34話 破られた不可侵条約【杏視点】
最近…私はとても不愉快な毎日を過ごしている。
夏休み…あの保養所から帰ってきてすぐに起きたあの出来事が発端だ。
スーパーで彼と買い物をしてる姿を、クラスメイトに目撃されてしまった。
私達がスーパーで一緒に居た事をクラスでバラすと言われ…私は焦った。
そんな事をされたら、彼がまた遠く離れていってしまう気がしたのだ。
まともな思考が出来なくなってしまった私はその人…いやあんな奴なんて、『チワワ』でいっか。チワワの要求を飲んでしまった。
なぜチワワかって?そいつは背が男の子として小さくて(まぁ…私よりは高い)とにかくうるさい。
例えるならまさに小型犬…。
しかも容姿が可愛い部類に入るから尚更そのイメージが近いと思える。
あ!でも、男のくせにヘアピンとか使うなってツッコミたいけど…。
そのチワワは、なぜか彼の家の場所を聞いてきた。
正直私は自分で言うのもあれだけど可愛い部類に入ると思ってる。
私にあんな事やこんな事…を要求してくるのではないか…?と身構えていたのに拍子抜だった。
それぐらいなら…と教えてしまったのが私の犯したミス…。
彼は夏休みの残りをチワワの勧めてきたバイトに費やした。
音ちゃんが、それに賛同した事もあり…彼は結局その誘いを受けてしまったのだ。
そう言えば、彼は何のバイトをしていたのだろう?あまりにショック過ぎて聞いてなかった事に今更ながら気づいた…。
バイトの所為で彼はほとんど家に居る事はなかった。
私が帰る時間の少し前に帰宅して送ってくれる。
一日のうち、彼と過ごせる時間のほとんどなかった私は…段々フラストレーションが溜まってきていたのだが、それが爆発する寸前で夏休みが終わり、彼のバイトも終了した。
新学期が始まり…文化祭のクラスの出し物が決まった。
演劇をやる事になり、しかも私がヒロインに選ばれた。
相手役は…1年の時に告白してきた大野君。あの人きっぱり断ってからもしつこかったから苦手なのよね。
それでもいい口実ができたわ。彼に練習相手になってもらおう。
音ちゃんが居なくても、これで毎日気兼ねなく彼の家に遊びに行ける。
平穏な日々がこれでやっと戻ってくると思っていたのに…。
チワワが、学校で彼に話しかける事が増えた。
彼は…とりあえず返事をしているぐらいで、あまり相手にしていない様だけど、チワワは空気を読まず彼にしょっちゅう話しかけるのだ。
文句を言ってやりたいけど、あの事をバラされたくないから我慢するしかない…。
放課後は私の時間だもの…いいわ、学校の間だけは我慢してあげる…。
話をしたわけではないけど、私達は不可侵条約を結んだつもりでいた…。
しかし、それはチワワの裏切りによって一方的に破られた…。
彼が夏休みにバイトしてたお店を手伝いに行くと言うのだ。
放課後は、私の練習に付き合うはずなのに…。
私よりもバイトを優先させた彼に対して怒りが湧いてくる。
しかも…
『音羽が来る日だから二人で楽しめるから問題ないよな?』
って言ってくる始末。
何ですって!?音ちゃんと二人が嫌って訳ではないけど…その言い方は何…っ!?
私の中で何かが切れた…。
「今日、音ちゃんとバイト先に行くから」
私は音ちゃんに急いで連絡してこの後の予定を告げた。
彼の顔が引き攣っていたけどそんな事は知りません。
放課後、彼のバイト先に向かった。
そこは小さな洋食店だった。
『キッチン大澤』
看板にそう書いてある。
中に入り音ちゃんを待つ。
お店には30代中頃ぐらいの女性が一人いるだけだった。
その女性は彼に異様に馴れ馴れしい。
あっ!!ちょっとなんでそんなに近いの!?は、離れなさいよ…!!
彼とその女性の態度にイライラが募っていく。
我慢できなくて文句を言ってやろうと思った矢先、ドアのベルが鳴る。
チワワがドアを開けて店内に入ろうと足を踏み出していたのだ。
私は…思わずチワワを睨みつける。
なぜかチワワは店内に入る事なく、ドアを閉めた。
入れ替わりに音ちゃんが店内に入ってきたのだけど、私の顔を見るや小さく悲鳴をあげたのを…私は聞き逃さなかった。
まったく…人の顔を見て悲鳴をあげるなんて…失礼な…。
前話の視点が誰か…予想通りでしたでしょうか?
分からなかった方は、短編の『私は元気にやってます…』を見ていただけると謎が解けると思います。




