比べるまでもない—ホルムズ停止、決断の時
日向キャプテンの判断の速さが際立ちます。
ニュースが流れた。
DMCが、小規模ながら老舗のクルーズ会社コラールラインを子会社化したという報道だった。
それを見た日向キャプテンは、射殺すような目でモニターを見つめる。
(クリストファー…。貴様だけは許さん…。絶対に。)
その裏で何が起きたのか、予想がついていたからだ。
次の瞬間、臨時のニュース速報が画面に割り込む。
ホルムズ海峡、通航不可。
日向キャプテンの目がわずかに見開かれた。
運航管理部が一斉に動き出す。
ペルシャ湾に何隻いるのか確認が走り、紅海にいた商船たちには、その海域から離れて待機するよう指示が出された。
「なんてこった!!一体何隻いるんだ!」
「ペルシャ湾内にまだ30隻程います!退避不可のようです!」
張り詰めた空気の中で、日向キャプテンは静かに口を開く。
「レジェンディアとクリスタニアに協調運航させろ」
一瞬、フロアの空気が止まった。
「喜望峰回りで大船団を率いて帰還させる」
ざわめきが広がる。
「暴れ馬の汚名を返上し、デビューに箔がつく」
それだけではない。
日向キャプテンはすでに確信していた。
今なら、喜望峰を越えてくる。
輸送する燃料と船の価値を頭の中で弾く。
一隻でも多く連れ帰る方がいい。
それが最適解だった。
この時点で、クリスタニアに乗せられるのは一等航海士を含めて約百五十人。
多くはないが、ギリギリで回せる人数だ。
「ぶっつけ本番過ぎます!」
「まだ試験運航さえ終えていないじゃないですか!」
運航管理部が声を上げる。
日向キャプテンは視線だけを向けた。
「仮にVLCCが被弾して火災を起こし、航行不能になるのと、クリスタニアが機嫌を損ねるのと、どちらが不利益だ」
言葉が詰まる。
「クリスタニアの購入関連で十億近く、改修に百億程、さらにここまでくるだけで相当な額だが、VLCCの船体と積荷の燃料を失えば、それ以上になる。違うか?」
静かに言い切る。
「比べるまでもない。それとも、商船の中で出来る船がいるのか?」
沈黙が落ちた。
やがて、運航管理部は顔を見合わせる。
「……試験運航という名目で、長距離航海を許可します」
決定だった。
「社長には私から話しておこう。全船に通達を出してくれ。」
日向キャプテンは、すぐ社長室に連絡を入れる。
暫定チェックポイントはインド洋。
その指示は、すぐにBMMの商船すべてとレジェンディア、クリスタニアに通達された。
クリスタニアブリッジでは、ルイとフレデリクが難しい顔でその指示を確認していた。
「行けないこともないが、忙しくなりそうだな。」
「僕たちで徹底的にデータ取らないといけないね。」
バルセロナにいたレジェンディアは、予定を繰り上げニューヨークに直行することになった。
刻一刻と中東情勢は悪化していき、時間と共に混乱は増していく。
クルーズ部門の社員たちはニューヨークへ飛び、本社に残った者たちはクリスタニアの試験運航準備に動き始めた。
世界が、静かに動き出していた。
クリスタニアは試験航海で、素直に航行するでしょうか。




