秘書たちのガッツポーズー任せてください!
幸せそうな日向キャプテンです。
そして、神戸港は夜を迎えた。
穏やかな風が潮の香りを運び、街は美しい光に包まれる。
ロマンチックな風景の片隅で、屈強な男たちと、大きな警備犬が見送る中、クリスタニアは静かに離岸した。
岸壁にいる作業員たちは、ニマニマしながら手を振っていた。
「バッチリ決めてこいよー!」
「お前にかかってんだぞー!」
「頼んだぞー!!」
ホテルでクリスタニア出港を確認した葛城本部長は、晴海に戻る準備をしていた陽司に言った。
「陽司くん、あとは頼みましたよ。秘書課がうまくやってくれたようで、今のところ万事オッケーです。あとは、当日秘書課から連絡が行きますから、きっちり連携確認しといてください。
私は明日の朝の飛行機で戻ります。」
陽司は、ふと尋ねた。
「あれ?こっちで何かありましたっけ?一緒に戻る予定では?」
葛城本部長は、軽く身支度を整えてながら笑った。
「陽司くん。大人なんだから、そこは察してくれないと困りますねぇ。」
陽司は納得し、そのまま空港に向かった。
(いつものあれね。しょうがねぇなぁ。どいつもこいつも。)
その頃晴海本社では、日向キャプテンが白無垢や紋付き袴を眺めて満足そうにしていた。
側に控えている警備犬カイザーは、さすがに汚してはマズイと分かっているのか、ドアの近くで伏せている。
「キャプテンいかがですか?
いつも社長がご贔屓にされている呉服屋さんにご協力いただいたんです。この柄はなかなか見つからず苦労しました。」
秘書の一人が、黒いバインダーを抱えながら言った。
「よく見つけてくれた。ワガママを言ってすまなかったな。」
日向キャプテンは、白無垢にある白薔薇の刺繍に目を細めた。
細やかで美しく、とても手の込んだ刺繍だ。
(きっと君によく似合う。)
満足そうな日向キャプテンに、秘書はバインダーを見ながら言った。
「当日は、本邸にお迎えにあがります。朝早いですが、着付け師さんとヘアメイクさんもお願いしてあります。
神前式のお時間は8時。9時前には終わる予定です。
せっかくなので、そのままクリスタニアをお出迎えされては?素敵な思い出になるかと。」
「社長はお昼に会食の予定だったはずだ。そんな時間があるのか。」
秘書は内心思った。
(ほら、やっぱり。言うと思った。天下のBMMの秘書課舐めてもらっちゃ困りますー。)
当然、そのあとのスケジュールもバッチリ調整済みである。
「キャプテン、クリスタニアは、社長が一番大切にされてる船ですよ?社長の白無垢姿、お写真に残したいと思いませんー?クリスタニアとの写真、とても絵になると思うんですけど。」
(これでどうよ!最愛の妻の綺麗な姿残したいでしょ!キャプテン!)
日向キャプテンは、静かに振り返りながら言った。
「君たちのスケジュールがキツくならないなら、そうしよう。私も、妻の喜ぶ顔が見たいからな。」
秘書は心の中で、ガッツポーズをした。
「お任せください!今夜は早くお帰りになって、ゆっくりされてください。社長はもうお帰りですので。」
「そうさせてもらおう。
明日のスケジュールも、すまないが頼んだぞ。」
仕事人な上に、合理的で効率主義の日向キャプテンが、秘書課や総務部にこれほど預けてくれることも珍しい。
それだけ、楽しみにしているということだろう。
カイザーを連れて部屋を出た日向キャプテンの背中を見送りながら、秘書は総務部に連絡をした。
「こちらはバッチリよ!!明日の夕方。本邸にお衣装運んでちょうだい。二人とも本邸に帰らせるから!」
『了解だ!!神社の神職が朝寝ぼけないように、俺たちは当日先に神社に行くことにしたから、頼んだぞ!』
「分かったわ!」
社員たちのサプライズが着々と進む中、神戸を出たクリスタニアは、出来る限りの速度で航行していた。
なんせ、船首やバルコニーに装飾がある。カバーがつけられているとはいえ、それも気にしなければいけない。
「横浜沖までこの速度だと、早くない?」
ルイは呆れたように言った。
「一応、静岡沖から減速しろとは指示ありましたけど、まぁ早く着きそうっすよね。」
三井は指示を再確認しながら返事をした。
「時々見といてね、装飾大丈夫かどうか。飛んじゃったら大目玉じゃ済まなそうだもん。」
ルイが言うと、フレデリクは笑った。
「だろうなぁ。大事なお姫様だから、慎重にだな。」
本社が目をギラギラさせて待ち構えているとは知らず、当の本人たちもクリスタニアも、平和な時間を過ごすのだった。
サプライズ大作戦もそろそろ…。




