32話 縮まる距離…【湊視点】
文化祭の出し物は他のクラスとバッティングする事もなく、予定通り演劇に決まった。
聞くところによると、バッティングしたら抽選。最悪変更だったらしい。
それならあの日に配役まで決めるべきではなかったのでは?と思ったが、結果的に問題なかったので良しとしよう。
結局、音羽にはバレてしまった。広瀬さんがどうやら話してしまったらしい。
そしてなぜか…あの日から僕は広瀬さんの練習相手に付き合わされている。それも毎日…。
二人だけを意識しない様にする防衛本能が働いているのだろうか…?練習の時はかなり集中しているせいかもしれないが余計な事を考えずに済む。
しかし、この練習にはおまけがもれなく付いてくる。
お礼と言って彼女が毎日夕飯を作ってくれるのだ。
自分で作らなくていいのは楽なので助かるが…食事中はどうしても重い空気が漂ってしまう。
どうにかしないと…。音羽にも毎日状況を聞かれる始末。
音羽が居なくても彼女は家に来ているのだが、理由があるにせよそれはそれで問題ではないのだろうか…?
僕の悩み事は増える一方である。
「そういえばさ…?こないだ気になったのだけど聞いていいかな?」
とりあえずこの空気をなんとかしようと彼女に質問を投げかける。
「ん〜?改まってどうしたの…?」
「いや…こないだ大野君が王子の役に決まった時、嫌そうな顔してなかった?」
「見てたんだ…。隠しておく事でもないし、聞いたところで鷹野君にはそれを話す友達もいないしね…」
なんだかとっても失礼な事を言う彼女…。
確かにまぁ…そんな仲の友達は居ないけど、僕にだって最近クラスで話す人(正確には向こうがやたら話しかけてくるだけ)が出来たんだぞ。
これも正直な話、頭が痛い原因の一つであるけど。
僕に構わないで欲しいのに…。
「入学してすぐの頃に告白されたのよ。もちろんきちんとお断りしたけど」
「こ、告白…」
先日の光景が思い出された。
彼女も『しまった』って顔をしている。
告白の件の前に、あの事についてきちんと話をする良い機会かもしれない。
「昔さ…。一人の金持ちの息子が居たんだよ。そいつさ?いつもクラスの人気者で友達たくさん居たんだよ。親の言う通りの学校に入り成績優秀、人柄だってそこまで悪くない…。けど、そいつを本当に理解してくれてる友達なんて一人も居なかった。見てしまったんだとさ…クラスの連中が話してるのを。あいつと友達で居ると周りから一目置かれる…。あいつともし付き合えれば周りに自慢できる。友達だと思っていた奴らは、ステータスとしてしかそいつを見てなかった。そんな不純な理由で友達を演じていったってわけさ…。そいつ、そんな事すら気づいてなかった。馬鹿だったんだよな。その時から無理に人と付き合う必要なんてないって…自分に言い聞かせてしまったんだろうな…。繋がりを作らなければ、そんな事に気を回す必要ないしな」
他人語りの様な形をとってしまったが、おそらく彼女に伝わっただろう。
一つ肩の荷を下ろした気がした途端、抱きしめられた。
顔に当たる少しだけ柔らかな感触…。
「その人…周りに恵まれなさ過ぎて気づけなかったんだね。無条件で一緒に居たいと思える人が世の中には居るって事に…。いつかそんな出会いがその人にあるといいね」
彼女の胸に顔を埋めながら、そんな言葉が僕の耳を打った。
果たして僕にそんな出会いがあるだろうか…?
彼女の鼓動の音が心地よい。彼女の胸が薄いからよく聞こえたりするのだろうか…?
恥ずかしくて、すぐに茶化してしまうこの性格もいつか直さないといけないな。
この心地よさを手放したくなくて、僕は暫く動くことが出来なかった…。
その日以来、僕達の関係は少しだけ変わったと思う。
彼女と二人でいる時は、肩意地張らずに過ごせている。
家族以外の人に、こんな風に接する事が出来ている自分自身に驚きを隠せない。
彼女の言う『無条件で一緒に居たいと思える』って感覚が僕にはまだ分からないが、もし本当にそれが在るなら…。
そんな出会いが欲しいと思ってしまった僕は、既に彼女に『変えられていた』のだと思う…。
いつも読んでくださってありがとうございます。
最後の締めの部分は…雰囲気を察してもらえたらいいなと思い、あの表現にしました。
一応…10万字程度で完結の予定にしてますが、そこまで続けられるのか?はたまた先があるのか…?
やれるだけ頑張ってみます。




