17話 繋いだ手の温もり…【音羽視点】
人には何かしら宝物って呼べるものがあると思う。
私にとってのそれは、大切に手帳に挟んでいる一枚の紙切れ。
その紙切れに関係のある彼は、その事をもう覚えてないんだろうけど…。
湊のアパートが燃えている。私の鞄は部屋の中に置いたままだ。
取りに行こうと駆け出すが、すぐに湊に止められてしまう。
「離して!!離してってば!!ダメなの。鞄、部屋に置いてるの。中にアレが入ってるの。お願いだから離して!!」
私は精一杯叫ぶ。お願いだから私を止めないで…。
そんな私の願いは叶う事はなく、湊は手を緩めてはくれない。
急がないと…。焦りが冷静な思考を邪魔する。
火が荒れ狂う部屋の中に、行くなんてそもそも自殺行為だ。
でも私にはそんな事よりも、アレが燃えようとしているのをこのまま黙って見ている事なんて出来るわけがなかった。
そんな私の横を風がすり抜けて行く。
私が手に持っていた鍵が取られ、誰かがアパートに向かって走って行く。
その誰かは私の横を抜けて行く時、こう言った。
『大丈夫、あなたの大切なものは私が持ってきてあげる』
私が敵だと思っている彼女がなぜ?
どうして私にそこまでしてくれるの?
彼女の行動の意味が理解できない。
そんな彼女の後を、湊が追いかける。
2人が無事に戻ってきます様に…。
どうか鞄が返ってきます様に…。
私はただそれだけを祈りながら、2人が入っていった部屋を必死に見続けていた。
そんな祈りが届いたのか、2人は無事に戻ってきた。
鞄は少し燃えていたけれど、中に入れていた手帳は無事だった。
私は彼女から受け取った鞄を抱きしめる。
彼女にきちんとお礼を言おうとして、そこでようやく私は気づいた。
彼女の髪が燃えてしまっていた事に…。
これは、髪を切らないとどうしようもないだろう。
私は今更になって自分が人に迷惑をかけてしまったのだと自覚した。
しかもその迷惑は、人の命に関わるぐらいに…。
その事実が怖くて歯がカチカチなる。謝ろうとしても声が出ない。
そんな私に彼女が聞いてきた。
『大切なものは無事だった!?』
私は首を縦に振る事しか出来ず、出ない声の代わりにお礼を伝えるべき方法が思いつかず彼女に抱きついた。
涙と鼻水が彼女の制服についているが、彼女はそんな事も気にせず私を抱きしめ返してくれた。
彼女が私の頭を優しく撫でる。
湊以外にそんな事をされたら嫌悪感しか抱かないはずだったのに、なぜか凄く安心できた。
その後の処理を湊に頼まれた。2人は病院に向かうと言うので、後で合流する旨だけ伝えた。
頼まれた事を終わらせ、私は急いで病院に向かう。
2人は大丈夫だろうか?
病院に私が着いた時、3人がロビーで待っていた。
どうやら彼女のお母さんも来ていたらしく、入れ違いになったらしい。
湊から、その時の話を簡単に聞いた。彼女のお母さんが泣いていたと言う話を聞いて、私は居たたまれなくなった。
私のした事は、そういう事なんだろう…。
いったいどれだけの人に迷惑をかけてしまったのだろうか…。
病院を出て、お母さんが先に帰ると言いだした。
彼女に何かを言っている様だけど、私には聞き取れなかった。
帰り道、いつもとは違う感じで話が繋がらない。
その理由は私にある。彼女が気を使って話しかけてくるが、素っ気なく返してしまう。
ここだけを見れば、いつもと同じ光景なのだが、今の私はいつもみたいな、彼女と話がしたくないとかそういう理由でそんな態度を取っているわけではない。
あれだけの迷惑をかけて、どんな顔をして彼女と話をすればいいのだろう。
いつも通り振舞えるほど、私は厚顔無恥ではない…。
そんな私の態度を察してか、彼女がいきなり手を繋いできた。
私は顔に出やすかったりするのだろうか…?
『いつまでも気にしないの』
彼女は何も言わないが、私にそう語りかけてくれている様な気がした…。
私は彼女の手をぎゅっと握り返した。
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自分としては、この章はシリアス多めで書いてるつもりです。
雰囲気がうまく伝われば良いのですが…




