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Blue Ridge Saga —クリスタニアの過去  作者: おーがすてぃーぬ


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11/30

満月の逢瀬-残るのは香りだけ

どんな苦悩も、形を変えて和らぐ瞬間があります。

それが人であることも、場所であることもある。

出会いは偶然に見えて、その時に必要なものだけが現れるのかもしれません。


何度か、同じ夜が重なっていた。


満月の下、晴海埠頭。レジェンディアを見上げる時間の中で、彼女は自然と隣にいるようになっていた。多くを語ることはない。それでも、不思議と満ちていた。


ある夜、リヒトはふと口を開く。


「……名前を、聞いてもいいですか」


女は一歩、距離を詰めた。人差し指が、そっと唇に触れる。


「ここでは、私が誰であろうと、あなたが何者であろうと、関係ありませんわ」


リヒトはその手首を掴んだ。強くはないが、問いを引き戻すには十分だった。


「……それが答えですか」


女はわずかに首を傾げ、微笑む。


「さぁ。そうかもしれないし、そうではないかもしれない。互いに必要なら、自然とそうなるだけですわ」


リヒトは手を離した。


「ごきげんよう」


それだけを残し、女は闇に溶けていく。


夜はいくつも重なった。


気づけば、彼女はすぐそばにいた。触れれば応える。だが、決して留まらない。どれほど時間を過ごしても、朝を迎えることはない。ただ、ふとした瞬間に姿を消し、甘い香りだけが残る。


数ヶ月が過ぎ、レジェンディアの航海は少しずつ輪郭を持ち始めていた。


その夜も満月だった。リヒトはいつものように晴海埠頭を歩く。船に集中しなければならないと分かっているのに、思考は別の場所へ流れていた。ここ一月ほど、彼女は姿を見せていない。


「……らしくないな」


足を止めた。


そこに、彼女はいた。


いつもより香りが強い。ドレスは華やかで、どこか外の空気を纏っている。


「……どうしていたんですか」


思わず、歩み寄る。


女は視線を外したまま言う。


「あなたではない人に会っていただけよ」


あまりにもあっさりとした言い方だった。


リヒトは言葉を失う。


女はゆっくりと視線を向ける。


「いいこと?」


静かに言う。


「今のあなたに、あの夜の苦悩なんてありはしない。だから、ここまでよ。」


リヒトは何も言えなかった。


女は振り返らず、そのまま歩き出す。

ヒールの音が遠ざかり、やがて風に紛れて消えた。


それ以降、彼女が姿を見せることはなかった。


同時に、あれほどの苦悩はいつしか消えていた。


DMCなんて関係ない。

自分は今この瞬間だけを見ていればいい。


あの夜のように。


リヒトはブリッジの扉を開けた。



名前も、過去も知らないまま終わる関係でも、残るものは確かにあります。

すべてを変える出会いもあれば、静かに整えるだけの出会いもある。

そのどちらも、必然だった2人たったのかもしれません。

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