静かさの中で-それぞれの視線
その冷たい視線が何を捉えているのか、まだ誰も知りません
ニューヨークの夜は、思いのほか静かだった。高層ビルの灯りが窓に滲み、遠くの喧騒はここまでは届かない。
日向はソファに腰を下ろし、ウィスキーグラスを軽く揺らした。琥珀色の液体がゆっくりと縁をなぞる。
「無事に決まって良かったな」
向かいに座る富士崎は、かすかに笑みを浮かべた。
「ええ。改修するとしても……あの船なら、お値段以上よ。嬉しいわ」
軽い言い方だったが、目は真剣だった。
「君が喜んでくれるなら、それでいい」
短く答えると、日向はグラスを傾けた。
しばらくして、富士崎はふと自分の体を抱くように腕を組んだ。
「あの船から、きっと勝てるわ」
落ち着いた声だったが、どこか硬さが混じる。
日向は視線を上げる。
「……まだ思い出すのか」
「大丈夫よ」
そう言いながら、肩がわずかに震えている。日向はそれを見逃さなかったが、何も言わなかった。ただ、グラスをテーブルに置き、静かに息をつく。
「今は何も考えるな」
⸻
その頃、イギリスのDMC本社では、別の夜が流れていた。
冷たい光に満たされた執務室で、プラチナブロンドの男が報告を聞いている。整った顔立ちに浮かぶのは、わずかな不快の色だった。
「BMMがブルーリッジ・クルーズから大型船の購入を決めたそうです」
部下の声は抑えられている。
「サガか」
短い返答。
「はい。腕のよいキャプテンと航海士が、あの船を手懐けたと。ニューヨークでは話題になっているようで」
男はゆっくりと立ち上がり、窓の外へ目を向けた。サウサンプトンの港に係留された自社の船が、暗がりの中に静かに浮かんでいる。
「もう少しで手に入れられたのに」
低く呟く。
「目障りなことだ」
しばらく黙したあと、口元に冷たい笑みが浮かぶ。
「……まぁいい。機会は必ず訪れる」
窓に映ったその笑みは、どこか現実からずれていた。そこにはない何かを見ていた。
クリスタニアとなったブルーリッジサガ。
早くから因縁はあったようです




