第25話 お洋服
地球に住んでいた頃の俺は、ごく普通のとりたてて特徴のない少年だったように思う。
成績もそこそこ。運動も、まあそこまで。趣味や容姿その他、平凡を絵に描いたような人間。そういう自認があった。
だから、そういう自分を変えたくて、この惑星コンスタンティアの植民に参加した、ということかというとちょっと違う気がする。そこまで大きな野心などなく、ただなんとなく面白そうだな、と思ったから。そんな理由になるだろうか。
そんな俺だったのだが――この星に来てから、妙な集中力を発揮することがしばしばだ。 現に、いまもネプチューンの水上格納庫の建設に没頭していたら、またしても夜遅くになってしまった。
「おお~、見事です、リヒトさん。完成ですね」
「ああ、まあな」
完成した水上格納庫を見上げる俺。月光に照らされる格納庫。
「この水上格納庫、名前は何にする?」
「うーん、アクアベースとかどうですか? そのままですが」
「お、いいんじゃねえのか。シンプルイズベストだ」
こうして、水上格納庫はアクアベースと名付けられる。
村に帰ると、もうすでに眠っているとばかり思っていた陽奈と葉月がまだ起きていた。
「おっかえり~、リヒトくん」
「二人とも、まだ起きていたのか?」
「うん、リヒトくんが帰ってくるのを待ってたんだ」
ニコニコとそう返す陽奈。「もう、陽奈ったら・・・・・・」と頭に手をやる葉月。
「・・・・・・陽奈。冗談か本気か分からないこと言うの、やめてくれ」
「えー、本気なのに?」
「帰りは待たなくていいよ。別に俺の妻って、わけでもないし・・・・・・つーか、夫婦でも別に待っておく必要もないしな」
「妻!? リヒトくん、なに言っているの!?」
顔を真っ赤にして、声をあげる陽奈。あれ? そういう冗談で言っていたのか・・・・・・? まずい、なんか会話がかみ合っていない気がする。
「まあまあ、二人とも・・・・・・ホントはね、これ作ってて、遅くなったのよ」
手にしたものをひょいと見せてくる葉月。そこには、淡い水色や橙色に彩られた、二着の貫頭衣があった。
「女の子は、やっぱりおしゃれしたくなるものなのよ。だから、洋服をちょっと作りたくなってね・・・・・・男の子のリヒトくんには、分かんないだろうけれど」
「まあ、それはそうだな・・・・・・」
シンプルだが素敵な雰囲気の貫頭衣を目にして、俺は自分がまったくそのことを意識していなかったことに気付かされる。服なんて、着られればなんでも良いという考えだからな。
「デミちゃんに、ミシンとか一通り作ってもらっていたのよね。だから、そこそこ作業は上手くいったね」
「実はね、リヒトくんの分もあるんだよ! ほら、どうかな? サイズ合っている?」
陽奈が、部屋の奥からもう一着、貫頭衣を取り出してくる。そっとそれを手にとる俺。
「ありがとう、陽奈」
「ねえ、試着してくれない?」
「えー・・・・・・了解」
眠たかったが、陽奈と葉月の期待に満ちた顔を見ていると、断れなかった。
俺は言われたまま、上からそれを着てみる。「うん、似合っているじゃん」
陽奈も葉月も満足そうに頬を緩める。
「そうか? 正直、いまひとつ実感が湧かないな」
「陽奈。私たちも、着ましょうよ」
「私たち三人、おそろいだね」
陽奈と葉月も身につける。うん、めっちゃ可愛いな。
「ねえ、はづ。リヒトくん。わたし、ちょっと思い出したんだよね。小さい頃、お洋服屋さんとか夢みていたな、て」
「この惑星で、洋服ブランドでも立ち上げるつもりか、陽奈」
「まだそんなのじゃないけれど・・・・・・でもさ、ひとつ思ったんだ。この惑星コンスタンティアでは、わたしたちは何者にでもなれるんだ、て」
「それはそうかもな」
工作なんて、全然だった俺が、いまでは、日々何かを製作している。デミがあるおかげとはいえ、地球では考えられなかったことだ。「そうですよ。皆さんは、まだお若いんですから、何者にでもなれるんです!」
ヨルが、励ましの言葉をかけてくる。
「でも若いっていっても、ヨルちゃんが一番若いんじゃないの?」
「あ、そうですね・・・・・・誕生してからまだ一年とかですし・・・・・・うっかりしてました」
ヨルの言葉に、俺たち三人は笑う。
見上げると、澄んだ夜空に数々の星が瞬いていた。それを見ていると、まだなんだってやっていけるという気持ちが、改めて心の底から湧いてきた。




