共有がある—常務だけが知っていた話
そんなことだろうと思った方、万歳の代わりに長音三声を捧げます。
そして1週間後。
BMM本社をヤキモキさせたクリスタニアが、ついに進水の日を迎えた。
シンガポールのドックでは、富士崎社長が満面の笑みで船首にワインボトルを叩きつける。
ドックスタッフ全員が歓喜し、抱き合って涙を流しながら、これまでの苦労を互いに讃え合った。
本社の喜びをそのまま映したかのように、銀色のテープが飛び交い、紙吹雪が舞う。
狂喜乱舞の進水式が行われたシンガポールだったが
その頃、本社に特大の爆弾が落とされた。
クルーズ部門、運航管理部門、そして総務に、日向キャプテンからのビデオメッセージが入る。
各部署とも死にそうな顔で、今度は何を言われるのかとPCの画面を見つめた。
すると、いつもどおり無表情のまま、日向キャプテンは言った。
「日向だ。共有がある。」
「私事だが、私と富士崎社長は既に入籍済だ。
以上。」
それだけだった。
画面はプツリと切れる。
長い長い沈黙のあと、誰かが口を開いた。
「え……今?」
その声をきっかけに、本社は崩壊した。
総務部は、阿鼻叫喚の地獄と化す。
「貴様ら!知っていたのか!!」
「どうりでクリスタニアが最優先になったわけだ!!」
「いや……だ、だって、黙ってろって日向キャプテンからも社長からも言われてたし……」
「このヤロウ!!裏切り者め!!俺たちが死にそうになってたのに!!」
「よりによって今かよ!!ふざけんな!!」
「だ、だ、だってぇぇぇ!!」
そんな最中。
クルーズ部門の社員が、ふと気づいたようにエリコへ視線を向ける。
「あのぅ……常務、もしかしてご存知でした……?」
一瞬でフロアが静まり返る。
エリコはコーヒーカップに口をつけたまま、しれっと答えた。
「知ってたけど、言わないわよ。」
一拍。
「だって、社長のプライベートはトップシークレットだもん。」
誰かが椅子から崩れ落ちる。
ある者は床にへばりつき、ある者はデスクに突っ伏した。
本社ビルは、完全に混沌と化していた。
その様子をモニター越しに見ていた日向キャプテンは、わずかに眉を顰める。
「お前たち、何をしている!」
張本人からの音声に
誰かが、泣きそうな声で答えた。
「キャプテンのせいですよぅ……」
クリスタニアは、本社の混沌を知る由もなく。
美しく、優雅に晴海へと航行していた。
自分たちの入籍をクリスタニアより優先しなかっただけのことですが、暴れたくなる社員たちの気持ちはまぁ分かりますよね。




