表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blue Ridge Saga —クリスタニアの過去  作者: おーがすてぃーぬ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/31

沈黙の評価―それで終わりだ

日向キャプテンはお怒りです。

シンガポールの港は、いつも通りの顔をしていた。


巨大な船体が静かに並び、クレーンが規則的に動く。世界の物流の中心であることを、何事もないように示している。


クリスタニアは、その中に違和感なく溶け込んでいた。

ここまでは、驚くほど穏やかな航海だった。


 


補給作業が進む中、ブリッジに一報が入る。


ノースレイジアクルーズのフェンリルが出港するという報せだった。


ルイはわずかに目を細めた。


そして、回線を開き陽気な声で呼びかけた。


"Hey, comrades. "

(やぁ、盟友たち)


すぐに返答が来る。


"Huh? …Louis? Is that you? "

(ん?……ルイ?ルイなのか!)


驚いたフェンリルの様子に

ルイはイタズラっぽく肩をすくめた。


「"My wife insisted. I’ve been assigned to the White Rose."

(妻に頼まれてね。白薔薇様に乗ることになったよ)


"Quite the demanding lady, I must say."

(なかなか手厳しいレディでね)


フェンリル側が豪快に笑う。


"What are you talking about! Our wolf’s far wilder than that!"

(何言ってる!うちの狼の方が気が荒いぞ!)


"She’s still the gentler one, if you ask me! "

(まだお淑やかじゃないか!)



ルイも小さく笑った。

"Fair enough. See you out there. Safe sailing. "

(まったくだ。またどこかで会おう。安航を祈ってるよ)


低く長い汽笛が鳴る。

フェンリルからの長音だ。


クリスタニアも、それに応じた。



通信が切れると、三井が興味津々な様子で、身を乗り出した。


「ルイ副長!フェンリルに乗ってたんですね!すげぇ!」


目が完全に輝いている。


ルイは苦笑した。

「あれはねぇ、…本当に船なのか疑うことが何度もあったけど。気性難なのはホントだよ。クリスタニアの方がずっとレディだね。」


三井は尋ねる。

「例えばどんなとこっすか??」


「とにかく気性が荒くてね。油断するとすぐ牙を剥くし唸るし。フェンリルなんて名前、伊達じゃなかった。」


軽く言っているが、冗談ではない響きだった。


頭にはてなマークを浮かべる三井に、機関長の谷屋が説明する。


「たぶん、スラスターの反応が大きいんだろ。難易度が高い場所での操船ほど、加減が難しい。スタビライザーを使えば使うで、これも可動域が大きいから下手をするとやり過ぎる。つまり、デカさが違うんだ、何もかも。北の荒れた海が標準だから、普通の海では気性難に見える。」


「そーゆーこと。」


「なるほどー。それでなんですね。勉強になりました!」


その時、別の情報が流れ込んでくる。


【中東情勢の悪化。商船が複数被弾。大規模攻撃により周辺の石油関連施設で火災が発生中】


航行を開始した船舶、被弾した船舶、足止めされている船舶。


情報は断片的だが、一つの方向を示していた。



ルイは短く息を吐いた。

「混沌か…協調運航を指示しているのは、おそらくBMMだけだな」


静かな声だった。

「それだけ日向キャプテンは商船の価値を分かっている……同時に、クリスタニアに絶対の信頼がある。」


三井が肩をすくめる。

「シゴデキなのは分かるんすけど……おっかないんっすよね。『日向だ』って無線入るだけで、自分ちびっちゃいそうですもん。」


「クリスタニアのキャプテン、どうなるんだろ……」



同じ頃、本社タンカー部門。


回線はひどく荒れていた。

『協調運航の基準船が新造船だと?ふざけるな!』


『気性難の暴れ馬に、俺たちを引っ張る器量があるわけねぇだろ!』


怒号が重なる。


『ここに何隻いると思ってる!大船団だぞ!』

『ナメてるのか!』


応答側は、深く息をついた。


やはりこうなった。


「協調運航は本社命令だ」


それでも声は収まらない。


『誰の命令だ!』



その瞬間、回線が切り替わった。

一瞬で空気が変わった。


「俺だ。」


低く、冷たい声。


「商船の価値を考えればこそ、最新システムを搭載したクリスタニアを出したが、それでも従えないと言うのだな?」


短い沈黙。


「新造船ごときに基準船が務まるか!」

吐き捨てるような声。


「クルーズ部門がしゃしゃり出てくるな!」


その言葉に、タンカー部門は全員が青ざめた。


「……如き、と言ったな」


声の温度が、さらに下がる。

「その言葉は、社長に対してのものと受け取っておこう」

それだけ言って、回線を切った。


「ひ、日向キャプテン!申し訳ありませんっ!」


静まり返った室内で、日向キャプテンが振り返る。

「クリスタニアに従う者だけ連れ帰る。異論は認めん。」


短い一言。


誰も異を唱えることは出来なかった。

あのクリスタニアに対して、それもクルーズ船全てを統括する日向キャプテンに対しての言葉。

完全に喧嘩を売った形になったのだから、当然だ。


(まずい…全船を連れて帰ってくれなんて、言えんぞ…)


その頃、紅海の片隅で、退避を始めたVLCCたちの間に、一隻の小さな影があった。


進むことも、戻ることもできない。

ただ、その場に立ちすくんでいる。


小型バルカー――リトルベア。

誰にも見つけてもらえないまま、海の中に取り残されていた。


実務レベルで見ると、日向キャプテンの怒りはごもっとも。

協調運航指示に対して従わない、というのは現実では大問題です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ