第18話 今日はドローンを作りましょう
いつものように三人で朝食を食べて、今日することを考えていると、ヨルが声をかけてくる。
「リヒトさん。そろそろ、この島の地図のアップデートを考えませんか?」
「ん? 今のところ、地図はちゃんと役に立っているが」
「はい。ですが、まだまだ測量ほか色々と大雑把なところがありますからね。それに、私たちの行動範囲も今後ますます広がると考えられます。となると、より正確な地図が必要になるでしょう」
「そうか。だったら、俺が島中くまなく歩けばいいのか? そしたら、ヨルも詳しくこの島の情報を知ることが出来て、地図作成もはかどるだろう」
「あ、はい。もしリヒトさんがそうしていただけたらそれはそれで嬉しいですが・・・・・・ですがそれよりもリヒトさんにしていただきたいのは、調査用ドローンの作成です」
おお、そうか。確かに小型の飛行ドローンで島のあちこちを見て回った方が、俺が歩き回るより効率がいいな。ドローンだと、人間の入れないところも、難なくいけるし。
「でもヨルちゃん。ドローンって、結構複雑な機械よね? いまある材料で作れるのかしら?」
陽奈の疑問に、ヨルが胸を張ったような声で答える。
「はいです! 皆さん、まだ人型汎用マシンのタロスをご使用なさっていないでしょう? タロスの一部を流用すれば、すぐにできますよ」
「そうか。じゃ、決まりだ。午前中は、調査用のドローンを作ろう」
♢
格納庫に集まり、さっそく設計を練る。
「どのくらいの高さを飛ばせるの?」
陽奈が尋ねる。
「高度千メートルも上がれば、島全体を一望できる。そこから高精細のカメラで撮影すれば、地形図の元データが取れる。それをもとに、ヨルが画像をつなぎ合わせて立体地図を生成してくれる」
「はい。解像度は一ピクセルあたり十センチメートルを目標とします。この精度なら、岩ひとつ見分けられます」
「十センチ・・・・・・すごいわね」
「とりあえず、より細かな全体像はそれくらいですね。そこから、島のあちこちを巡って、標高、植生、水系、資源の分布などのより細かなデータを収集していきます。そうして、より精密な三次元地形図を作成していくわけですね」
「それで・・・・・・ドローン作成に必要な資材は?」と葉月。
「機体の骨組みは軽量合金パネルで。推進機は、格納モジュールにあった予備のダクテッドファンを流用する。カメラのレンズは、ネプチューンの予備パーツに高精細の水中撮影用があったはずだ。あれを転用すれば、空中でも使えるかもしれない。それから──」
俺は壁際のタロスに目を向ける。
「タロスの目も使おう」
「目?」
「タロスの頭部には、高性能の光学・赤外線・紫外線の複合センサーがついてる。カメラモジュールも応用させてもらおう」
「いいですね。タロスの複合センサーを使えば、通常の可視光マッピングだけでなく、熱源探査や鉱物のスペクトル分析までこなせるようになります。上手くいけば、地下資源まで見つけられるかもです」
「そうすると、ますます色々なものが作れるようになるね」
陽奈が期待に目を輝かせる。
俺はデミの操作パネルを開き、作成を開始する。
デミが、機体フレームを組み立て始める。軽量合金パネルを削り出し、形を整える。ダクテッドファンのマウントを一つひとつ慎重に取りつけていく。四つのダクテッドファンを十字型に配置したクアッドコプター形式の機体だ。
中心ポッドにタロスの頭部から取り外した複合センサーを移植。それから制御基板を組み込む。ネプチューンの予備パーツを転用したレンズユニットは、可視光から赤外線、紫外線まで一つのレンズでカバーできるように調整した。
「私がリアルタイムでデータを受け取れるようにしておきますね。」
「操縦はヨルちゃんがするのかしら?」
「正確には、ちょっと違いますね。事前に飛行ルートを設定して、基本は自動飛行でいきます。ただし、想定外の事態が発生した場合は、私が手動で操縦する、という形です」
陽奈と葉月が、組み立て中のドローンを興味深そうに覗き込む。
「ねえ、このドローンにも名前つけるんでしょ?」
「ああ。なにがいい?」
「そうだな・・・・・・」
葉月が少し考えてから言った。
「アルゴス、はどうかな? ギリシャ神話の、百の目を持つ巨人。全部を見通すっていうのが、地形図を作るドローンにぴったりじゃないかしら」
「いい名前だ。百の目は言い過ぎだけど、赤外線から紫外線まで、人間以上に幅広く光が認識できるんだ。十分、全部を見通してる」
「アルゴス、いい響きですね! 採用します」
「巨人、という見た目じゃないけれどいいわね」
葉月の命名案に、みんなが賛成する。
♢
お昼過ぎ。ついに俺たちの調査用ドローン・アルゴスが完成した。
四つのファンを広げた姿は、星の形にも見える。中心ポッドの複合センサーが、黒い瞳のようにこちらを見つめていた。
「いよいよだな」
「緊張するね」
「でも・・・・・・楽しみ!」
俺たちは期待と高揚感で包まれる。
「大丈夫です。数値はすべて正常。あとは実際に飛ばすだけです」
空は雲ひとつない快晴で、風も穏やかだ。初飛行にこれ以上ない天気だろう。
「発進します」
ヨルの声で、アルゴスのファンが静かに回り始めた。低いうなりが響き、次の瞬間、機体はふわりと地面を離れる。
地面から五メートル、十メートルと高度を上げ、アルゴスは青空へと飛び立っていった。
「行った・・・・・・!」
陽奈が手をかざす。
白銀色の機体はどんどん高く昇り、あっという間に小さくなっていく。
「高度五百メートル。安定飛行に入りました。これより、島の東側から時計回りにマッピングを開始します」
アルゴスからの映像が、ヨルを通じて携帯端末の画面に映し出された。上空から見下ろした創星村。居住棟の屋根、調理場、格納庫、畑の畝、水路の銀色の筋──。
「俺たちの村だ」
俺が言うと、陽奈と葉月が端末を覗き込む。
「小さいね。でも、ちゃんと人の暮らしがあるってわかる」
「まず三時間ほどの飛行で、島全体をカバーします。それから、あちこち飛びながらより詳細な地図を作成していきます」
三時間で島全体。徒歩では何日もかかるだろう距離を、アルゴスはあっという間に飛んでいく。
「うん、これなら確かに、俺が歩いて回るよりいいな」
「映像、見てて飽きないね」
陽奈も葉月も端末に見入っている。画面には、まだ誰も足を踏み入れたことのない森の北側が映っていた。高い木々がどこまでも続き、その合間に輝く湖らしき水面。東側には草原も広がっていて、海岸線は切り立った崖になっている。
「あそこに湖がある。淡水なら使えるな」
「北側の森、思ったよりずっと深いわね。資源は豊富そう」
「データはすべて記録しています。地形図の完成が楽しみですね」
ヨルの声も、心なしか弾んでいた。
「見てみて。あんなところに、湖があったんだね」
「第二の拠点を作るとしたら、良い場所かもな」
「水も豊かだし、何か別の新しい施設を作るのに向いてそう」
「北側の森とかも、調査に行きたいわね」
三人で顔を寄せ合い、ああだこうだと語り合う。




