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55話 どうやら何かあった様です【湊視点】

音羽との待ち合わせ場所のバイト先に着いた。

妹に交際報告をするこの状況がとても恥ずかしくあるが、色々気にかけてもらっていたのだから報告しないのは流石に憚られる。


扉を開けようとノブに手をかけて、店内を見渡すと大澤くんが直立不動で音羽に睨まれている姿が目に留まり、思わず手を離してしまう


「湊?何してるのよ。音ちゃん待たせてるんだからさっさと入ってよ!」


店内の不穏な空気を察する事も出来ず、杏が急かしてくる。


小さく溜息を吐きながら、彼女に今の状況を理解してもらおうと反論する。


「言いたい事分かるが、ちょっと先に店内を見渡して欲しい」


「え?もう何なのよ…意味がわからないんだけど…」


そう言って入口から店内を見渡す彼女。


「あ…」


早速状況を把握したらしい。


「ねえ、音ちゃんが笑顔なんだけど威圧感が凄い気がする。私の気のせいかな?」


「いや、見ての通りあれはかなり機嫌が悪いな」


あんな顔をする音羽を久しぶりに見た。凄く嬉しかった事が終わった時にする表情で、消化不良の時にあの笑顔をする。

きっと大澤君絡みなのだろう…。


「湊…今入っても大丈夫なの?」


「まぁ、かなり機嫌は悪いと思うけど多分俺達が入らないと事態が収束しないだろうな」


意を決して、再度ドアノブに手をかけてそのまま店内に入る。


ドアに付いたベルが鳴り、こちらに気づいてバツの悪そうな顔の音羽と、天の助けとばかりにこちらに救いを求めている様な大澤君の表情の差に思わず笑いがこみ上げてくる。


「すまない音羽…待たせたな」


「べ、別に待ってなんて居ないわ。私に気を使わずに今日ぐらい2人で過ごせば良かったのに」


少し拗ねた様な態度の音羽だったが、予想外の行動を取られてその顔はすぐに驚きに変わる。

なぜなら…杏が突然音羽に抱きついたからだ。


「音ちゃん、ごめんね。今までありがとう。私…私ね…」


突然に泣き出した杏の頭を音羽が優しく撫でる。


「杏は本当に泣き虫ね。そんなんじゃ、誰かにすぐ湊を取られちゃうわよ?」


「だって…ぐすっ…だって…」


その光景を見て、どっちが年上なんだか…と嘆息しながら大澤君に目を向ければ、なぜか珍しく心配そうな顔で2人を見ていた。


「そんな難しそうな顔をしてどうしたんだい?」


僕が何の気なしに尋ねてみると、彼は呆れた様な顔で小さく溜息を吐いたものの言葉が続かない。

どうやら彼は何も言う気はないらしい。


何か変な事言ったのだろうか?彼が溜息を吐いた理由が分からないが、多分踏み込まない方がいいだろうと判断した。


そんな短いやり取りの間にも状況は変わるもので、杏が少し落ち着きを取り戻していた。音羽はその様子に安堵したのか、杏に祝福の言葉を贈る。


「杏、良かったわね。2人がやっと付き合う事になって私も安心したわ。それと…色々ダメな所も多い兄ですが、どうぞ宜しくお願いします」


身内贔屓ではあるが、音羽は惚れ惚れするような満面の笑みで杏に声をかける。

そしてなぜか、その言葉を聞いた杏がまた泣き出す始末。そんな彼女を愛おしそうに抱きしめる音羽。


全く状況についていけない…。だが、ここで口を挟むのは無粋だと思い、とりあえず事の成り行きを見守る事にした。

隣を見れば、大澤君がそんな2人に…正確には音羽に見惚れているのだろう。

これはもしかしたら…。もしこの予想が正しいのであれば、影ながら応援しようと思った。


少し時間が経過し、杏が落ち着いたところで席に座る。僕達以外は店内に居なかったので、奥のテーブル席を選んだ。壁際に僕と大澤君。僕の隣に杏が座り、その正面に音羽という配置。

杏が僕に寄り添う様に座る事に喜びを感じると共に、心なしか目の前の2人の距離も近い。

大澤君は壁に体を押し付ける様に座っており、通路側にはそれなりのスペースが空いている。

そんな風に観察していると隣に居る杏から服を引っ張られた。


「ねぇ、まさかあの2人って…」


「僕もさっきそうなんじゃないかなって思った。もしそうなら今度は僕達が頑張らないとな」


「…………………」


杏は複雑な表情をしたまま、何も答えなかった。

彼女と大澤君の関係を考えればそれも仕方ないのかもしれない。

幸いにも目の前の2人はメニューを夢中で見ていた為、こちらのやり取りには気づいていない様だ。

話は終わりとばかりに杏がメニューを見始めたので、答えのないまま会話は終了する。


注文する品は既に決まっていたので、メニューを見る事もなく、目の前の2人に再び意識を向けながら思う。


杏は期待できそうにないから、僕が頑張るしかないのだろうと…。

この章は主人公の表現方法が『僕』と『俺』が混在しています。とても読みにくいだろう事は理解してますが、主人公としては昔っぽい感じの『俺』に戻そうとしたのですが、結局杏からの頼みで『僕』に落ち着くといった流れになります。前の話も含め少し手直しさせていただきました。

自分で読んでても分かりにくいのでここだけ補足させていただきます。


だいぶ時間が経ってしまい、申し訳ございません。覚えいて下さった方も、忘れてたけど思い出して下さった方も、どうぞ宜しくお願い致します。またのんびり再開できたらと考えておりますのでお時間が許す様でしたら、読んでくださると嬉しいです。

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