船長は誰だー船長選定会議
珍しく社長の意思に反対した日向キャプテン。
バチバチです。
エリコ常務が慎重になるのには、理由があった。
クリスタニアの船長を決める会議の時のことだ。
クリスタニアを連れて帰ってきた頃から、富士崎社長は船長をリヒトにするつもりでいるようだった。
もちろん、クリスタニアの船長候補となっている副長たちは、優秀な人物が多い。
だが、艦隊統括は最有力候補がリヒトであることに、まったく納得していなかった。
「彼はDMC出身者です。クリスタニアの船長に据えれば、必ず目をつけられるでしょう。あのクリストファーが黙って見ているとは思えません。それに…ニューヨーク出港時、恋仲になったらしい株主を降ろせなかった。
これでロシア側と何かが起きたら、重大な過失になりえるというのに。」
厳しい顔で日向キャプテンは言った。
他の船長たちも頷いた。
「統括に同意です。船長の最終的な承認があったと聞きますが、時間もなくやむを得ないとはいえ、感心出来ることではありません。」
「クリスタニアの船長には、日向キャプテンこそ相応しいのでは?」
「お言葉は嬉しいですが、私は指揮艦の船長となることが確定しています。それに、新たに就航させる船は若手から選抜すると、先代がお決めになったではありませんか。」
日向キャプテンは、テーブルで手を組みながら言った。
「常務、私はヴァルナー副長をクリスタニアの船長にすることは、承服しかねます。
それなら、私は海自出身の藤堂副長を推薦します。」
「藤堂…」
その名を聞いた時、エリコ常務の顔が見る間に険しくなった。
(あんな性格悪いやつ、誰が旗艦に乗せるもんですか!)
「日向キャプテンの推薦がどうであろうと、ヴァルナー副長をと仰られたのは社長ですよ。一番社長に近しいあなたが、社長のご命令に逆らうんですか?」
「藤堂は、誰かさんとは違って規律を重んじる男。海外派遣も経験があります。野蛮なDMCからクリスタニアを守ってくれるでしょう。
社長には、私が話しておきます。」
このままでは時間の無駄だ。
そう思ったエリコ常務は側に控えていた社員に声をかけた。
「本日の社長の予定は?」
「あと30分程でお戻りの予定です。その後は、在社の予定です。」
「この会議の結果を報告するから、お戻りになり次第伺うと秘書に伝えて。」
「畏まりました。」
日向キャプテンは、目を細めた。
「結果とは、どういうことですか。」
「キャプテンの推薦意思をお伝えするんですよ。
私は社長のご命令に基づき人選をしているだけなので。
あなたがDMC嫌いでも、社長はクリスタニアを手懐けることが出来たヴァルナー副長を評価している。ご自身があちらとの関係が良くないにも関わらずです。」
徐々に会議室の空気は冷え込んでいった。
そして、黙って聞いていた海運統括本部長は口を開いた。
「どちらの言い分も一理ありますね。ですが、社長がヴァルナー副長を推挙するなら、その推挙に値する人物であるかどうか、あるいは相応しい何かがなければ、海運統括としては承認出来かねます。
なんせ、クリスタニアは旗艦ですからねぇ。」
エリコ常務は、海運統括本部長の葛城をギロリと睨みつけた。
「ご存知のとおり、クリスタニアにはロイヤルネイビーから招待が届いています。時間はありません。
本部長、現在レジェンディアに乗っている株主は、レイコ・オーガスティア様です。
そして、彼女はロイヤルネイビー・シードラゴン艦隊提督のハワード少将の養女です。」
「つまり、我々はヴァルナー副長の恋を全力で応援しなければならない…ということですか?」
葛城本部長は、背もたれに深く寄りかかり溜息をついた。
「概ね。」
やり取りを聞いていた日向キャプテンは、静かに怒りを露わにした。
「片腹痛い…。本部長が言うように、確たるものが出せないのなら、そんな馬鹿げたことでクリスタニアの船長の内定など出せません。失礼する。」
日向キャプテンは、常務を一瞥すると会議室から出ていった。
「常務、艦隊統括がお怒りで、どうするのですか。」
「そうです。統括が仰るように、ここは藤堂副長で手を打たれては…」
船長たちが口を揃える中、エリコ常務はキッパリと言った。
「これは、常務命令です。黙って見ていてください。
考えがあります。」
葛城本部長は、ニヤリと笑った。
(日向キャプテンとやり合えるのは、この人しかいませんねぇ。)
こうして、船長選定会議は何も決まらないまま終わり、時間だけが過ぎていった。
エリコ常務は、賭けに出ます。
何とも大胆な人です。
富士崎社長は如何に。




