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第26話 小型船の完成、そして試運転


 ついに、小型船舶・オデュッセイア号が、無事に動けるようになった。


 それほど沢山の時間をかけてきたわけではないし、作業のほとんどは万能工作機械のデミがやってくれているのだが、やはり感慨深いものがある。


 俺たちは、アクアベースで進水式を執り行う。


「すごいねリヒトくん!」


 陽奈が興奮を隠しきれないように言う。


 俺は、水平線の彼方にうっすらと浮かぶ、大陸の影を見る。


「さあ、目指すは大陸・・・・・・と言いたいとこだけれど、まずは島の周囲でテストドライブといこう」

「いいね、それじゃすぐいこ!」


 俺たちは、オデュッセイア号に乗りこむ。

 


 ざっぷんざっぷんと波に揺られながら、オデュッセイア号は、発進する。


「おお、本当に動き出したね!」 

「ちょっと感動するわね」


 二人とも、満足げだ。


「感度、視界、共に良好ですね。今日は航行しやすいです」


 操縦を一任してくれるヨルも、ご機嫌な声だ。


「ヨルちゃん、ありがとうね」

「いえいえ、それでは参りましょう。島一周ツアーの始まりです」

 

 潮風しおかぜの匂いが、心地よい。


「この辺りの海岸部は、断崖絶壁ですね・・・・・・それから、続いては、北側の沿岸部です。あ、ここからだと私たちが登った山が見えますね」

 

 ヨルの解説を聞きながら、俺たちは無人島をぐるりと一周する形で、船を走らせていく。


「こうして見ると、この島って思ったより大きかったんだね」

「普段は何気なく生活しているけれどね」


 オデュッセイア号、どうやらどこにも問題はなさそうだな。この調子だと、近いうちに大陸に足を踏み入れるのも、夢じゃないだろう。


「やっほー!!」


 唐突に、陽奈が海に向かって大声で叫ぶ。葉月もそれに続く。


「二人とも、なにやってるんだ?」

「ほら、なんかさ、大海原おおうなばらに出れた解放感? みたいな」

「まだ、島の付近をうろついているだけだがな」

「いいじゃん、細かいことは! さ、リヒトくんも思いっきり、海に向かって叫ぼう!」

「俺もかよ・・・・・・」


 そう言いつつ、俺は海に向けて思いっきり声を張り上げる。


 うん、実に良い気分だな。陽奈と葉月の気持ちも分かった気がする。



 オデュッセイア号のテスト航海は無事に終了した。結果は成功と言って良かろう。動作ほか、何一つ異常はなかった。


 そうして、俺たちが遅めの昼食をとっているときだった。


「リヒトさん、陽奈さん、葉月さん。ちょっとよろしいですか」


 いつもより少しだけ張りつめていたヨルの声が、俺たちに話しかける。


「どうした?」

「数時間ほど前、トリトンが海を漂流中の小型の人工物を捕捉しました。海流などを計算した結果、今日中には島の北東部の海岸に到着するとのことです」

「へえ。それって、またゼウス号の残骸とか?」

「トリトンの感度だけでは、そこまでの判定は困難でした。そこで、空中用ドローン・アルゴスを飛ばして、海域のスキャンを実施しました。その結果、形状から、ゼウス号の脱出ポッドである可能性が極めて高いと判断します」


「脱出ポッド・・・・・・!?」


 陽奈が立ち上がる。


「ということは、ゼウス号の乗員よね?」

「はい、恐らくは」

「数は?」

「一基です。」

「あとどれくらいでこの島に着くか、分かる?」

「一応、現在の計算ですと、約一時間半後に北東部の砂浜へ漂着する見込みです。ただし、海流等の条件次第では、変わるかもしれません」


 俺と陽奈と葉月は顔を見合わせた。また新たな生存者がいる。それも、今まさにこの島に近づいている。


「行こう」


 俺は即断した。


「葉月のときと同じだ。誰が乗っているかわからないけど、助けられるなら助ける」

「もちろんよ」


 葉月がうなずく。


「私も行くよ!」


 食事をかきこんだ陽奈は、すでに出入り口へ向かっていた。



 三人で北東の海岸を目指す。北東部の海岸は、まだ踏み入れていない場所だったが、アルゴスの三次元地図によって、最適なルートが示される。森を抜け、岩場を回り込み、普段はあまり来ない島の東側へと足を踏み入れて、俺たちは海岸を目指す。


 思いのほか時間がかかり、結局、ヨルからの報告を受けて二時間ほどで、ようやく海岸に到着した。


「ここが・・・・・・北東部の海岸か」

「まだ来ていないのかしら?」

「あ、見て! あれだよ」


 陽奈が指さす。海岸線の向こう、青い海の上に、小さな白銀色の物体が浮かんでいる。あれは間違いなく、俺たちが乗っていたものと同じ脱出ポッドだ。ポッドはゆっくりと波間に揺られながら、砂浜へと近づいてくる。俺たちはその様子を、固唾かたずを飲んで見守る。


 砂浜に着くと、ポッドが波打ち際に乗り上げる。流線型のカプセルが、ざざあ、という波の音とともに、少しだけゆらゆらと動き、最後は砂の上に落ち着く。


「ヨル、このポッド、どういう状況か分かるか?」

「はい。恐らく、このポッドはゼウス号大気圏爆散時に、無事に脱出したものの、陸地に着陸することが出来ず、海に不時着。それで、自動航行モードに切り替わり、海面をずっと漂流して、いまこうしてここに到着したとのことでしょう。ちょっと待ってください。いま、このポッドのAIと通信を試みます・・・・・・はい、大丈夫そうです。とりあえず、ハッチを開けます」


 ポッドの表面で、シールドがかすかに発光し、やがてハッチがゆっくりと開き始めた。蒸気のような白い霧が内部から流れ出て、潮風に散っていく。


 俺たちはその様子をじっと見守る。


 ハッチの中から、まず手が見えた。細くて白い、女性の手だった。続いて肩、頭と現れて、全身が見える。


「・・・・・・えっ!?」


 陽奈が頓狂とんきょうな声をあげた。しかし、それは俺たちも同じ気持ちだった。

 

 出てきたのは、俺たちと同じ年頃の少女だった。肩まで伸びた明るい茶色の髪、すらりとした長身、切れ長の瞳──見覚えがある。


天王寺てんのうじ・・・・・・さん?」


 葉月の口から、自然と名前がこぼれた。


 ポッドの中から出てきたのは、天王寺てんのうじかえで。俺、陽奈、葉月の三人の、地球でのクラスメイトだったのだ。


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