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Blue Ridge Saga —クリスタニアの過去  作者: おーがすてぃーぬ


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17/27

夢が檻になった瞬間―勝者は語らない

クルーズ船でもフェリーでも、船での避難訓練は真面目にやりましょう。

モニターに、漆黒の超大型クルーズ船が映し出される。


ドバイに閉じ込められた、DMCの船―in a dream。


『日本時間で本日14時頃、ドバイ市内にミサイルが着弾した模様です。港からは多数のクルーズ船が既に出港していたため大きな被害はありませんでしたが、Dream Meridian Cruisesの船舶が機関不調のため出港できず――』


黒い船体に刻まれたDMCのエンブレム。その背後では、市内のあちこちから黒煙が立ち上っている。甲板ではクルーたちが慌ただしく警備を強化していた。


『Dream Meridian Cruisesによりますと、現在、機関は既に復旧しており、慎重に出港のタイミングを見極めたい、としています。』


ニュースは淡々と次へ移っていった。


 


DMC本社。


割れたカップの破片が床に散らばっていた。


「ヘルムートを呼び出せ」


すぐに回線が開く。


『副社長、ヘルムートでございます』


落ち着いた声だった。


「……とんだ恥を晒してくれたな。なぜ出港しなかった」


『申し訳ございません。港湾管制から退避命令は出ておりましたが、ゲストが誰一人として緊急事態を信じず、下船に相当な時間を要しました』


「いい笑いものだ」


クリストファーは吐き捨てる。


「ゲストの帰国手配は終えた。だが、我が社はいつまで恥を晒せばいい」


『現時点で出港しても、周辺海域では商船が攻撃されているとの情報があり、本船が無事に離脱できる保証は――』


「機雷にでもぶち抜かれたら、その時点で終わりだ」


短く言い切る。


「……しばらく、そこで恥を晒しているがいい」


通信が切れた。


クリストファーは拳を机に叩きつける。


「なぜだ……」


低く漏れた声。


「BMMの商船は通過できたというのに……なぜだ……」


 


その頃、東京。


残業中のオフィスでは、社員たちに夜食が配られていた。ニュースを横目にしながら、各々が箸を動かす。


「どうすんでしょうね」


「さぁな。向こうの副社長、今頃ブチキレてるだろー。」


「うちは抜けられて良かったよな」


軽く笑いが起きる。


「あとは、我らが女王様が商船を連れて帰ってくれれば万事オッケーだな」


誰かがそう言い、皆が頷いた。


 


同じ頃、社長室。


長引く打ち合わせの合間、富士崎社長と日向キャプテンは簡単な食事をとっていた。資料に目を落としたまま、淡々と時間が流れていく。


モニターは見ていない。


だが、ニュースの一節だけが耳に入る。


――in a dreamがドバイから脱出不能


その瞬間、日向の口元がわずかに緩んだ。


「あら?どうしたの?」


富士崎社長が顔を上げる。


「……なんでもない」


視線は資料のまま。


「君とニューヨークに行った日のことを思い出していた。クリスタニアは、君の夢の一つだからな」


富士崎社長は微笑み、グラスに手を伸ばす。


日向は何も言わないまま、カップを持ち上げた。


(クリストファー、残念だったな。)


心の中でだけ、そう呟く。


(そのまま全世界に恥を晒すがいい。

悪夢の中で、せいぜい苦しめ。)


何事もなかったかのように、コーヒーを口に運んだ。


夢のような世界だからこそ、全てがエンタメに見えてしまう。in a dream には、それほど惹きつける魅力があった、ということですね。


夢は夢です。備えあれば憂いなし、ということで。

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