第110話 村の拡張
モジュールの固定が終わり、いよいよポッドの搬出を開始する。
「慎重にいこう。デミの重力制御で浮かせて、運びます」
「了解しました。ポッド一基、質量約二百キロ。デミの出力で、十基までは同時に運べます」
俺は、モジュール内部に入り、ポッドの固定を解除していく。ヨルの指示に従い、重力制御フィールドでポッドを包む。青白い光にくるまれる円筒形のポッド。ゆっくりと、ポッドが宙に浮く。
「第一陣、十基。搬出します」
モジュールの外へ、ポッドが次々と流れ出る。斜面を下り、小さな谷を越え、麓の台地へと向かう。
台地に着くと、あらかじめ用意した仮設の保管エリアに、ポッドを並べていく。アルテミスたちが、ポッドの状態を確認し、転倒しないように固定する。いくら耐久性があるといっても、中には生きた人たちが眠っているのだ。用心するに越したことはない。
「第一陣、完了。全ポッド、異常なしです」
「よし、戻るぞ」
そうして往復すること、三十回。俺は、ポッドをすぺて、運び終えた。
途中で日が暮れてしまったが、俺は休まなかった。陽奈たちが、軽食と水を用意してくれていて、それでしのいだ。
最後のポッドを台地に並べ終えたのは、日没後、二時間ほど経った頃だった。
「ふう・・・・・・全部、運び終えた」
「はい。正確には、合計三百二基。すべて安全な場所に移動しました」
「モジュールの方は?」
「がらんどうですよ」
「よし。あとは、あのモジュールを分解して運ぶだけだ」
俺は、台地に並んだ三百二基のポッドを見渡した。薄明かりの中で、ポッドのインジケーターが、静かに点滅している。眠っている人たちの顔は、見えない。だが、そこに、三百二の命がある。俺は、しばらく、その光を眺めていた。
「リヒトくん、お疲れ様。今日はゆっくり休みなよ」
陽奈がねぎらってくれる。
「ああ、そうだな」
今日は風呂に入って、ゆっくり眠り、明日からまた、作業を開始しよう。
♢
翌朝。煌星村にて。俺は、何人かを集める。
「ポッドの搬出は終わりました。だが、すぐに全員を起こすわけにはいかない」
「そうだな。三百人を受け入れるとなると、住む場所、水、食料の確保が必要不可欠だ」
桐生船長が、腕を組む。
「はい。まずは居住棟です。予備のだけじゃ、到底足りないです。少なくとも、二百人分の仮住まいを、なるべくすぐに用意しましょう」
一同、静かにうなずく。
「それから、水です。川から新しい水路を引いて、大規模な貯水槽を作りましょう」
「食料は、ひとまずは漁獲量を増やしましょうかね。それから、ラズルグレナの培養、肥料も増やす。農業面も、しっかりとね」
葉月が、静かに言う。
「今の俺たちなら、きっとできます。村の人たちがいますし、デミがある。アルテミスもいる。テラ・キャリアだってあります」
「そうだな。やるしかない」
桐生船長が、よいしょと立ち上がる。
「まず、居住棟。簡易な長屋でいきましょう。それから、水。ヨル、水路の設計を頼む。川から引いて、貯水槽まで」
「それと同時進行で、畑の拡張と、牧場の拡大。ラズルグレナの培養槽も、増やしましょう」
「あとさ、医療棟の拡張も考えないとね」
雫が言う。
「三百人も増えると、今の設備じゃ足りない。凛さんたちと相談して、ベッドだけでもを増やせるようにする」
「よし。じゃあ、今日から、やるぞ」
「おおー!!!」
俺たちの声が、村全体に響き渡る。
♢
その日から、村は、かつてない忙しさに包まれた。
朝早くから、まず居住棟の建設が始まる。小松さんたちも参戦してくれて、手際よく木材を切り、パネルを組み立てていく。いかんせん、デミは一台しかないので、これだけにかかりっきりというわけにもいかない。人力でやれるところは、やってもらう。陽奈と葉月は、何人かの村人とアルテミス五体を引き連れて、川からの新しい水路の計画を立てる。俺は、デミを担いで、居住棟の基礎を固め、水路の建設をする。
昼には、楓と美玖とゆかりと萌奈が、こどもたちを連れて、軽食を運んでくる。こどもたちも、大人の手伝いをする。石を運んだり、水を汲んだり。みんな、自分にできることを、探して働く。
夕方、ポセイドンが、いつもの倍の魚を積んで帰ってきた。ヨルに頼んだところ、限界まで性能を発揮させたらしい。ただし、乱獲はかえって漁業資源の減少を招くので、これは一時的な措置だと釘を刺された。燻製器をフル稼働して、どんどん保存食にしていく。ラズルグレナの培養スペースも、新しく広げていく。アビス号の乗員たちは、濾過装置の増設と貯水槽の建設を、夜遅くまで続けてくれた。
そうして慌ただしい日々を送り、幾日か過ぎた。深夜、ヨルが声をかけてくる。
「リヒトさん。そろそろ、皆さんを休ませた方が良いです」
「ああ。わかってる。でも、あと少しだけ」
「リヒトさんも、休んでください」
「あと、この区画の基礎を固めたらな」
「・・・・・・了解です。ですが、約束してください。それが終わったら、ちゃんと寝てください。というか、休まなければ、デミもすべてアルテミスも、強制停止しますからね」
「お、おう・・・・・・そうだな」
ヨルの口調からは、俺たちへの気遣いが感じ取れた。
最後のパネルを固定したところで、デミのスイッチを切った。見上げると、満天の星。山の向こうには、三百人が眠っている。彼らを迎える準備は、まだまだ終わっていない。それでも、確実に進んでいるのだ。
「リヒトさん、そろそろ」
「ああ、わかった。寝るよ」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ、ヨル」
俺は、仮設の寝床に横になった。疲れているのに、頭は冴え渡っている。明日はまた、三百人のために働くのだ。大規模な村の人口増加。色々とトラブルも増えるだろう。だがきっと、俺なら、いや、俺たちなら、何度でもそれを乗り越えてみせる。そのことを静かに確信しながら、俺は段々と深い眠りに落ちていった。




