白馬の休息ーマニラでの一時
猫好きないかつい2人が、猫と戯れています。
数日後、クリスタニアはマニラに到着した。
クルーたちは補給作業の合間、埠頭で束の間の休息を取っていた。
埠頭には、どこからともなく猫たちが集まっている。
クリスタニアを見上げては首を傾げ、ニャアニャアと鳴いていた。
それをデッキから見ていた機関長の谷屋は、頬を緩めながらタラップを降りていく。
「おぉー!可愛いなぁ!」
熊のような体格の谷屋がしゃがみ込み、そっと猫たちの頭を撫でる。
すると猫たちは警戒するどころか、次々と谷屋の肩に登り、足元に寝転がり、好き勝手に寛ぎ始めた。
「ん?副長も猫好きか!」
谷屋が振り返ると、フレデリクも大きな体を縮こめながら猫たちと遊んでいた。
「猫は可愛い。たまらん」
いかつい風貌からは想像できないほど、柔らかい声だった。
「スノーに会いたいな」
愛猫を思い出したのか、少しだけ視線が遠くなる。
猫たちはその隙を逃さず、フレデリクの背中によじ登り、見る間に制服を毛だらけにしていった。
「大人の猫なのに、あんたが抱っこすると子猫みたいだな!」
谷屋が笑う。
背後では、燃料補給中を示す赤い旗が風に揺れていた。
その頃、通信士の栗栖が、紅海にいる商船たちの情報を集めている。
傍らでルイは、ラテを片手に静かに報告を聞いていた。
「……いかにも荒っぽそうなのしかいないねぇ。本社に照会して。どいつがならず者なのか」
「了解。本社タンカー、バルクキャリア各部門へ。こちらクリスタニア。紅海にいる商船の詳細情報を要求する」
すぐに応答が返る。
『こちら、タンカー部門だ。特に気性の荒い連中をピックアップした。先日日向キャプテンを激怒させた連中だ。バルクキャリア部門と合わせてデータを送る』
送られてきたデータには、船種や船名だけでなく、注意事項までびっしりと記されていた。
「……こりゃぁ、いかにもだね。」
ルイは、肩をすくめた。
栗栖はため息をつく。
「日向キャプテンを激怒させるなんて……いらんことしよるわ」
ルイはカップを傾けながら尋ねた。
「日向キャプテンは、そんなに恐ろしいのかい?」
栗栖は天井を仰ぎ、小さく首を振る。
「恐ろしいなんてもんやないですよ……。
元はレジェンディアのヘンリー船長の弟子やけど、合理的で容赦がない。今回も“新造船ごときが”言われて、“従えないなら自力で帰れ。ただし本社が優先するのは協調運航や”と。ほら。」
一度言葉を切り、モニターを指差す。
「つまり、お前らのことなんぞ知らん、ですわ。タンカー部門も震え上がったらしいです」
ルイは苦笑した。
「日向キャプテンの怒りはごもっともだ。BMMには大したキャプテンがいるんだね」
栗栖は、コーヒーを飲みながら言った。
「社長の旦那ってのもあるけど、それだけやない。実力もあるし、グループの船長は誰も逆らいません。エリコ常務も、何度怒られたことか」
ルイは肩をすくめる。
「気持ちは分からなくもないけど……あんまりエリコをいじめないでほしいもんだね」
そう言って、静かにラテに口をつけた。
クリスタニアには、穏やかな時間が流れていた。
白馬が、静かに草を食むように。
日向キャプテンの恐ろしさは、ルイにとっては何でもないようです。




