50話 誕生日そして……【湊視点】
俺が自分を隠す事を辞めたあの日から少しだけど時間が経過した。
その後の広瀬さんはというと……今も隣で不貞腐れている。
「杏…いい加減機嫌なおしてくれよ」
「何なのよその言葉遣い。なんかチャラい感じがしてすごい嫌。用がないならいちいち話しかけないで欲しいんだけど?」
そんなに嫌なら、一緒に登校しなければいいのに……とは流石に言えず、それ以降お互い無言のまま学校に着いてしまった。
ここ最近の大きな変化としては、俺の下駄箱にラブレターが前以上に入れられるようになった。
おかげで彼女の不機嫌さは日に日に増すばかり……。
嫉妬させたかった訳ではないので、もっと早く何か手を打たないといけなかったのだけど、肝心の広瀬さんがこうなのでそんな話をする事すら叶わないでついにこの日を迎えてしまった。
このままではマズイと思い、昼休みに彼女を呼び出す。
「なぁ、お願いだから機嫌なおしてくれって」
「別に怒ってないわよ。湊こそ最近おモテになる様だから、私みたいなのに付きまとわれて嫌だって思ってるんじゃないの?言いたい事があるならはっきり言いなさいよ」
「今日さ?杏の誕生日だよな。音羽も来るからウチでお祝いしないか?家族に祝ってもらえるだろうから、差し支えない程度に……だけどさ」
「覚えててくれたんだ……」
おや?久しぶりに笑顔を見た気がする。やはり広瀬さんは笑っている顔が本当に可愛いと思う。
そう思ったのも束の間、また不機嫌な顔に戻った。いや、この場合は無理矢理戻したが正しいな。
「祝いたいって言うなら勝手に祝えばいいじゃない。音ちゃんが来るとか、私が断れない状況を先に作って、この卑怯者」
散々な言われ様だけど、さっきの笑顔を見てしまった後だから、何と言われても気にならない。
「なにニヤニヤしてるのよ。まったく……」
いけない、嬉しさのあまり顔に出てしまったようだ。
「音羽とは駅で待ち合わせしてる。その前に一箇所寄りたいところがあるんだけどいいか?」
「別に構わないけど」
その話はそれでおしまいという事で、機嫌が少しだけ良くなった杏と昼休みが終わるまでたわいない会話を楽しんだ。
やっと待ちに待った日を迎えた。俺は放課後に想いを馳せながら残りの授業を受けた。もちろん最初から最後まで僕の耳には何も入ってこなかったのは言うまでもないだろう。
放課後、向かったのは高台にある公園だった。ここから見る街の景色はとても綺麗で有名らしい。今はまだ時間も早いので僕ら以外には、ほとんど人が居ない。
「で、こんな所に私を連れてきてどうするの?」
「えっと…まずは誕生日おめでとう。とりあえずさ?俺の話を聞いて欲しい。この数日間、俺は見た目を元に戻したけど、これにはちゃんと理由があるんだ。杏は見た目は気にしないって言ってくれたけどさ?やっぱりあのままだと釣り合うとは思えなかった。実際、2人が婚約者だと言ってもあのままだと周りはきっと納得しないだろうな……って思った。だからまずは杏に釣り合うと周りに認識してもらう必要があったんだ」
「別に周りなんて気にしなければいいじゃない。私はそう言ったよね?でも良かったわね、そのおかげで大層おモテになった様で」
「茶化さないでくれ。杏は本当に前の方が良かったのか?ああ……違うな。そうじゃない、そんな事が言いたいんじゃないんだ」
冷静になろうと深呼吸を一つする。大丈夫、勇気を出すんだ。
「杏が僕と付き合ってる事になってからもさ?告白されているのが嫌だった。そんな事を言う資格ないけど……。だから杏の横に居ても恥ずかしくない様に……告白なんてしてくるなって周りを牽制したかったんだ」
自分の思いの丈をぶつける。広瀬さんは何を言ってるか分からないみたいな顔をしている。
「広瀬さん、いつの間にか好きになってました。付き合ってるフリなんかじゃなく僕と付き合ってくれませんか!!」
暫くの沈黙の後、突然広瀬さんが笑い始めた。あまりの事に理解が追いつかない。人が勇気を振り絞って一生懸命告白したのに……。
「ご、ごめんなさい。でも湊が悪いんだからね」
そう言いながらも笑い続ける彼女を呆然と見つめるしかなかった。
ああ……そっか……。俺は振られたんだな……。その姿を見て、遅ればせながら理解出来た。
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