第103話 温泉改造
朝食の席に小松さんがやってきた。手には、何やら紙を持っている。
「リヒトさん、温泉のことなんだが」
「ええ、どうしました?」
「みんな喜んでくれて、利用者も多い。だがな、ちょっと要望が出てきて」
「へえ、どんなものですか」
「こどもから年寄りまで、色んな年代が来るから、もっとこう、みんなで楽しめる場所が欲しいと」
「なるほど」
俺は、スープを飲む手を止めた。
「温泉ってのは、入るだけじゃなくて、その前後も含めて楽しいもんなんだよ。上がってから、涼みながら話したり、軽く遊んだり。そういうのがあってこそ、温泉地ってやつだ」
「それは分かりますね」
小松さんは、その紙を読みながら言う。
「まず、談話室が欲しいって意見が多いかな。上がったあと、座って話せる場所。それから、仮眠できるような場所も。あとは、体を動かせる場所。温泉卓球とかが、定番かな」
「まあ、そうですね」
「とりあえず、必要そうなものをまとめておいた」
小松さんは、俺に紙を手渡してくる。走り書きだが、要望が箇条書きになっている。
· 談話室:広めの座敷とテーブル。飲み物を飲みながら話せる。
· 休憩所:仮眠用の寝椅子、毛布。
· 卓球場:台を二台。ラケットとボール。
· 遊具:トランプ、囲碁やオセロ等のボードゲーム類。
· 売店:果実ジュース、軽食。
· サウナ:とりあえず、個人的に欲しいかも。
「サウナまで・・・・・・分かりました。今日から、進めてみましょう。ヨル、これを作るための資材は足りそうか」
「はい。充分ですね」
♢
俺は、陽奈と葉月、楓の助けも借りて、温泉増築作業を開始する。
まずは、温泉の入り口横の空きスペースに、談話室を建てた。木材と合金パネルの組み合わせは、もうお手のものだ。床は板張り。壁際に、ベンチと座布団を並べる。中央に、大きな木のテーブルを置いた。窓は大きく、山の景色が見える。
「ここで、湯上がりに一杯やるんだね」
陽奈が、テーブルに湯呑みを並べながら言う。
「そう。ここに、陽奈が作った果実ジュースを置こう」
「うん! 私、張り切っちゃう」
「陽奈、何種類くらい作れるの?」と葉月が質問する。
「今ある果実で、五種類くらいかな。ベリー系、柑橘系、それから、ラズルグレナ入りのやつ。栄養ドリンクみたいなものね。元気になるよ」
休憩所は、談話室の隣に建てる。こちらは、仕切りで区切った小さな部屋をいくつも作る。仮眠用の寝椅子と毛布を置く。カーテンで仕切れるようにする。
「これで、ゆっくりできるな」
「うん。小さなこどももいるし、喜びそう」
♢
午後からは、卓球場と遊具の準備に取りかかった。
卓球台は、デミで作る。天板は合板を何層も重ねて、反りが出ないようにする。ネットは、ラズルグレナ樹脂の繊維で編んだ。ラケットも、木で作る。ボールは、少し難しい。軽くて弾む素材が必要だ。
「ヨル、ボールは何で作る?」
「ラズルグレナ樹脂の発泡体が適しています。中空の球体に成型すれば、適度な弾力が出ます」
「本当、万能だな、ラズルグレナは」
デミで、小さな球体を成型する。何個か試作して、弾み具合を確かめる。三度目の試作で、ちょうどいい弾力のものができた。
「よし、これで卓球ができる」
遊具は、カードとボードゲームだ。トランプは前に作ったので、もう慣れたものだ。それからオセロに囲碁、チェスに将棋などなど。同じ要領で作っていく。楓がヨルと共同で、ルールブックを手書きで作ってくれた。
「これで、みんなで遊べるな」
♢
夕方、陽奈が果実ジュース提供のための屋台を作った。簡素な木のカウンターと、冷やすための冷蔵庫。カウンターの上に、五種類のジュースを並べる。色とりどりで、なかなかきれいだ。
「名前、つけたよ」
陽奈が、小さな木の札を見せる。
· 赤:ベリーミックス
· 黄:柑橘ブレンド
· 緑:ラズルグレナエナジー
· 白:果実ミルク
· 青:深海ソーダ
「深海ソーダ?」
「ラズルグレナの炭酸割り。見た目は青いけど、味は爽やかだよ」
「・・・・・・飲んでみるか」
「どうぞ」
一口飲む。たしかに、爽やかだ。ほのかに甘くて、炭酸が心地よい。
「うまい。これは、売れるな」
「でしょ。温泉の後は、これに限る、感じにしたい」
♢
次の日、最後の要望・サウナを作る。温泉の脇にあった小さなスペースに、小屋を建てる。中には木のベンチが二段。熱源は温泉のものを利用する。石を積み、その上に水をかけると、蒸気が立つ。温度は、八十度から九十度。初心者でも入れるように、少し低めから始める。
「水風呂もいるよな」
俺は、サウナの隣に、小さな水槽を作った。山の湧き水を引き、冷たい水を張る。水温は、十五度ほど。
「これで、サウナと水風呂の交互浴ができる」
俺は試験的にそのサウナを利用してみる。サウナの扉を開けると、むわっとした熱気が溢れる。ベンチに座ると、じんわりと汗が出てくる。五分ほどで、体の芯まで温まる。水風呂に入ると、全身がきゅっと引き締まる。そしてまたサウナに戻る。これを二度、繰り返すと、体が軽くなる。
「うん、大丈夫そうかな」と俺はつぶやく。
♢
夕方、村人たちを呼んで、新しい温泉施設を披露した。
「すごい!」
「談話室もある!」
「卓球台だ!」
「ジュースまである!」
こどもたちは、さっそく卓球台に群がり、ラケットを握る。大人は、談話室の座布団に座って、ジュースを手に取り、山の景色を眺める。若い衆が、サウナと水風呂を交互に試している。
「リヒトさん、ありがとう!」
小松さんが、満面の笑みで言う。
「みんな、本当に喜んでる」
陽奈が、ジュースのカウンターから手を振っている。
「リヒトくん、一杯どう?」
「ああ、もらおう」
カウンターに寄りかかり、赤いジュースを受け取る。ベリーミックスの甘酸っぱい香りが、湯上がりの体に沁みる。談話室からは、笑い声。卓球場からは、ラリーの音。サウナからは、熱気と、水風呂の悲鳴。
「いい眺めだな」
「うん。最高だね」
陽奈が、隣で、自分の分のジュースを飲みながら言う。
まだまだ改良するべきところはある。だが、この温泉が村の心の拠り所になれればいい。そう思う俺だった。




