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49話 焦燥感…【杏視点】

新章始まります。

「ねぇ音ちゃん…ちゃんと聞いてくれてる!?」


「聞いてるわよ。でも別にそこまで怒らなくていいんじゃないの?」


「だって、あれは絶対にモテたいんだよ……。こないだプレゼントしてくれたくせに……私の事なんて結局は何とも思ってないんだよ」


自分で言ってて悲しくなってきた。

電話口から溜息が聞こえてきたけど溜息を吐きたいのはこっちなんだけどな……。


「とりあえず落ち着きなさい。そんなに心配なら湊に直接杏が思ってる事をぶつけたらいいじゃない」


「それが出来たら、音ちゃんに相談してないよ〜」


「私、今日は忙しかったからもう寝るわね。明日そっちに行くから続きはまた明日ね、それじゃおやすみなさい」


そう言って音ちゃんは電話を切ってしまった。

ちぇっ……明日思いっきり愚痴ってやる。

本当に今日は散々な一日だった。思い返したくないのに、私の頭の中は朝から起きた一連の面倒ごとが駆け巡っていた。





朝、いつもの様に湊を起こしに行った。

どうせいつもの様にまだ寝ているだろうと思ったら、なんと彼は起きていた。


「杏か?おはよ……毎朝悪いな」


!?


「おい、ぼっ〜としてるけど、どうしたんだ!?玄関なんかで突っ立ってないで早く入ってこいよ」


どうしたじゃないよ。話し方がいつもと違う……。

むしろあんたがどうした!?って感じなんですけど。

彼の言いなりになっているみたいで癪だけどとりあえず突っ立っていても仕方ないので中に入る。


「珍しいね、朝ちゃんと起きてるなんて。着替えとか終わってるみたいだけど……。ところで定番の変装はしてないけど、どうしたの?そこまでしてるならさっさと準備しちゃいなよ。その間にご飯作るからさ」


「ああ……。今日から下手な変装はしない。これで登校するから問題ない」


「………………はい!?」


今なんて言った?その格好で登校するですって!?


「なんだよ聞いてなかったのか?だから、この格好で今日から登校するから支度は終わってるって言ったんだ」


「ちょ、ちょっと!?何ふざけた事言ってるのよ。ていうか、その喋り方何よ……。なんかいつもより態度大きくない?」


「そうか?まぁでも……俺って元々はこんな感じだからな」


「なによその『俺』って。いつも自分の事は『僕』だったよね?似合わないからやめた方がいいよ……なんか変」


そんな事言ってみたものの本心なんかじゃない。

目の前に居る彼に胸が高鳴っているのを悟られたくなくて、なんとか平静を装う事に必死なだけだ。

今の彼は自信に満ち溢れている。私は彼のオドオドした所が大嫌いだった。

優しい所は好感が持てるが、そこが湊の欠点だったはずだ。

その嫌な部分が払拭されてしまっては、困惑せざるを得ない。


嫌な部分はあるけど、理屈じゃなく彼を好きになってしまっていた。

見た目が実はいいのは知っていても、私は見た目に気を使わない彼でも十分だった。

そりゃ見た目がいい方がいいのは否定しない。私は決してBの専門家ではない。


私が彼にそうなってくれたら最高だな……って思い描いていた姿が今目の前に居る。

私の鼓動はこれ以上ないぐらい早鐘を打っている。


「そう言われてもな……」


そう言って困った様に笑う彼。

あ……イケメンのそういう顔ズルい、私は思わず見惚れてしまう。

はっと我に返り頭をブンブン振る。周りから見たら、今の私は挙動不審だろう。ここが家の中で良かったと思う。


「とりあえず、いつもの格好で学校に行きましょ。湊だって不必要に周りから声をかけられたりしたくないでしょ?」


私は何気ない感じで言い放つ。


「ああ……。それについては何とかするから、心配しなくていい」


なんですと!?心配しなくていい……じゃない!!

あんたが考えてる様な心配は全くしているつもりはない。

私が心配しているのは別の事だ。


私より可愛い子なんて街にたくさん居る。

私だって、学校では男子からそれなりに好感を持ってもらえてる。今だに告白される事だってある。

もちろん自分が人並み以上だという自覚だってある。

それでも私には自信なんてあるわけない。

だって身近な所で私なんか足元にも及ばない存在……音ちゃんだって居る。

少し前ならあった根拠のない自信なんて今は影も形もない。


困るよ……まだ彼と距離を縮めてないのに。彼が他の可愛い女の子…いや大人の女性に誘惑されたらどうしよう……。

きっと私じゃ勝てない。


「今まで通りにしてれば、何とかする必要ないじゃない」


「確かにそうだけど、それじゃダメなんだ」


何がダメなのだろう?よく分からないけど理解したいとも思えない。


「とにかく私は反対。その格好で学校に行くならもう知らない」


一瞬だけど彼の顔が曇った。

私の言うことに従わざるを得ないと諦めてくれ…


「杏の好きにしたらいいよ」


なかったらしい。私達は無言のまま朝食を済ませた。

彼を置いて先に家を出ようと考えたけど、誰かに声をかけられるたら……と不安になってしまい、結局不機嫌な態度を隠す事なく無言で一緒に登校した……。

いつも読んで下さってありがとうございます。

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