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35話 チワワという名のクラスメイト…【杏視点】

音ちゃんがきた事で、早速注文する事に。

オーダーを取りに来てくれたのは彼ではなかった。

オーダーを取り終えて厨房に戻るかと思いきや、話しかけてきた。


「湊君のお友達の方かしら?」


微笑みながらそう聞いて来る彼女。


湊君ですって!?わ、私ですら『鷹野君』を卒業してないのに、何この人!?

やばい…もうだめ。文句が喉から…


「今日は何でも頼んでいいからね♪彼には息子が本当にお世話になったから…」


え!?息子…?何の話をしているのだろうか?


「湊が…?すいません…そのお話、詳しく聞かせていただいても?」


ナイス音ちゃん!!私もそれ気になってました。


話によると、息子が荒れてたらしい。それを見かねた彼が手紙を書いたらしい。

その手紙がきっかけで、彼女の息子は昔みたいに戻ったとの事。

そっか…。彼…そんな事していたのか…。

彼の優しさが私だけに向いてないのは悔しいけど、それでも誇らしい気持ちにもなった。


ん?あれ…?という事は、息子さん…学校の人って事よね?

荒れていて、最近大人しくなった人…

ちょっと待って!?それって…


「あの…もしかして息子さんて…」


「あ、千尋よ。大澤千尋…知ってるかしら?」


そうだ…お店の名前…『キッチン大澤』だった。頭に血が上っていて気にもしなかったけど、チワワ…大澤だった…。

ここあいつのお母さんのお店だったか…。


「千尋君って言うんですね…」


音ちゃん…?千尋って名前…別に特殊な名前とかじゃないよね…?


「あら?もしかして本読んだの…?」


「あ、はい。私の大好きな小説なんです」


「あなたぐらいの年頃の子に読んでもらえるとは…ね。あれね?あの当時はすごい人気だったのよ」


「そうらしいですね。私はお母さんが持っていたのを読ませてもらって。友人とかであの本を読んだ人が居なくて…。あの本について話し相手居なかったんです」


「あら?お母さんに…はちょっと無理よね…」


「そうですね、お母さんとそんな話はしにくいですよね」


「そう言えば、あなたの制服この辺りで見ない制服ね?どこの学校なのかしら?」


「私…新幹線で兄の家に毎週遊びに来てるんです。今日は友達と一緒に兄のバイト先を見にきたんです」


「もしかして湊君の妹さん…!?」


だから…湊君って呼ばないでよ…。

会話には入れないから…心の中で文句ぐらいは言わせてほしい。


「はい。兄がお世話になってます」


「こちらこそお世話になりっぱなしで…」


そう言って少し思案する彼女。


「そちらのお嬢さん…?少し彼女とお話ししたいので、私も同席させていただいてもいいかしら…?」


そう言ってくるチワワのお母さん。

野放しにして彼の近くをうろちょろされるより、こっちに居てもらった方がいい…私の精神的に…。

私は了承する。


「ありがとう。そうしたら湊君、これ彼女達のオーダーの品。お任せしていいかしら?」


「大丈夫ですよ、瑞穂さん」


まさか彼が名前で呼ぶなんて思わなかったので、私は咄嗟に厨房の方を睨みつけてしまう。

慌てて目をそらす彼。へ〜、そんな態度取るんだ。あとで…どうなっても知らないから…。


空いている席に彼女が座る。


「気づいた通り、千尋はあの作品の主人公の名前から取ってるの。実はね…、あの作品書いたのちょうどあなた達ぐらいの年の人だって知ってた?」


「いえ…それは知りませんでした」


音ちゃんも知らなかったらしい。私は元々その小説を知らないのだけど…。


「彼ね…」


そこから先の話は…簡単に私達が聞いて良かったのだろうか?っていう内容だった。

彼女と彼に起きた出来事…チワワが彼女にとってどんな存在か…。

チワワが荒れてしまった時にどうしてもあげられなかった自分の不甲斐なさ…。

それを助けてくれた鷹野君にどれだけ感謝しているか…。

言葉が出なかった。少し暗くなってしまった空気を紛らわすかのように彼女はこう締めた。


「笑っちゃうけど…あの小説は、彼が私とやりたかった事を全て書きつづったらしいの。私はあんな可愛い性格してないし、彼も主人公の千尋みたいにかっこいいとこなんてなかったのよ…。だから、息子に期待して『千尋』って名付けたの。彼が名付け親だって私は今でも思ってるわ」


音ちゃん…隣で泣いてるし、私もその小説は知らないけど涙を堪えるのに必死だった。

そんな私達に改めて言う。


「自己紹介が遅れちゃったけど、千尋の母親の大澤瑞穂です。もし良かったら息子とも仲良くしてくれたら嬉しいな」


私達も慌てて自己紹介をする。

瑞穂さんが…私の方に顔を寄せる。


「あなた…彼の事が好きなんでしょう?あんまりゆっくりしてると他の子に取られちゃうわよ。私はあの人一筋だけど、私から見ても素敵な男の子だと思うもの…。頑張ってね」


そう励まされた私は…黙って頷くしかなかった。

私の気持ちを見抜くなんて、チワワのお母さん…恐るべし…。

謎の視点の彼ですが、前回の登場した時のイメージと実際周りから見たイメージにギャップをつけたつもりで書いてます。


見た目が可愛い系なので馬鹿にされ、他校の生徒にすぐに喧嘩を売られる。

部活時代は廃部等の処分を恐れうまくやり過ごしてましたが、部活をやめた後は率先して喧嘩を買ってました。

それが原因で、誰にでも強気な態度を取り皆が彼を避けるようになっていました。

湊の手紙で考えを改め、今に至る…といった感じで書いたつもりですが伝わりにくいと思うので補足させていただきます。

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