クリスタニアの意思ー新船長の手にあるもの
すこしばかり駆け足です
先の会議のあと、エリコ常務から報告を受けた富士崎社長は、珍しく怒りを見せた。
「仕方ないわね。私が何とかします。
クリスタニアは、並の船長では絶対に扱い切れない。
常務、あなたはロイヤルネイビーの対応を過不足なく行ってください。問題は、日向キャプテンだけよね?」
「概ね。統括が承認すれば、他の船長たちも従うものと思われます。」
そして、2日後。
"壮絶な夫婦喧嘩"が始まった。
社長室に、珍しく社長の声が響き渡る。
「候補たち全員をクリスタニア操船試験を受けさせなさい。今すぐに!」
こうして、船長候補たちの試験が始まった。
6人いる候補たちは、それぞれに操船に長けた者たちではあったが、クリスタニアは誰一人として受け入れることはなかった。
その結果に苛立った日向キャプテンは、ますます不機嫌になっていった。
「あなた、可愛い娘が気に入った候補を主席船長に据えることの何が気に入らないの?」
富士崎社長は、ゆっくり簪を外した。
そして続けた。
「あなたの心配していることは分かっているわ。
でも、認めてくれるまで許さないわよ。」
「君はとんでもないおねだりをするようになったな…」
…そして、富士崎社長は勝利した。
再び開かれた選定会議で、富士崎社長はその場にいた全員に言った。
「クリスタニアの主席船長は、リヒト・ヴァルナー副長に確定とします。
艦隊統括は承認しました。
異論がある方は?」
勿論、異議を唱える者はいない。
「常務、クリスタニアの出港予定に必ず間に合わせてください。」
「畏まりました。」
こうして、エリコ常務は本部長と共に、リヒトに試験を課すことになったのである。
しかし、レジェンディア帰港後面談してみれば、本人の様子がおかしい。
こんな有様では、渋々承認した艦隊統括が、またいつ怒り出すかと思うと、エリコ常務は内心苛立った。
クリスタニアは、候補者全員を気に入らなかった。
この男を乗せる以外選択肢はない。
だが、エリコ常務には確信があった。
なぜなら、彼は大帝国を切り捨てレジェンディアのためだけに日本に来た男だ。
それほどの行動力がある男が、恋愛ごときで潰れる訳がない。
「常務の確信はどこから来たんですか?」
葛城本部長は、鋭く尋ねた。
エリコ常務は、顔色を変えずに答えた。
「勘よ。おそらく、彼をクリスタニアに乗せることを反対した者は、後悔することになるわよ。」
そう言って、ドラゴンの模様が入った小さな封筒と美しい包みを見せた。
「それは何です?」
「ハワード提督から、彼に届いた手紙よ。
提督は、彼を婿として認める意思がある。ということね。」
「それはおもしろいですねぇ。ブルーリッジの暴れ馬だったクリスタニアに、大帝国出身の航海士が船長として就任し、ロイヤルネイビー少将令嬢と結婚したら、これ以上ない対抗策と言えます。」
「でしょう?まぁ、日向キャプテンはまだ大荒れのようだけど。」
「後は本人次第ですねぇ。まったく、どうやっても平和な就航にはならない船ですねぇ。」
クリスタニアは晴海埠頭で静かに佇んだまま、自分の船長となった男を見下ろしていた。
「お前もレイコも一筋縄でいきやしない。だが、それがいい。」
その手には、4本線の肩章が握られていた。
それは、クリスタニアがリヒトを選んだ証でもあった。
なかなか更新できず、申し訳ありません。




