16話 親との初顔合わせですが、色恋の話ではありません【湊視点】
広瀬さんが、音羽の手から鍵を取りアパートに駆け出す。
彼女の後先考えぬ行動に舌打ち一つ。
僕は急いで彼女を追いかける為、辺りを見回す。
野次馬に来ていたおばちゃん達に音羽の事を頼んで、アパートに向けて走りだす。
取り乱す音羽を落ち着かせる為に、ほんの少し時間を使ってしまったのが悔やまれる。
彼女は無事だろうか?焦りが募る。
彼女の姿は既に外からでは確認出来ない。部屋の中に入ってしまったのだろう。
階段を一段飛ばしで駆け上がり、自分の部屋の前までやってくる。
部屋を見渡す。居た!!畳の部屋に座り込んでいる。
何をしているんだ!?早く逃げないと。
煙のせいで彼女が何をしているのか、はっきりと確認出来ない。
煙を吸い込まないように、袖で口を塞いで急いで彼女に近づく。
「広瀬さん、何してるんだよ。早くっ!!」
僕の声はどうやら彼女の耳には届かなかったらしい。
彼女は一心不乱に鞄に移った火を消そうと座布団で叩いていた。
やっと消火出来た彼女が、ようやく僕の存在に気づく。
「は、早く!!」
僕は彼女に駆け寄り、腕を引っ張って部屋から飛び出した。
遠くから、消防車のサイレンの音が聞こえる。
体の所々に軽い痛みを感じるので、火傷ぐらいはしているかもしれないが、あの火の中に飛び込んで、これぐらいで済めば御の字だろう。
ただ、彼女の方はそれでは済まなかった。
タンスの近くにいたせいだろう、ツインテールの片側は見るも無残な姿になっている。
僕は危険な事をした彼女を叱りつけようとして、彼女の方を見やる。
でも音羽が彼女に抱きついて泣いている姿を見て、何も言えなくなってしまう。
その光景に見惚れてしまったとか悔しくて絶対に言えないけど…。
駆けつけた警察には、音羽から事情説明をしてもらうようにお願いして、僕らは病院に向かった。
双方の親に連絡して、お袋と彼女の母親が病院に駆けつけてくれた。
簡単に事情説明をして、彼女の母親に謝罪をする。
「まったくこの子は…。相変わらず後先考えずに行動して…。お願いだから心配させないで。あなたに何かあったら私はあの人に何て言えば…」
彼女の母親から漏れた言葉から推測するに、彼女はもしかしたら母子家庭なのかもしれない。
彼女の方に目を向けると、申し訳なさそうにシュンとしている。
その様は、耳を垂れた子犬みたいだ。
そんな彼女をフォローする為、僕は彼女の母親に改めてお詫びの言葉を述べた。
さすがにこの場でどもるわけにもいかず、僕は普通に喋っていた。
泣いている母親をどうしていいか分からないようで、彼女は珍しく終始オロオロしていた。
僕が普通に喋ってたなんて、多分気づいてないだろうな…。
彼女の母親は仕事に戻らないといけないとの事で、あとはこちらに任せてもらうという事で了承し、仕事に戻っていった。
申し訳ないと謝りっぱなしだったが、元はと言えば迷惑をかけたのはこちらである。
お袋とのお詫び合戦に不謹慎にも笑ってしまいそうになったが、ここで笑ってしまっては後が怖いので、笑いを噛み殺した。
遅れて駆けつけた音羽と合流し、4人で病院を出る。
彼女を送っていこうとしたら、お袋は先に帰ると言いだした。
『私がいたら落ち着いて話も出来ないでしょ?』
との事だ。
『お詫びをしたいから、夏休みになったら絶対にウチに遊びに来てね』と彼女に告げて、お袋は去っていった。
後に残された僕らは、彼女を家まで送る為に歩きだしたが、その道中は思う様に会話が続かない。
勘違いしないでほしいが、会話が続かないのはこの雰囲気のせいとかではなく、安定のいつも通りである。
ご存知だろうから…わざわざ説明するまでもないか…。




