ロイド8
「そ、想定許容量を遥かに超える魔力反応……! 測定器が、内部からの圧力に耐えきれずに崩壊しました……!」
補給兵は震える声でそう報告すると、弾かれたように部屋を飛び出し、司令部へと走っていった。
残された俺たちは、床に散らばるガラスの破片を見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。
「……エミリー、お前、本当に何者なんだ?」
リーダーが、まるで未知の魔獣を見るような目で彼女を凝視する。マシューに至っては、顎が外れそうなほど口を開けたまま固まっていた。
当の本人は、「いろいろあって、魔力量には自信あるんです」と言いながら、上着についた砂をパッパッと払っている。
この一件は、瞬く間に上層部へと伝わった。数時間後、俺たちは異例の速さで砦の最高作戦会議室へと召集された。円卓の奥に座るのは、この防衛線を統括する頑固で有名な老将、クラークボーダーだ。
「……話は聞いた。測定器を魔力過多で粉砕したというのは、そこの娘か」
指揮官は、鋭い視線をエミリーに向けている。その鋭い視線だけで、新人ならビビッて漏らしそうなほどだ。俺ですら冷や汗が出てくるが、エミリーは平気そうだ。あいつの心臓は鋼鉄か?
「敵の『長杖』による砲撃で、我が軍の防衛線は崩壊寸前だ。サムのような熟練のタンクすら一撃で葬るあの威力を前に、もはや通常の戦術は通用せん。……だが、もし。お前のその魔力量が本物であるならば、話は別だ」
クラーク指揮官は机の上に、敵陣とこの砦を描いた地図を広げた。
「敵の兵器の弱点は、複数人で魔力を込めるがゆえの『発射までのタイムラグ』、そして『直線的な射線』だ。熟練のタンクでも防げんあの攻撃を、お前一人で防げるか?」
エミリーは地図をチラリと見ると、あっさりと頷いた。
「恐らく6重のシールドなら耐えられると思います。ただ、シールドを大きく広げると強度が落ちるので、味方全員を守るような巨大な壁を作れるかどうかは分かりませんけど……」
「問題ない、できる範囲で良い。お前が我が軍の不落の盾となれ」
「一応、私はヒーラーなのですが?」
「出来るならヒーラーだろうが何だろうが、使えるものは使う。敵が撃ってきた方角が確認出来たらお前がシールドを展開する。次の装填までの隙に前進し、敵の長杖を叩き壊す」
作戦というには力押しすぎるが、あの攻撃が防げるからこそとれる作戦だろう。
……問題は、誰が敵の長杖を破壊するかだ。すると、リーダーが発言した。
「我が軍の魔法では、かなり近づかなければ攻撃が届きません」
そう、敵はこちらの魔法が絶対に届かない超遠距離から一方的に撃ってくるのだ。のんびりと近づいていったら、逃げられるか集中砲火を受けるだけだろう。
その時、俺の脳裏に、数日前に自分がやった「荒業」がフラッシュバックした。 ストーンブラストを地面に設置し、手動で時間差爆破させたあの感覚。あの散弾魔法を、もし「ある方法」で一点に集中させることができたなら。
「……クラーク城壁。俺に、やらせてください」
俺は一歩前に出た。
「ロイド? お前のストーンブラストじゃ、あそこまでは届かないぞ!」
リーダーが慌てて俺を止めようとする。
「普通に撃てば届きません。でも、土魔法で即席の土の壁を作り、その上から新兵器のストーンブラストを撃てば届くかもしれません」
俺の突拍子もない提案に、クラーク指揮官は目を細めた。成功するかは分からない。だが、熟練のタンクを失い、退路を断たれた俺たちには、この「規格外の盾」と「急造の高台」による一撃必殺のカウンターしか、生き残る道は残されていなかった。
「……面白い。全軍に告ぐ! これより対長杖迎撃作戦を開始する。命を賭して、あの娘と小僧の時間を稼げ!」
クラーク指揮官の激しい大声が、会議室に響き渡った。




