52話 面倒な私の本音【杏視点】
まさか彼から告白してもらえるなんて思いもしなかった。嬉し泣きするのは恥ずかしいから、慌てて口を開く。出てきたのは憎まれ口……。
本当に私は可愛げないと思う。でもそんな私のめんどくさいところも含めて好きだと言ってくれた湊……まったくどれだけ私の事が好きなんだろう。顔がにやけてしまいそうになるのを何とか耐える。
これから私が返事しようとした矢先、湊からいきなり場所を変えようと言われた。
このタイミングでそれはないでしょ!?私は一刻も早く気持ちを伝えたい。一秒でも早く湊の彼女になるんだ……そう思っていた私にそれはないんじゃないかな?
お預けと飼い主に言われたワンちゃんの様な立場に置かれてしまいそうになったので、急いで反論した。
言え……言うんだ……。湊に私の気持ちを伝えるんだ……。
「私で良ければ湊の彼女にしてください。でも一つだけお願いがあって、もっと確かな関係になるまで……その……前みたいに目立たないで欲しいんだ。湊の事は信用してるけど、知らない子達から告白されるのを見るのはいやなんだ。我儘言ってるのは分かってるけど……。お願い……湊の良い所をわたし以外に見せないで」
言った。私の気持ち……ちゃんと言えたと思う。こんな事をお願いする私は最低だと自分でも思う。でも湊がモテるのを見るのはいやだから……だから私は声に出して伝える。
「杏は本当に自分勝手だね。僕が冴えない格好してたら杏は知らない男からいっぱい声かけられるだろうに……。自分はいいけど僕はダメって……まったく」
そう言って苦笑いを浮かべる彼。やっぱりダメだったかな……もしかしたら愛想尽かされるかもしれない。そうなったらどうしよう…。今更になって後悔の念が押し寄せる。
「ごめん、さっき言ったことは忘れて……」
「なんで?別に僕はまだ断ってないけど?いいよ、その条件で。返事はおっけーって事だね。めちゃくちゃ嬉しい、良かった……」
そう言ってその場にしゃがみ込む湊。緊張したのはお互い様って事だね。私がこの幸せに浸ろうとすると…周りから拍手が起きた。その音を聞き、はっと周りを見渡せば多くのギャラリーが居た。
さっきまでほとんど人が居なかったのになんで……!?
「なんかすごい騒ぎになってしまったな。杏は観客とか気にしないから、本当に男前な性格してるよね。僕は恥ずかしさがあったから場所を変えようと提案したけど、これだけ多くの方に祝福してもらったら、悪い気しないよね」
知ってたの!?というか、いきなり場所を変えようとか単刀直入に言いすぎだよ。それじゃ何を意図してるかなんて分かるわけない。
私は自分の失態に気づき、先程までの幸せな気持ちが……急激に萎んでいく。
「知ってたら言ってよね!?私はなんて恥ずかしい事を……」
その時私の携帯に着信音。人が落ち込んでいる時に連絡してくるタイミングの悪い人は誰?私は苛立ち気味にメールを見る。
差出人は音ちゃんだった。到着の連絡だろうけど、まったくタイミング悪いのだから。
とりあえずこの場を逃げ出したいので、待ち合わせ場所に向かわないとね。
そんな事を考えながらメールを開いた私にさらなる悲劇が訪れる。
「また派手に告白したようね。今日は2人で誕生日を祝ったらいいと思うから私は帰るわね。楽しんで……また週末にお祝いするわ」
なぜ音ちゃんが告白の事を知ってるの!?私は急いで周りを見渡す。
この場から逃げ出そうとする人影……その後ろ姿に見覚えがある。
間違い……あいつは絶対にチワワだ。きっと私達を尾行していたのだろう。
私が注視していると、一瞬だけ振り返る。やはり……私の予想は間違っていなかった。
未来永劫……私の前から姿を消してもらう必要があるらしい。
「杏!?声……声に出てるからね!?」
湊から声をかけられ我にかえる。
「とりあえず音ちゃんからのメールだったから、返事だけ先にしちゃうね」
湊に断りを入れてメールの文章を打つ。
『私の誕生日のお祝いに親友が居ないとかあり得ないからね。迎えに行くから逃げないように。あと…チワワにもお祝いして欲しいから二人で待ってて。ちゃんと呼んでおいてね。どちらか欠けても許さないからね』
うん、我ながらなかなか怒りを隠した文章が出来た。自画自賛はとりあえずこの辺にしてまずはメールを送信……っと。
「湊、いつまでも音ちゃん待たせるわけにはいかないから急ごっか」
「あ……うん。そうしようか……」
彼の声に心なしか怯えが含まれているような気がしたけど……ま、いっか。
いつも読んで下さってありがとうございます。いきなりアクセス数が伸びてびっくりしました、こういう事ってあるんですね。最後まであと少し……残りも読んでいただければ嬉しいです。




