53話 涙と温もり【音羽視点】
湊の友人から送られてきた動画を見終えた。
ああ……これで私の初恋は完全に終わってしまったんだ……。
最近の私は、そうなる様に行動してきた。自分で望んだ事ではあるが、やはり現実にそうなってしまうと哀しいと思ってしまうのはしかたないと思う。
親友に祝福のメールを送り、俯く。こんな所で泣くわけにはいかない。
「ほ〜ら、いい女がどうしてそんなこの世の終わりみたいな顔してるの?」
私の雰囲気を察してか、瑞穂さんが近寄ってくる。今、私はキッチン大澤に一人で居る。
「すいません、こんな客が居たらお店に迷惑かかりますよね。お会計をお願いします」
そう言って私は席を立とうとしたけど、瑞穂さんに止められる。
「あちらのお客様が出られるみたいだから少し待ってて」
そう言ってレジに向かう彼女。お会計を済ませたお客様にお礼を言い、外に出てすぐに店内に戻ってくる。
「今から少し休憩にしようかしらね」
戻ってきた彼女は、平然とそんな事を言ってのけた。
「いえ、私もすぐ出ますからお構いなく」
「そんな顔した女の子を追い出すなんて出来る訳ないでしょ?何があったか私には話せない?聞くだけでよければ私でも出来るわよ」
どうやら顔に出ていたらしい。そのつもりはなかったのだけど……。
私は気を使わせてしまった事を申し訳なく思い、その申し出を丁重にお断りする。
そうして席を立とうとした私を、彼女が抱きしめる。
「聞いていた通り、本当に意地っ張りな子ね。悲しい時は気持ちに素直に泣ける様にならないと……これから先色々辛いわよ?」
「別に意地を張っている訳では……」
そう言う私の言葉は最後まで言わせてもらえる事なく遮られた。
「ほら、それが意地っ張りって言うのよ。余計なお世話かもしれないけど、大体の事情は知っているから……。今日ぐらいは素直に泣きなさい」
そう言って私を抱きしめる力が強くなる。
私は抑えきれず声を殺しながら涙を流した。
「まったく……こんな時は声をあげて泣けばいいのに。本当に意地っ張りなんだから。あの子が心配する訳だわ……」
瑞穂さんが何か言っている様な気がしたけど、泣く事に必死な私の耳には入ってこなかった。
「すいません、もう大丈夫です」
「さっきよりスッキリした顔をしてるわね、大丈夫は嘘ではなさそうね」
瑞穂さんの言葉に苦笑いを浮かべてしまう。
「聞かないんですね……」
私はついそんな質問をしてしまう。
「さっき大体の事情は知ってるって言ったわよね?」
そうだ……確かそんな事を言っていた気がする。ということは……
「気づいたみたいだから先に言っておくけど、あんまり責めないであげてね。あの子本当に心配してたみたいなの。無理してるって……」
やはり情報源は湊の友人の大澤先輩らしい。
私は自分の気持ちをうまく隠せていたと思う。
その証拠に湊と杏は、私が全面的に応援していると思われてたはず。
「なんかね?時折笑顔が寂しそうだったらしいわよ……。私もそれを言われてからあなたを見ていたけど、全く気づかなかったわ。どうしてあの子にそれが分かったのかしらね……。おっとこれ以上は野暮よね、怒られちゃうから今の話は聞かなかった事にしてね」
そんな話を聞いてしまい、私は困惑してしまう。
そんな矢先ドアが勢いよく開けられる。息を切らして入ってきたのは大澤先輩だった。
私は泣き腫らした顔を見られなくて思わず下を向いてしまう。
そんな私の方に彼が駆け寄ってくる。彼は下を向いている私の頭を、ぽんぽんと軽く2度叩いた。
小さい頃の私が泣いている時……湊も同じ様にしてくれたな……。
やっと落ち着いたはずだったのに、また涙が溢れてくる。
「頑張ったな。お前のおかげであの2人うまくいったぞ。あとで合流するんだろ?今のうちにしっかり泣いとけ」
そう言う彼の声は優しかった。
「何よ偉そうに……。いつも杏に虐められてるくせに……」
「なっ!?こんな時に普通そんなこと言うか!?言っておくが、俺は虐められてるんじゃない。大人だから言い返さないだけだ!!」
つい恥ずかしさから憎まれ口を叩いてしまった。怒らせてしまったかと思い、ちらりと彼の顔を盗み見る。
声の感じとは裏腹に優しい眼差しを私に向けていた。
目があってしまったので、慌てて下を向く。弱っている時に優しくされたら……って話を聞いた事がある。私はそんな風に恋に落ちる人達をどこかで馬鹿にしていた。
私はそんな簡単な女ではないはず……だと思いたい。
そんな事を思いながら、ずっと頭に置かれている彼の手の温もりを感じていた。
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