27話 夏休みも半分が過ぎました…【湊視点】
広瀬さんが遊びに来た翌日、僕は何故か音羽に連れられて不動産屋まで足を運んでいた。
どうやら新しい部屋を借りるらしい。まだ夏休みも始まって間もないのだからそこまで急ぐ必要はないだろうに…。
実家だとご飯作らなくていいから、夏休みの間はあっちでゆっくりしようと思ってたのにアテが外れてしまった。
部屋については、僕の意見は全く聞かれる事なく、1時間後には決まっていた。
話を聞くとその不動産屋の所有している物件らしく、鍵渡しの日に契約を交わすとの事で、申し込み用紙のみ記入して来た。
そして、その翌日…。鍵渡しの日を迎えた。契約しなくてはいけないので、その日はお袋も来た。
え?引っ越すのが早いって!?
なぜかお袋に急かされるし、音羽も夏休みの間は僕の部屋で厄介になるから急いでとか言うし…。
僕に拒否権がないのは今に始まった事ではないから、もう慣れたが確かにこれは早すぎる。
しかも、音羽が僕の部屋に夏休みの間中ずっと居ると言った点も腑に落ちなかった。
それがほんの2週間前にあった出来事。
あの日、もしもこうなる事が分かっていたら僕は断固拒否したであろう。
今さら言っても意味がないのは分かるが、それぐらい愚痴らせてくれてもバチは当たらないと思う。
なぜかあれから毎日広瀬さんがウチに遊びに来るようになった。
邪魔をしてはいけないと思い、自分の部屋に行こうとしても音羽が許してくれない。仕方ないので、リビングで夏休みの課題を一緒にしたり、隣で気まずくなりながらもガールズトークを聞かされたりと…。
そんな日々を繰り返していると広瀬さんも調子を取り戻してきた様で、今では元通り普通に会話している。
とは言っても、そこそこに話すぐらいしかしないのだけど。
僕はいつ『あの事』を質問されるかという恐怖に怯えていたりするのだが、彼女は全く触れてこない。
もしかして忘れてたりするのだろうか?そうだったら助かるのだが…。
「夏休みが終わったら文化祭があるのよ」
「そうなの?杏の学校は文化祭とか力入れる学校なの?」
「うーん、ぼちぼちかな。お店とかするクラスもあったりするから」
「そうなんだ…。今年は私も行こうかしら」
そんな事を考えていたら隣で何か不穏な話をしているのが聞こえた。これは横槍入れないとマズイ話だ。
「いや、音羽来ると面倒な事になりそうだから遠慮してくれ」
「そんな事言われてるけど…杏?私が来たら迷惑かしら…?」
「そんな事ないよ!!鷹野君の事は気にしないで遊びに来てよ」
とまあ…こんな感じでいつも2対1となる訳で…。
「話変わるけど、夏休みも半分過ぎたわね。海に行ってないけど、もうクラゲも出てるから無理よね…」
「そうだね、海は流石に厳しいかな」
「杏は泳いだりするのは好きかしら?」
「うん、好きだよ。でも海は暫く行かなくていいかな…」
「そうなの?」
「うん。去年友達といったのだけど、ナンパ目的の人が多くてウンザリしたの」
音羽が意味深に頷く。なんかワザとらしいな…。
「杏だったらそうなるのも分かるわ。湊もそう思うでしょ?」
「ああ…そうだな…」
素っ気なく返す。こういうやり取りももう慣れた。こういうのは恥ずかしがったらダメだという事をこの夏に僕は学んだ。
「つまらないわね。まぁ、いいわ。でも泳ぎたいのに海には行けないって可哀想よね」
「そうだな…」
面倒なので、惰性で相槌を打っておく。
「何とかしてあげたいと思うでしょ?」
「ああ、そうだな…」
ん?
「杏良かったわね。海ではないけど泳ぎに行くわよ」
「音ちゃん、いきなりどうしたの!?」
「あそこ私1人だとダメって言われてるの。湊が一緒に行ってくれるならお父さんも許可してくれるの」
広瀬さんが話についていけず、呆気にとられている。
「お父さんの会社の保養所があるのよ。そこに行くわよ」
やっぱり…。とりあえず打った相槌の代償は大きかったようだ。
僕は自分の迂闊さに歯噛みした。
「それじゃ、音ちゃんまたね!!」
夕飯も終わり、帰宅しようとする彼女の後に続く。
彼女はずっとご飯をウチで食べてる。
お母さんと二人暮らしで、仕事でいつも遅いらしい。
外食で済ませてくることが多く、彼女はいつも1人で食事を取っていたとの事だったので、それなら…と3人で食べる様にしたのだ。
そして帰宅する時はいつも僕が送って行く。
歩いて5分程の距離をいつもの様に2人で歩く。
「ねえ?鷹野君、保養所に行くの嫌だったんじゃない?」
彼女が申し訳なさそうに聞いてくる。
「けど、泳ぐの好きなんだろ?あそこなら僕ら以外誰もいないから、ゆっくり泳げるよ」
「貸切なんだ…」
「あー、親父の会社の保養所って、従業員が誰でも使えて予約制だから、バッテイングしないんだよ」
「す、すごいね…」
「しかも使う人少ないからさ?多分予約すぐ取れると思うよ。いつでもいい?希望日とかある?」
「特にないよ、いつでも大丈夫」
「そっか、そうしたら最短の日取りで手配しておくよ」
「ありがとう、よろしくお願いします」
そう言って嬉しそうに頭を下げる彼女を見て、まぁ…なんとかしようと思ってしまうのは、仕方ないと思う。
あんな顔見せられたら、誰だってそうなるだろうと自分に言い訳しながら、僕は彼女を家まで送っていった。
いつも読んでくださってありがとうございます。




