完璧ですー本部長の本気
日向キャプテン夫妻は、全く気づいていません。
数日後。クリスタニアは予定を早めて神戸に向けて出港していた。
シンガポールでクルーたちが手に入れた大量のフラワーシャワーのセットが船内に置かれている。
それも、山のように。
そして、運航中も次々に海運統括本部から指示が飛んできていた。
神戸到着は2日後の夕方。
なかなかの速度で航行中だが、海運統括本部は、足場を組み天幕を張って待ち構えているという。
「なんかさ、すんごい気合いじゃない?」
ルイは呆れたように笑った。
ブリッジクルー全員が、まったくだ。と頷いた。
その頃神戸では、海運統括本部長直々に現場指揮を取っていた。
現場倉庫に持ち込まれているのは、美しいブルーと白の大きな布のロール。それも何本もだ。
そして、神戸支社に飾られていた巨大な社旗が二本。
それを眺めながら、葛城本部長は、メガネをクイっと持ち上げた。
「ふふふ…完璧ですよ。」
そんなことはどうでも良さそうに、日向キャプテンの弟陽司は、何となく現場警備につくことになった、スナイパーとガルシア二頭のドーベルマンたちに、ジャーキーを投げる。
(俺と夏海の結婚式の時より元気…めんどくせぇな。)
二頭のドーベルマンたちは、バリバリといい音を立てながら、満足そうに陽司を見上げた。
そこに、妻の夏海がいそいそとやってくる。
「本部長、そろそろホテルにお戻りの時間どすぇ。」
「そんな時間ですか。じゃ、警備部、頼みましたよ。」
二頭のドーベルマンだけではない。
屈強な警備部社員数名が、警備にあたる。
どんな高価な宝石があるのか、はたまた名画でも隠されているのか、そんな雰囲気になっていた。
「本部長、やり過ぎですよ。ルパンでも来そうじゃないですか。」
「盗まれたのは、あなたの心です…って言いますしねぇ。これだけやって、美しく飾られたクリスタニアが晴海埠頭に入港してみなさい。メディアは盛り上がるし、注目度は抜群ですよ。」
「本部長、顔。」
何とも悪巧みをしている代官のような笑みを浮かべる葛城本部長に、陽司は突っ込んだ。
同じ頃の晴海本社では、社長のための白無垢が用意されていた。
日向キャプテンの意向をしっかり汲んだ、それはそれは美しい白無垢である。
日向キャプテン用の紋付き袴もバッチリ用意されているが、総務部は来賓室の一つに鍵までかけて、念入りに準備をしていた。
来賓室の床には赤い毛氈まで敷く、念の入れようである。
「これだけやったら、日向キャプテンも大満足でしょー。」
「タンカーたちも順次帰港スケジュール出たし、あとはクリスタニアの帰りを待つだけ!」
「それにしても、すんごい結婚式ー。」
「財務部が目ん玉落っこちそうになるくらい、資料見てたねー。」
「葛城本部長が、下手なCM作るより安いですよ、とか言って渋々承認してたし。」
「社長とキャプテンが喜んでくれりゃ、それでいいけどさ。」
「よし!飯にしよう!腹減ったー。」
社員たちが一丸となって自分たちの結婚式を考えているなど、当の二人は全く考えていなかった。
「あなた、もうすぐクリスタニアが帰って来ますわね。何だか嬉しいわ。」
そう言いながら、富士崎社長は食事の用意をしていた。
そんな妻の様子を眺めながら、日向キャプテンはニューヨークでブルーリッジサガと初めて会った日を思い出していた。
(桜、君が喜んでくれるなら、何だってしてやる。だが、クリスタニアは、君と俺の子だと思って構わないだろう。)
和やかな食事の時間。
忙しい二人にはとても貴重な時間であり、大切な時間だ。
晴海は平和な夜を迎えた。
神戸港がなんとも緊張感があるとは、想像出来ないほど。
葛城本部長、なかなかやりますな。




