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第101話 製錬


 ドームのそばの浜辺を見て回り、俺は試作の製錬所を建てる場所を決める。よし、ここなら海に近く、海中ドームからも歩いてすぐだ。


「まずは、試験用の製錬炉を一つ。小型のもので十分です」


 ヨルが、設計図を端末に表示する。


「炉は二段構造にします。上部は鉱石を加熱する還元室。下部は溶けた金属を受ける取鍋室。硫化物系の鉱石ですから、まずは加熱して硫黄を飛ばし、その後、炭素と反応させて金属を取り出します」


「炭素は?」


「木炭で代用できます。すでに村で作っていますから」

「排ガスはどうする」

「はい。ここが重要です。硫黄酸化物は有毒ですから、炉の排気口に石灰水の濾過槽を設けます。ここを通すことで、硫黄分を中和し、無害化します」

「よし、作るぞ」


 俺はデミを起動し、浜辺の一角に炉を組み上げ始めた。石材と合金パネルで外壁を作り、内部には耐火レンガを張る。炉の高さは二メートルほど。上に鉱石と木炭を入れる投入口。横に空気を送る送風機。下に金属を取り出す取出口。そして、排気口には石灰水の濾過槽《ろかそう》を接続する。


「アルテミス、耐火レンガを積んでくれ」


 アルテミスが、手際よくレンガを積み上げていく。村人たちも、石材を運んで手伝ってくれた。アビス号の鉱物の専門家たちが、炉の設計を確認し、安全性をチェックしてくれる。


「リヒトさん、送風機の位置、もう少し下のほうがいいです。酸素が均一に行き渡ります」

「わかった」

「排気口の角度、それで大丈夫です。濾過槽も、問題ありません」


 ヨルとも相談しながら、製錬所建設は進む。 昼過ぎには、製錬炉が完成した。炉の周囲に安全用の囲いを設け、金属の取鍋《とりなべ》を置く。石灰水の濾過槽には、あらかじめ村で用意しておいた石灰を溶かした水を張ってある。


「準備、完了です」

「よし。まずは、予備テストだ」


 俺は、回収した鉱石をいくつか選び、炉の投入口に入れた。木炭も加える。点火用の薪《たきぎ》を炉の下部に入れ、火をつける。送風機を起動し、ゆっくりと空気を送り込む。火が、赤く、次第に白く、強くなっていく。


「温度、上昇中です。五百度。六百度。・・・・・・七百五十度に達しました」

「鉱石の様子は?」

「還元室内部、鉱石が赤熱しています。硫黄分の分離が始まりました」


 炉の中を覗くと、鉱石が真っ赤に輝いている。その周りを、青白い炎が包んでいる。硫黄の匂いが、かすかに漂うが、すぐに排気口から濾過槽へと吸い込まれていく。


「硫黄、回収率、良好です。濾過槽の石灰水、白濁しています」

「中和が進んでるってことか」

「はい。問題ありません」


 一時間ほど加熱を続けると、鉱石の表面が溶け始めた。赤い光の中に、金色の粒が、ぽつり、ぽつりと浮かび上がってくる。


「金属、分離が始まりました」

「よし、そのまま続けてくれ」


 さらに三十分。炉の中の鉱石が、すっかり溶けて、取鍋室へと流れ込んでいく。冷えていくにしたがって、金属と不純物が分離し、底に、鈍い光を放つ塊が現れた。


「……これが、金属」


 俺は、思わず息を呑んだ。


「はい。銅を主成分とする合金です。純度は、約九十五パーセント。実用に十分な品質です」


 耐熱用の手袋をして、取鍋から金属の塊を取り出す。重い。ずっしりと、手のひらに響く。表面は、まだ温かい。赤褐色の、輝く金属。銅だ。


「やった・・・・・・!」


 思わず、声が出た。


 陽奈が、ドームのほうから駆け寄ってくる。


「リヒトくん! できたの!?」


 陽奈《ひな》たちを始め、アビス号の乗員たちが次々と集まってくる。桐生船長は、金属の塊を手に取り、しばらく黙って眺めていた。それから、深くうなずいた。


「おめでとう、リヒト君。これは、本当に、一歩だ」

「まだ、試験ですけどね」

「試験でも、一歩は一歩だ。この金属は、君たちがこの星で作った、最初の金属だ。忘れられない記念になる」


 大隅博士も、しばらくじっと見入っている。「銅の他に、微量の金と銀も含まれていますね。分離すれば、さらに価値が上がります。それに、この炉の設計、試作型とはいえなかなかのものです。環境への配慮も、ちゃんとされている」

「ヨルが設計しました」

「本当に優秀なAIですね」


 早見航海士が、笑顔で言う。


「リヒトさん、これから、本格的に掘るんですね」

「ああ。でも、まだまだ先です。まずは、この製錬炉を安定して稼働させます。それから、本格的な鉱山開発をするときに、製錬所も一緒に大きくしていきます。焦らず、一歩ずつです」

「わかっています。でも、楽しみです」


♢


 昼過ぎ、製錬所の前で、簡単なお祝いをした。村人たちが、果実水と、焼き菓子を持ち寄ってくれた。テーブルには、今日できたばかりの金属の塊が、誇らしげに置かれている。


 陽奈が、隣に座って、その塊を指でつついた。


「ねえ、リヒトくん。何を作る?」

「まずは、小さな工具からかな。今の工具はゼウス号の資材と残骸から作ったものだしな」

「工具か。いいね。地道だけど、大事なこと」

「ああ。まずは道具をちゃんと作る。それが、文明の基本だろう。まだまだ実用化は先だけどな」

「うん。でもさ。その一歩は、確かに踏み出したんだよね」


 陽奈は、力強くそう言う。


 俺は、金属の塊を、もう一度手に取った。重い。冷たい。でも、その冷たさが、なぜか、とても頼もしく感じられた。この星の海の底から、俺たちの手で、掘り出した。その事実が、明日への力になるのだ。


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