18話 今日は構っている余裕はないので見逃してあげます【杏視点】
2人に付き添ってもらい、帰宅の途につく。
彼も妹ちゃんもなんだか表情が固い。
私が色々話しかけているが、どうもうまくキャッチボールが出来ない。
噛み合わないという点だけで見れば、いつも通りなのだろうけど、今日のこれは違う気がした。
だって妹ちゃん…病院に来てからずっと泣きそうなのを我慢している様にしか見えないだもん…。
家に着いたので、2人に上がってもらう。
彼が妹ちゃんに耳打ちして、それを聞いた彼女が頷いた。
何の相談しているんだろ?
気になったが、あえてここは触れない様にしよう…。
こう見えて私ってば、結構空気読めるいい女なんだよね。
「広瀬さん、今日は妹の為に、危険な事をさせてしまって悪かった。その…髪の毛も燃えてしまって、なんとお詫びしたらいいのか…。病院の治療費はこちらで負担するから、しっかりと診てもらってくれ。これはお袋からも絶対にして欲しいと言われてる。もし傷が残ったりでもしたら、君と君のご両親に僕らは申し訳が立たないから…」
へっ………!?今喋ったの誰……!?
私は目の前で起きた事が理解できず、彼が何と言ったかほとんど聞いてなかった。
「うぉい…。お前誰だよ…!?」
うわっ!!びっくりしすぎて思わずマジツッコミ入れちゃった。
不可抗力…うん、これは仕方ないよね、次から気をつけよう。
いや〜、私ってばうっかりさんだな。どんまいっ私!!
「誰って…それは酷いな。クラスメイトの名前を忘れるとか酷いと思うぞ」
や、やっぱりだ。聞き間違いではない…。
か、彼がどもらず話している…!?
これはきっと夢…うん、きっと夢に違いない。
「おーい、ちゃんと話聞いてくれてるか?」
彼が私の顔の前で手を振りながら、そんな事を言ってくる。
そこまでぼけっとしてないやい。
まったく、なんなんだこの態度。口を開いたと思えば、なんだか頭にくるぞ。
少しふくれっ面になった私に横から声がかかる。
「あの……。今日は本当にご、ごめんなさい」
妹ちゃんが立ち上がり、深々と頭を下げる。
まさか、こんな場面に遭遇する事になろうとは…。
私は彼を無視して、彼女と会話する事を選んだ。
「あ、うん。もう気にしないでいいからさ。病院でも散々謝ってもらったし」
「で、でも…」
話がまだ途中にも関わらず、空気を読まない男が会話に割って入ってくる。
「なぁ、音羽。なんであんな危険な状況にも関わらず鞄取りに行こうとしたんだ?」
あ…そこは私も気になる。でも、普通そこ聞くか…!?
ほら見ろ…。妹ちゃん…話しづらい様で彼をしきりに気にしているじゃないか。
私は話をすりかえる。
「はぁ、髪切りに行かないとよね。今日はなんだか疲れたけどこのままって訳にもいかないよね」
妹ちゃんの顔が強張る。あれ?私もしかして話題の変え方…失敗した…!?
あ、落ち込んでる…。ど、どうしよ〜。
そ、そうだ!!
「ねぇ、このまま外に出るのは流石に恥ずかしいからさ?妹ちゃん良かったら、だいたいでいいから髪切ってくれない?」
「え…?あ、あの…その…。わ、私で良ければ……」
おいおい、なぜそこでどもる。そんな所は彼に似なくてもいいよ〜。
思わず笑ってしまいそうになる。
「ありがと。それじゃお願いするわね。ついでに、今日この後の予定は?」
「いつも通りの湊の家に泊まる予定でいたので、それ以外の予定はありません」
「そっか…。そしたら今日はウチに泊まっていったらいーよ。あなたも疲れたでしょ?」
「えっ!?で、でも…」
予想外の流れだったのだろう。驚き顔が無駄に可愛いぞ。美人て得だな…ちくしょう。
「へぇ〜、疲れた私にご飯を作ってくれる優しさも持ち合わせていないのね」
「そ、それは…」
「ないの?」
「いえ、それではお言葉に甘えて…」
話がまとまりそうな所で、また横槍が入る。
「音羽、ご飯だけ作って家に帰ればいいだろ?」
こ、こいつ…。なんでこんなに空気読めないんだよ。
今、彼女を家に帰したら彼女自分を責めるって分からないのかしら?
そんな事考えなくていいって、だれが言えば1番いいか…そんな事も分からないのかしら!?
彼に対するイライラが募ってくる
「鷹野くん?」
おお、声にドスが効いてる。自分で出した声につい驚いてしまった。
「は、は、はいっ!?」
「先に帰ってて。ご両親に妹ちゃんお預かりするって伝えてくれるかな?いや、伝えてくれるよね?」
これはお願いではない。命令だ…。
流石にこれは彼も正しく理解出来たらしい。
声を出さず、首を縦に振っている。
ん?妹ちゃん…。なぜそんな怯えた目をしてるの!?
「それじゃ、私達はこの後色々忙しいから…鷹野君帰っていいよ」
彼は黙って玄関に向かう。少し気の毒な感じもするが、今は彼に構っている暇はない。
玄関までは見送ってあげようと思い、私も彼の後に続く。
あ、そう言えば忘れた。
「鷹野君?今日は色々忙しいから見逃してあげるけど、なぜあなたが普通に喋れるのに学校ではどもっているのか…。これきちんと説明してもらうからね」
彼は苦虫を噛み潰したような顔をして一言『わかった』とだけ呟いて、姿を消した。
うん、すっごい嫌そうな顔してたな。
これも今度会った時に、ねちっこく言ってやろう…。
杏は、この憤りが発散出来る次回に想いを馳せつつ、音羽の居るリビングに戻っていった。




