11話 嘘つきは嫌いです。【杏視点】
直ぐに了承してもらえると思っていたら、まさか断られた。
約束があるというのだから、普通ならば引き下がるべきだと思う。
もちろん私だって、引くべき時は引くし、その判断ぐらいまともに出来るつもりだ。
でも、何故か今日だけは絶対に譲ってはいけないと女の勘が訴えかけていた。
その直感を信じてこうなったわけだけど、今になって少しだけ後悔しちゃってる。
無理矢理言わせちゃったから、嫌われたりしてないかな?
簡単に男の家に行く軽い女とか思われてたら嫌だな。
とか…。
どうやら彼は私の家の近くに住んでいるらしい。
電車に乗って、目的の駅(私がいつも降りる駅の一つ手前)で降りる。
実は、学校の近くの駅で一悶着あった。
電車に乗る前に、券売機で私の切符を買おうとしたので慌ててどこに行くかを確認した。
まったく…私が定期を持っているのか?持っていたら使えるのか?
それぐらい聞いてくれたっていいのに…。
本当に口数が少ないし、何を考えてるのか全くわからない。
でも…。少しだけびっくりしたことがある。
駅に向かって歩いている時、彼は車道側を歩いてくれた。
あまりにさりげなくだったので、最初は気づかなかった。
他には、途中で子供が道を渡ろうとしているのを見た時、いきなり歩くのが遅くなり、心配そうに子供を注視してた…。
何となくだけど、困っていればすぐに助けにいける様に準備していたんだと思えた。
彼は相変わらず挙動不審ではあるのだけど、無意味に挙動不審なのではないのかもしれないという疑惑が私の中に生まれた。
彼は一体なんなんだろう…。
何故私は嫌いなはずの彼をこんなにも知ろうとしているのかな?
自分の事が自分でもよく分からない。
電車を降りて、近くのスーパーに寄り道。
自分から晩御飯を作ってあげると言った以上、情けないところは絶対に見せたくない。
彼に美味しいといってもらえる様、頑張ろう…秘かに気合いを入れる。
何を作ろっかな?彼は何が好きなんだろう…。
どうせなら好きなものを作ってあげたいから彼に聞いてみた。
返ってきた答えは…
「あ、え、えっと…。す、好き嫌いはないので、お、お任せします」
だそうだ。
1番言われて嬉しくない返事がきたので、もっとハッキリ言いなさいよって内心思ったけど、今日はお詫びの意味でって話なのでここはグッと堪える。
どうしよう?コンビニでカレーを買おうとしてたからカレーにしようかな?
辛いのは大丈夫かと聞いたら、大丈夫との事だったのでそれに決まり。
あとはサラダを付ければいいかな。
お金を出すとか言うから、断った。
今回は私がお礼をするんだもん、お金は受け取れない。
私が意固地になっていると、彼は困った様に私に聞いてきた。
『一緒に食べてくれるのかと…』
相変わらずドモッてたけど。
私も家に帰ってもご飯はないので、せっかくだし食べていこうかな?
別に彼と少しでも一緒に居たいとか、そんな事は思ってない…はず。
私も一緒に食べる旨を伝えると、彼は半分出すと提案してきた。
彼曰く、私に作ってくれるお礼がしたいと。だから私の分は自分が出すと…。
断ろうと一瞬考えたが、彼の申し出を袖にするのもどうかと思うので、ここは素直に従う事に。
買い物を終え、彼の家に向かう。駅から10分ぐらいの2階建のアパート。2階の角の部屋が彼の家らしい。
アパートの階段を登りながら、男の子の部屋(しかも1人暮らし)に初めて入る事を意識して鼓動が早くなる。
ここまで意識しない様にしてたけど、やはりここまでくると意識してしまう。
落ち着け私。どうせ彼は何も出来ないへタレなんだ。
自分に言い聞かせる。
彼がポケットから鍵を取り出し、玄関を開ける。
「あれ?湊、帰ってきたの?お帰りなさい」
中から女の声が聞こえてきた。
一人暮らしって言ったのに、なんで女が居るわけ!?
思わず私は彼を睨みつける。
彼も驚いた顔をしていたが、私はそんな事はおかまいなしに彼の足をおもいっきり踏みつけた。
音羽様降臨しました。次回誰の視点で書くか、少し考えます。




