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Blue Ridge Saga —クリスタニアの過去  作者: おーがすてぃーぬ


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10/29

女王を見上げる夜―それは救いか錯覚か―

レジェンディアだけは、若い航海士に寄り添い続けます。


踏み込まず、ただそこにあるだけ。

船と航海士は時々大人の関係にもなります。

日向キャプテンから聞かされた過去の出来事は、リヒトの中に重く沈んでいた。


晴海埠頭の夜は静かだった。


海から吹き上げる風が、ゆっくりと公園の木々を揺らしている。

遠くでは港の灯りが滲み、海面に細く伸びていた。


足元の砂利が、靴の下で乾いた音を立てる。


その一歩一歩が、妙に重い。


 


DMC出身である自分。

レジェンディアに惚れ込んで移籍したはずなのに――


ここにいるべきではない。


そんな感覚だけが、拭えずに残っている。


 

答えは出ない。


考えれば考えるほど、何かを見失っていく気がした。


 

ふと、足が止まる。




そこには、満月の光を浴びたレジェンディアが、海の上に静かに浮かんでいた。


瑠璃色の船体は、月光を受けて輪郭を際立たせ、

まるで現実から切り離された存在のように見える。


 

「お前に惚れたのが間違いだったのか……」



声は小さく、夜に溶けた。



レジェンディアは何も答えない。

ただ、そこに静かに佇むだけだ。


風が、強くなる。


その流れの中で、気配が混じった。



少し離れた場所で、同じように海を見ている女がいた。


黒い髪が風に揺れ、細い首筋が月明かりに浮かび上がる。

横顔はどこか憂いを帯びていて、視線は船から外れない。


リヒトは、自然と声をかけていた。


「船がお好きなのですか」


女は振り向きもせず短く答えた。


「えぇ」


わずかに目を伏せる。

風に乗って、かすかに甘い香りが漂う。


「船は裏切らないし、人を傷つけることもないから」


その声は静かで、感情を抑えている。


 


リヒトはわずかに目を細めた。


船の話ではない。


そういう言葉だった。


 


沈黙が落ちた。


波の音が、遠くで繰り返されている。


 


それでも、不思議と居心地は悪くなかった。


互いに踏み込まない距離が、ちょうどいい。


 

やがて女が口を開く。

「ごきげんよう。また月夜にお会いしましょう」


 

それだけを残し、踵を返す。


ヒールが石畳を打つ音が、規則正しく響く。


 


風が、一段強く吹き抜けた。


リヒトは思わず顔を上げるが、

そこにはもう、誰もいなかった。


 


残っているのは、風と、月光と、海の匂いだけ。


「……まるでクリスタニアだな」


リヒトは欄干にもたれ、レジェンディアを見上げた。

  

「船は誰も傷つけない……か。そうであれば良かったのにな…。」




遠くでどこかの船の汽笛が鳴った。


低く、長く、胸の奥に残る音だった。


 


リヒトはそっと顔を覆う。


どうすればいいのか。

やり場のない様々な思いがいくつも駆け巡っていく。

 


月が高く昇っても、レジェンディアだけは静かに航海士の苦悩に寄り添った。


船は何も語りません。


ただそこに在り、

見上げる者にそれぞれの答えを委ねるだけです。


彼女の言葉が真実なのか、

それとも願いなのか。


そして、あの出会いが偶然だったのかどうかも――


まだ、誰にも分かりません。

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