船長決定の裏でー何であいつを乗せるんだ!
三毛猫ミケさんのビジュアルは、ブログでご覧ください。
レジェンディアが晴海に到着する2時間程前。
本社に戻った日向キャプテンと富士崎社長を待っていたのは、社長の妹でグループのホテル翠松園の女将でもある、あやめだった。
深緑色の着物を着た華やかな美人であるが、足元には大きな黒いグレートデンがいる。
グレートデンの背中には、三毛猫が乗っていた。
富士崎社長は、それを見るとすぐに駆け寄った。
「あら、ミケさん。お迎えに来てくれたの?ゼノも久しぶりね。」
しかし三毛猫は、日向キャプテンの顔を見ながら考えているようだった。
日向キャプテンは、無言で三毛猫を見ていた。
見ている、というより無言の圧と言った方が正しいようだが。
(こいつめ…。桜の白無垢を台無しにしてみろ…。ただじゃおかん。)
夫の不機嫌な顔を他所に、富士崎社長は久しぶりの妹との再会を喜んだ。
「式を挙げたって聞いたから、お祝いに来たのよ。」
「ありがとう!プラチナムマゼンタがお祝いしてくれたの。あとで支社長にお礼を言いたいから、主人とお伺いするとお伝えしてくれる?」
「えぇ、もちろんよ。それから、これね。」
あやめは大きな封筒を手渡した。
「レジェンディアがもうすぐ帰港すると聞いたの。次の出航までうちでゆっくりしてもらえたら嬉しいわ。」
そこに秘書が声を掛ける。
「社長、そろそろお召替えを。」
姉が夫と仲良く去ったあと、あやめはラウンジでのんびりとコーヒーを飲んでいた。
大きなグレートデンは、床が気持ちいいのか、三毛猫を背中に乗せたまま微睡んでいる。
「ゼノ、ゼフォンが来るまで待ってようね。」
そして、少しして、葛城本部長がやってきた。
「あやめさん!お久しぶりですねぇ!ゼフォンは清香が連れてくることになってます。」
ゼフォンとゼノは兄弟だ。
グレートデンが欲しい!と清香が言ったので、社長の妹が飼っていた二頭のうち一頭を本部長が譲り受けたのだった。
「ねぇ、葛城さん。少し前にDMCの方々がうちのホテルにいらしてね。」
それを聞いた葛城本部長の顔から笑顔が消えた。
「グループホテルに堂々といらっしゃるとは。」
「私もそう思ったわ。でも、いらしたのは船長候補の方々よ。レジェンディアの副長さんにDMC出身の方がいたでしょ?あの方の盟友だったみたい。」
「ヴァルナー副長の…。」
「まるで中世の騎士みたいな方でね。あの方々の僚友なら、姉さんの船にピッタリなんじゃないかと思ったわ。」
葛城本部長は、コーヒーを飲みながら真剣な顔で言った。
「良くも悪くも…ですかねぇ。まぁ私も同意ですが。」
同じ頃、日向キャプテンの執務室には不穏な空気が漂っていた。
「…ヴァルナーをクリスタニアの船長にすると。」
「そうです。ヴァルナー副長を推薦したのは社長でしたし…」
日向キャプテンは、エリコ常務の目をじっと見つめたまま、言葉を遮った。
「お忘れですか?彼がニューヨークで株主のオーガスティア様を下船させなかったことを。処分に値すると言ったはずです。」
相変わらず、怒った時の目は怖い。
そう思いながらも、エリコ常務は言い返した。
「ロイヤルネイビーから、クリスタニアに招待が来ているんです。ヴァルナー副長を船長にすることは、DMCにもキツイ一撃になると思いませんか?」
それはそうだろう。
自社クルーがライバル会社で船長になるのだから。
だが、気に入らない理由はそこではなかった。
「エリコ常務、承認が下りた後なので、もはや覆すことは出来ませんが、私が言いたいのは、クリスタニアを危険に晒す可能性があることをご承知の上でのご判断なのか、ということです。」
エリコ常務は言葉に詰まった。
DMCのことだ。リヒトを船長に据えれば、必ず喧嘩を売ってくるだろう。
日向キャプテンが懸念しているのは、そこだ。
エリコは、キッと日向キャプテンの目を見つめ返した。
「失礼します。エリコ常務。あと1時間程でレジェンディアが入港します。」
ドアの向こうからの声に、エリコは返事をした。
「レジェンディアを出迎えにいくわ。それから、会議室に葛城本部長を呼んでちょうだい。」
そして、日向キャプテンに向かって言った。
「喧嘩が怖くてクルーズ船なんか動かせるわけないでしょ!」
勢いよくドアが閉まる。
日向キャプテンは、すぅっと目を細めると机に拳を叩きつけた。
(だからこそだ。娘を危険に晒す可能性があるというのに、その選択を容認せねばならないとは…!)
『父』の苛立ちなど知らないまま、クリスタニアは静かにレジェンディアを待っていた。
日向キャプテンが珍しく相当イラッとしたようです。
まだまだ、リヒトとの相性はよろしくない模様




