葛城本部長の危機〜返事は聞いてないけど
初登場。葛城本部長の奥さんの清香さん。
神戸で本部長が何をしていたか、まぁお察しのとおりです。
そして、クリスタニアは横浜沖へ到着した。
サプライズ前日夜ということもあり、船内はクルーたちがフラワーシャワーの準備に追われていた。
むせかえるほどの花の香りが、船内いっぱいに溢れ、ホールには花びらがたくさん入った籠がいくつも置かれている。
それを眺めながら、ルイはニコニコしていた。
「思い出すなぁ。エリコとの結婚式ー。奥さんの花嫁姿が楽しみな日向キャプテンの気持ち分かるよー。」
籠を整理しながらシンシアが振り返る。
「常務との式、どこで挙げたの?」
「マイアミだよ。僕とエリコが初めて会った場所だからさ。シンシアは?」
シンシアは笑いながら言った。
「私たちはオランダよ。
なかなか休み取れないけど、夫との思い出が一番あるのは、船以外だとオランダなの。」
あまり知られていないが、シンシアの夫は、グループ一の筋肉を誇るフレデリクである。
「オランダかぁ。素敵なところだよねー。いつかベビーが生まれたら、エリコとベビーを連れてってあげたいな。」
「いいじゃないの!私もたまにはおねだりしてみようかしら♪」
和気藹々なクリスタニア船内であるが、その頃本社ロビーではちょっとした事件が起きていた。
社長夫妻のサプライズ前日だというのに、何故か葛城本部長がロビーの片隅で小さくなっている。
目の前には、スタイル抜群の美女が、とてもダルそうに座っていた。
「あれ、本部長の奥さんの清香さんでしょ?」
「相変わらず素敵ー♡」
「かっこいいわー♡」
葛城本部長の夫人といえば、元モデルの清香である。
全盛期には雑誌の表紙を飾り、女性社員たちの憧れだった。
そんな彼女がひどく不機嫌そうにしている。
社員たちは察しがついていた。
(本部長、とうとう清香さんに愛想尽かされたんじゃね?)
(あちゃー。詰んだね)
半分同情、半分はやっぱりな、というような顔である。
「あなたみたいなめんどくさくてダッサイ男、願い下げよ。とりあえず、別れてくれる?」
「清香、冷静に…」
しどろもどろになりながら、葛城本部長は話し合おうとするが、清香は髪をいじりながら言った。
「一つ。君だけだって何人に言った?それ、まじで鬱陶しい。
二つ。愛してる、別れたくない。これも何人に言った?クソだるい。
三つ。なんで私があんたの彼女たちとおんなじ言葉聞かなきゃいけないわけ?ほんとめんどくせぇ。」
少々口は悪い気もするが、清香の言っていることには、女性社員たち全員が同意していた。
(これは本部長が悪い…)
(終わったわー)
一人の女性社員が、通りかかった陽司に走り寄る。
「なんとかしてくださいよ!明日はサプライズなのに、本部長がピンチです!」
「知らねえよ。とりあえず帰らせろよ。二人とも。夫婦喧嘩するとこじゃねえから、ここ。」
そして陽司は、わざとらしく声を上げた。
「お前たち!準備は万端なんだろうな!」
その声を聞いた社員たちは、一目散に部署に戻っていった。
釣られるように、葛城本部長も立ち上がる。
「清香、帰ったら話しましょう!まだ明日の段取りが終わってませんから!」
清香は、テーブルにダンッと手を叩きつけて立ち上がった。
「離婚承諾以外、返事いらないから。じゃ、帰ってくんな、このクソメガネが。」
そして、そのままハイヒールの音を響かせ、颯爽と去って行った。
美しいロビーなのだが、なぜかそこだけ木枯らしが吹いたようだった。
警備をしているドーベルマン、ガルシアは、恐る恐る葛城本部長に近寄った。
葛城本部長は、ガルシアに抱きつきベソベソと愚痴り出す。
「ガルシア〜!どうしましょう!清香と離婚なんてあり得ないのに!清香〜!!」
ガルシアからすれば、そんなこと言われても…というところだが、それでも賢いガルシアは、黙って聞いてやることにしたのだった。
時間は間もなく20時。
サプライズまであと12時間。
葛城本部長、日向キャプテンの爪の垢煎じて飲んだ方がいいんじゃね?と思ったのは、BMMの社員も皆さんも同じはず。




