第22話 お風呂とトイレ
「はあ~、お風呂気持ちいい~!」
「陽奈、ちょっと騒ぎ過ぎだって・・・・・・」
「えー、いいじゃん。本当のことだし」
金属製の壁に反響する二人の声が、聞こえる。
俺は、送水用のポンプと発熱機を点検しながら、
「陽奈。葉月。湯加減はどうだ?」
「ちょうどいいよー。ありがとう、リヒトくん」
「リヒトくんも入りなよー」
「ちょっとはづ、なに言ってんの!?」
賑やかなことこの上ない、浴室。俺は薪を入れる。パチン、と爆ぜる音がする。
さてと。お風呂の状況は良さげなので、二人が入っているまでに、夕食の準備でもしておこう。
♢
今日は随分と大きな仕事を成し遂げた。なんといっても、村に水を通したのだ。飲料水に風呂、一気に文明レベルが上がった気がしてくる。
そんな満足感に浸りながら、夕食をとっていると、ヨルの興奮した声が俺たちを呼ぶ。
「リヒトさん、陽奈さん、葉月さん!」
「どうしたんだ、ヨル?」
「ラズルグレナの培養が成功しました! お食事後、すぐに培養器に、行ってください!!!」
「なに、それは本当か?」
「だったら、早く確認しないとね」
俺たちはいそいそと夕食を食べる。
日当たりの良い広場の一角に設置していた培養器の中は、碧色に満ちていた。
「増殖率、極めて良好です。一ミリリットルあたりの細胞数は、すでに採取時の約五百倍に達しています」
ヨルの声が高揚している。
「こんなに早く増えるのか」
まったく、驚きだ。
「はい。日光の吸収率が、予想以上だったみたいですね。あと、ラズルグレナの繁殖を助けるトリケラ・コリコラを入れたこともプラスに働いたようです。このペースで増殖すると、数日のうちには、培養器がいっぱいになると予想されるので、大型の培養槽を増設することを推奨します」
「それだけ量があれば、食用としても十分だし、エネルギー源にもできるな」
「そうです。しかも、それだけじゃないんですよ」
「というと?」
「ラズルグレナは、肥料としても素晴らしい効果を発揮します。さらには、汚水を浄化することもできるんです」
「汚水を浄化? となるとあれか。トイレの流した水を・・・・・・」
「はい。完全に綺麗なものにしてくれます」
これは願ってもいない話だ。これまでのこの村のトイレは、深く穿った穴に用を足して、そのまま上から土をかぶせるという原始的なものだったのだが、これで一気に清潔な水洗トイレが可能になった。
「本当に万能なのね、この生物は」
葉月が、感心したように培養器の中の碧の粒を見る。
「みなさん。でもまずは、このラズルグレナを味見してみませんか?」
陽奈が目を輝かせる。
「よし。じゃあ収穫槽からすくってみよう」
収穫槽のハッチを開けると、緑色の液体がとろりと流れ出てきた。それを小さな容器で受け止める。
「ちょっとだけ、舐めてみよう」
俺は小指の先ほどの小ささのペーストを口に含む。
「ほのかに甘い、かな。海苔と抹茶の中間みたいな風味だ」
陽奈も少しだけ口に入れて、目を丸くする。
「ほんとだ。これ、スープに入れてもいいし、乾燥させて粉にしても使えそう」
「栄養価は極めて高いので、料理の用途は無限大です。近いうちに、燃料としてのテストもしちゃいましょう」
ヨルが続ける。
「ペーストを乾燥させてから圧搾すれば、高品質のバイオオイルが抽出できます。非常用燃料としても使えますし、将来的に発電機を作れば村の電力も賄えます」
「食料にもなるし、肥料にもなる。排泄物を分解もしてくれれば、エネルギーにもなる。夢のような生物だな」
陽奈が、
「すごいよね。この小さな緑色の生物たちのおかげで、ここまで生活が向上するなんて・・・・・・」
「そうだな。まずは培養槽を増設して、ラズルグレナをもっと大量に生産できるようにしよう」
俺が言うと、ふたりがしっかりとうなずく。
♢
ということで、次はトイレの作成だ。
トイレの個室は、男女でひとつずつ、合計二個作成。それはこれまでとは変わらない。
しかし、せっかくなのだから色々と改修する。壁には防腐処理を施した木材を使い、屋根には透明パネルを張って明かりを取り込む。小さな空間だが、清潔で気持ちのいい仕上がりになった。これで、立派なトイレの外側は完成だ。
続いて、重要な内側を作る。便器はすでに作成済み。その下に排水溝を掘削して、水が流れるようにする。水路から分岐させたパイプを貯水タンクに接続して、トイレ部屋の外側に取り付けて・・・・・・よし、これでレバーを引けばすぐに水が流れるようになった。
そして、流した下水を溜めておく浄化槽は、そこから少し離れた所に作成。悪臭が外に漏れないように、念入りに金属製の蓋を二重三重に備え付けておく。ラズルグレナを利用して、完全に綺麗になったら、濾過器を通して川下に放流できるようにする。
よーし、これですべて完成だ。
「リヒトさん、お疲れ様でした! 無事完成です!」
「おう。しかし、ちょっと遅くなったな」
夢中になって作っていたら、すっかり深夜の時間帯だ。
「陽奈たちも、もう寝ているだろうしな・・・・・・」
「誰が寝ているですって?」
「うお、二人とも・・・・・・まだ起きていたのか」
個室から顔を出してくる、陽奈と葉月。
「リヒトくん、頑張ってたんでしょ。はい、これ。葉月特製、ミックスジュースよ」
爽やかな黄緑色をした液体の入ったコップを、陽奈が渡してくる。
「これ、何のジュースなんだ?」
「採取した果実を色々つぶして混ぜてみただけよ。私も飲んだけれど、フツーにおいしいよ」
「んじゃ、いただきます・・・・・・お、マジで美味いな」
「でしょう?」
「わたしたちからの、せめてもの労いよ」
「すまんな、葉月、陽奈」
「いいのいいの。さ、もっと飲んでおく?」
「じゃあ、もう一杯」
深夜。俺たちの創星村は、着実に発展していっているのだった。




