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Blue Ridge Saga —クリスタニアの過去  作者: おーがすてぃーぬ


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9/25

憎しみの理由ー散らされた花

クリスタニアの航海は順調に進んでいます。

日向キャプテンが感情を露わにする理由を語ります。


外洋は穏やかだった。クリスタニアは一定の速力を保ち、水平線は揺るがない。


当直を交代したリヒトはデッキに出た。潮の匂いがわずかに強い。手すりに寄りかかり、息を整える。


少し離れた場所に、日向が立っていた。


その背中を見た瞬間、いつもと違う空気を感じる。


「キャプテン」


声をかけると、日向は振り返った。


その表情に、リヒトは一瞬言葉を選び直す。


「先ほどの無線ですが、あからさまではありませんか。DMCは確かに気に入りませんが、あれはあまりにも……」


日向はすぐには答えなかった。海を見たまま、リヒトの言葉を遮った。


「あれでも足りない」


間を置かずに続ける。


「プリズナーなど沈めばいいと思っている。DMCという存在すらなくなればいい」


隠す気のない言葉だった。


リヒトは目を細める。


「自分はDMC出身です。それを嫌う理由は理解できます。ですが、そこまで憎むのは……何があったのですか」


風がわずかに強くなる。


日向は身動きせず、僅かに目を細めて言った


「教えてやろう。お前だけに」


短く言い、視線を海から外さない。


「あの日のことだ」



音楽が流れていた。


高い天井に反響する弦の音と、グラスの触れ合う音。笑い声が重なり、空間は整えられている。


船会社が多く集まり、VIPの顔ぶれは錚々たるものだった。


誰もが、正しい距離を保っていた。


その中で、ただ一人だけ空気の違う男がいた。


クリストファー・ヘルストレーム。

DMCの次期副社長であり、後継者だ。


所作は完璧で、笑みも崩れない。整った容姿でゲストの視線を集めている。だが視線だけが異質だった。


相手を見ていない。値踏みしているかのように目だけは冷たい。




パーティーに疲れた富士崎は、テラスで休んでいた。

会場のさざめきも音楽も、全てが遠い。


今は煌びやかなパーティーだが、明日からの仕事を考えると気が重い。富士崎は思わずため息をついた。



「あなたのように美しく、才ある方が」


穏やかな声だった。気配に気づかなかった富士崎は驚いて振り返る。


「重い責務を負う必要はありませんよ」


違和感に気づいたときには、距離が詰まっていた。

他の女性ならときめくような場面かもしれないが、富士崎は本能的に危険だと感じた。


音楽はまだ聞こえている。だが、人の視線は来ない。

「お気遣いありがとうございます。そろそろ戻りますわ。うちのクルーたちが心配しますので。」


必死に作った笑顔で、クリストファーの横を通り過ぎようとした。


だがー


腕を掴まれた。

その力は思ったより強く、振り解くことが出来なかった。


「心配いりません。あなたが逆らわなければすぐ終わりますよ。」


穏やかな声のまま、距離を詰める。


その手が、ためらいなく境界を越えてくる。


叫びたくても声が出ない。


周囲は何も変わらない。笑い声も、音楽も、そのまま続いている。


逃げ場がなかった。



日向は違和感を覚えた。


ふと見ると、会場にいるはずの富士崎がいない。


(いつの間に…)


辺りを見ると、テラスのカーテンの向こう側からクリストファーが出て来るのが見えた。


嫌な予感がし、背中を何かが伝っていく。



名前を呼ぶより先に、身体が動いていた。



そこにいたのは、富士崎だけだった。


壁に背を預けるように崩れている。


ドレスは乱れ、呼吸は浅い。


視線が合わない。


周囲には、誰もいない。


日向は理解した。


何があったのかは見ていない。


だが、何もなかったわけではない。



「……桜?」


呼びかけても、返らない。


ただ、指先だけがわずかに動く。


何かを探すように。



日向はその手を取る。


前に立ち、外からの視線を遮る。


それ以上は問わない。



「大丈夫だ」

それだけを言う。



遠くで音楽が続いている。

ここで起きたことだけが、切り離されていた。



日向は言葉を切る。

「今でも…忘れたことはない。」



リヒトは何も答えなかった。


風が強くなり、波がわずかに白く立つ。


クリスタニアは変わらず進んでいた。




DMCとの関係は、単なる競合では終わりません。


この先、少しずつ繋がっていきます。



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