へ向かっていた。
三人で北東の海岸を目指す。北東部の海岸は、まだ踏み入れていない場所だったが、アルゴスの三次元地図によって、最適なルートが示される。森を抜け、岩場を回り込み、普段はあまり来ない島の東側へと足を踏み入れて、俺たちは海岸を目指す。
思いのほか時間がかかり、結局、ヨルからの報告を受けて二時間ほどで、ようやく海岸に到着した。
「ここが・・・・・・北東部の海岸か」
「まだ来ていないのかしら?」
「あ、見て! あれだよ」
陽奈が指さす。海岸線の向こう、青い海の上に、小さな白銀色の物体が浮かんでいる。あれは間違いなく、俺たちが乗っていたものと同じ脱出ポッドだ。ポッドはゆっくりと波間に揺られながら、砂浜へと近づいてくる。俺たちはその様子を、固唾を飲んで見守る。
砂浜に着くと、ポッドが波打ち際に乗り上げる。流線型のカプセルが、ざざあ、という波の音とともに、少しだけゆらゆらと動き、最後は砂の上に落ち着く。
「ヨル、このポッド、どういう状況か分かるか?」
「はい。恐らく、このポッドはゼウス号大気圏爆散時に、無事に脱出したものの、陸地に着陸することが出来ず、海に不時着。それで、自動航行モードに切り替わり、海面をずっと漂流して、いまこうしてここに到着したとのことでしょう。ちょっと待ってください。いま、このポッドのAIと通信を試みます・・・・・・はい、大丈夫そうです。とりあえず、ハッチを開けます」
ポッドの表面で、シールドがかすかに発光し、やがてハッチがゆっくりと開き始めた。蒸気のような白い霧が内部から流れ出て、潮風に散っていく。
俺たちはその様子をじっと見守る。
ハッチの中から、まず手が見えた。細くて白い、女性の手だった。続いて肩、頭と現れて、全身が見える。
「・・・・・・えっ!?」
陽奈が素っ頓狂な声をあげた。しかし、それは俺たちも同じ気持ちだった。
出てきたのは、俺たちと同じ年頃の少女だった。肩まで伸びた明るい茶色の髪、すらりとした長身、切れ長の瞳──見覚えがある。
「天王寺・・・・・・さん?」
葉月の口から、自然と名前がこぼれた。
ポッドの中から出てきたのは、天王寺楓。俺、陽奈、葉月の三人の、地球でのクラスメイトだったのだ。




