36話 波乱の文化祭 前編【湊視点】
僕のバイト先に広瀬さん達が遊びに来てから何かがおかしい。
いや、何がおかしいかは分かっているんだけどさ…。
広瀬さんが、学校でも頻繁に話しかけてくる様になったのだ。
それはそれで問題なんだけど、厄介なのは大澤君とよく口喧嘩してるから、クラスの視線が僕にも集まってしまうのだ。
良くも悪くも目立つ二人が集まれば、そりゃ注目されるよな…。
そもそも…なぜ毎度僕のとこに寄ってくるのか意味がわからない。
月日の流れるのは早く、気づけば文化祭は明日に迫っていた。
毎日練習に付き合わされた所為で、今の僕は全ての役の台詞を覚えてしまった。
広瀬さんも結構前に覚えていたにも関わらず、気持ちがまだ篭ってないとか…台詞を言う時の動きのチェックをお願いとか…そこまで本気にならなくても?ってぐらいの念の入れようだった。
それもこれも今日で解放されるのだ。
僕の平穏な放課後がまた始まる。
明日からが楽しみで仕方ない…。
「なあ?明日から暇か?」
突然声をかけられたので、一瞬反応ができなかった。
大澤君に声をかけられていたらしい。
「そだね…解放される予定だし明日からは用事はないよ。なんかあった?」
「おお、そしたらとりあえず土曜日・日曜日だけでもいいので、バイトに入ってくれ」
「またなんかあったの?」
「そうなんだよ。大学生のバイトの人が土日に実家に帰らないといけなくなっちまってさ、土日の人員が足りねえんだよ。ずっとってわけじゃなく…今年いっぱいでいいんだ。お願い出来ないか?」
正直な話、土日はゆっくりしたいので断りたいところではあるが…バイト代が入ってくると、年末に向けて何かと便利ではある。
少し考えた後、僕は承諾する事にした。
「ねぇ…?何の話をしているの?」
話が纏まった直後、広瀬さんがやって来た。
「あの…土日だけバイトに入る事になって…」
「はぁ?そんなの聞いてないわよ…!!」
いや…そりゃ今言ったから聞いてないだろうね…。
僕は心の中で広瀬さんにツッコミを入れる。
「お前にいちいち言う必要ないだろうが…」
大澤君が不機嫌さを隠そうともせず反論する。
「黙れ…チワワ」
「てめえ…誰がチワワだっ!?」
ギロッ…。ひっ…!?
広瀬さんがチワワを睨んだ。
チワワは怯えていて動けない…。
あぁ…あの目は怖いよね。別に僕が睨まれた訳ではないのだけどビビってしまった。
大澤君もいい加減学習すればいいのに…。
とりあえず、僕のバイトが決まった。音羽に連絡したら、私もたまにお店に遊びに行くね…とこちらは好意的な返答だった。
放課後…帰宅しようとすると広瀬さんからメールが届く。
『ごめん…今日優希と買い物に行くから、家に行くの遅くなる』
分かったと返事を打ち、僕は帰宅の途につく。
家で暫くのんびりしてると…チャイムが鳴った。
どうやら広瀬さんが来たようだ。
彼女を迎え入れて、明日に備えて最後の練習をする。
彼女の演技の仕上がりは素晴らしいと思う。
明日はきっとうまくいくだろう…そこはいいのだけど…。
僕は自分の役の事を思い浮かべ、暗い気持ちになる…。
ずっと同じ体勢を維持しないといけないから、地味に大変なんだよな…。
ん?僕の役が何だったかだって…?
それは『聞かない優しさ』を知ってと前に話したと思うけど…。
まぁいいや…どうせ明日には分かってしまうからね。
僕が明日演じるのは…演劇でも重要な『木の役』だ。
なぜ重要か?そりゃ僕しか背景役はいないからに決まってるじゃないか…。
いじめ…?そんなわけあるはずないさ。
コミュニケーションに難があるからきっとそこを考慮してくれたんだろう。
なら裏方で良かったのでは…だって?
しつこい人は嫌われるのは知ってるかい?
詮索はやめておいた方が自分の為だと助言しておくよ。
翌日…まさかの事態が起きた。
今…僕達は緊急ミーティングをしている真っ最中。
主役の大野君が欠席したのだ…。
彼がいないと演劇そのものが中止になってしまう。
誰か代役を探すものの、流石にそう簡単には見つからない。
クラスに重苦しい空気が流れる…。
「ちょっと提案なんだけどよ?俺一人知ってるぞ…台詞全部覚えてる奴」
クラス中の視線が提案者に集まる。
おいおい…。余計な事を言うなと念を込めて彼の方を見やる。
「鷹野に俺の練習相手させてたから。こいつ…王子役の台詞覚えちまってるぞ。あまりの大根っぷりで、練習相手として最悪だったから…王子の気持ちを理解する為に全部覚えろって強制したからさ」
そう…彼は『王様役』と『革細工工房の工房主』という二役を演じる事になっていたのだ。
学級委員で演劇部のクラスメイトが思案顔をしている。
「このまま中止よりも、私も鷹野君にやってもらう方がいいと思う。せっかく皆でここまで準備したのだから…」
まさかの賛同の意見があがる。
それを言ったのは…広瀬さんだった。
その声を皮切りに…僕にやらせようという意見が次々にあがってくる。
「分かった。鷹野君にやってもらいましょう」
学級委員がそう発言した瞬間…僕の運命が決まった。
大澤君…お、覚えてろ…。
この仕返しは絶対にしてやろうと僕は心の中で誓いを立てたのだった。
いつも読んでくださってありがとうございます。




