25話 返答に困る質問は避けてください【湊視点】
帰宅して玄関で靴を脱いでいると、お袋が出迎えにきた。
「お邪魔します」
「いらっしゃい。疲れたでしょ?早く上がって上がって」
簡単な挨拶を済ませ、とりあえず中に入る。
広瀬さんがお土産を渡しながら改めてお袋に挨拶している。
「本日はお招きいただきありがとうございます。宜ければ皆さんで食べて下さい。お口に合えば良いのですが…」
「あらあら。逆に気を使わせてしまったわね。ありがとうございます、後でいただきますね。お茶の準備をしたからとりあえずこちらにどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
そう言ってテーブルに座る彼女…。
続いて音羽が彼女の目の前に…座らず何故か斜め前に座った。
「湊も座りなさいよ」
「あー、そうだな」
短く返事をするものの、どこに座ればいいのだろうか?
とりあえず彼女の横に座る事にした。
お茶菓子を持ってきたお袋が彼女の前に座る。
「あらあら…湊君は杏さんの横に陣取ったのね。なるほど、テーブル挟むと距離が遠くなるもんね」
「なっ!?」
特に何も考えず座っただけに、そう言われてしまうと意識してしまう。
隣の広瀬さんを見ると、同じ様に真っ赤になってる。
相手が僕であれ、そう言われて流石に照れてしまったのだろう。
彼女がお袋のおもちゃにされては可哀想だと思い、話題を変える。
「お袋…広瀬さんの事からかってないで、まずはこないだのお礼言わなきゃだろ?」
「そうだったわね、私ったら…。杏さん、先日はご迷惑かけてすいませんでした。怪我の方は大丈夫だった?」
「はい、おかげさまで。火傷の痕とかもありません。治療費も出して下さってありがとうございました」
「良かったわ。でも…」
「あ…。これは大丈夫です。もともと切ろうと思ってたので。音羽さんに綺麗にしていただいて、すごく気に入ってるんです!!」
「そう言ってもらえるとこちらも救われるわ。不謹慎だけど短いのもすごい似合ってるわ。もともと可愛いからって事もあるでしょうけど」
「そ、そんなことは…」
「いいえ、杏は可愛いんだから。謙遜してばかりしていちゃダメよ。もっと自信持たないと」
「ちょっと音ちゃんまで…」
広瀬さんが困ってる。可哀想に…。
でも、助け舟出すのはやめとこ…。
「湊君?あなたも杏さんの事、可愛いと思うでしょ?」
うげっ…。お袋、何てこと聞いてくるんだよ。
こっちにまで飛び火してきた。広瀬さんを見捨てたバチが当たったのだろう。
いちいち答えにくい質問してくるなよ…
僕が何も言わず黙っていると、広瀬さんが横目でチラチラこちらを見てくる。
な、なんなの…!?いや、そんな風にされても答えられないからね!?
「…………」
沈黙が続く。そのせいか、空気が重くなってる様な気がする。
「…………」
それでも僕は自分を貫く。
「…………」
お袋と音羽が僕に対して、睨みを利かせているが僕は、理不尽な圧力に屈しない。
「…………」
「…………」
隣にいる広瀬さんが俯いている。
自分の事を可愛いと思うかと聞かれて、その聞かれた人が答えてくれなかったら対象者である広瀬さんとしてもどうしていいか困るよな。
う〜ん、別に彼女を困らせたいわけではないんだけどな。
「……………」
「……………か、可愛いと思う…っ」
言った瞬間顔から火が出るぐらい恥ずかしかった。
僕はいたたまれなくなって、つい口にしてしまった。
そもそも母親と妹の前で、なぜこんな事言ってるのか意味が分からない。
おい、2人とも…。なにニヤニヤしてるんだよ?後で覚えておけよ。
恥ずかしくて広瀬さんの方を見れない。
「最初から素直にそう言えばいいのに」
「ほんとよね。変なところでカッコつけるんだから…」
親しき仲にも礼儀あり…
誰かこの2人にそんな言葉が世の中にはある事を教えてあげてください。
それからも事あるごとに、僕に意見を求めてくる。
この2人一体何がしたいのだろうか…。
「湊君、ちょっといいかしら?」
先程お茶のおかわりを入れに台所に行ったお袋に呼ばれたので席を立った。
「どうした?」
「牛乳切らしちゃったの。明日の朝とかにも飲むと思うから買ってきてもらえるかしら?低温殺菌の方ね」
明日の朝?いや、ないなら別に飲まなければいいだろうに。
「せっかく泊まりに来てくれたんだから、ちゃんとおもてなししたいの。だからね…お願い」
ん?ちょっと待て。泊まるってなんだ?
…………あっ!!
「ひ、広瀬さん泊まるの!?」
慌てて質問する、聞いてないぞ。
「泊まるに決まってるじゃない。何言ってるのよ」
じゃないって…そんな当たり前の様に言われても…。
「あの音と仲良くしてくれてる子なのよ?2人がもっと仲良くなって欲しいって思ったらダメなのかしら?」
確かに。音羽とあんなに親しげに話せる人が出来たのは、兄としても嬉しい。
あまりにもっともな意見を言われてしまったので、僕は考え込んでしまった。
「仲良くなって欲しいのは、あの2人だけではないのだけどね…」
そんなお袋の呟きは、考え事をしていた僕の耳には入ってこなかった。
頼まれた買い物を済ませ、戻ってきた僕を待っていたのは、なぜか真っ赤になった彼女と、親子だと分かる似たような笑みを浮かべるお袋と音羽。
僕がいない間に何が起きていたのだろう?
広瀬さん、もう2度と泊まりに来るとか言わないだろうな…。
その光景を見た僕が最初に思った事はそれだった。
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