エミリー11
「敵の新兵器、複数人で杖を持った瞬間に威力が跳ね上がったわね」
私は顎に手を当てながら、いつになく真剣な表情で呟いた。
「ああ、恐らく一人の魔力を核にして、周りの奴らがブースターのように魔力を送り込んでいるんだろう。……まともに食らえば防ぐ手立てはない。今のうちにさらに後退するぞ。ここに居ても的になるだけだ」
リーダーの指示で、私たちはさらに後方の頑丈な砦へと退却した。
砦の待機所に入ると、マシューとロイドさんは疲れ果てたように壁に背を預けて座り込み、リーダーは戦況報告のために上官の元へと急いだ。
張り詰めていた緊張が解け、みんなはドッと押し寄せた疲労感に襲われたのだろう。私はこっそりと自分にヒールを使っているので全然元気だけど、バレないように疲れたふりをして座り込む。
「戻ったぞ」
そこへ、しばらくして険しい顔をしたリーダーが部屋に戻ってきた。その後ろには、大きな水晶の球体――魔力量を測定する『魔力測定器』を抱えた補給兵が同行している。
「リーダー、それは?」
マシューが尋ねる。すると、補給兵の人がリーダーの代わりに返答してくれた。
「新しく開発された魔力測定器です。これがあれば、個人の魔力量が分かりますので、正確に魔法の使用回数が分かるようになります」
「上層部からの命令だ。次の防衛戦に向けて、残存戦力の魔力量を正確に把握しろとのことだ。敵に対抗するため、俺達も複数人による魔力運用を考えるそうだ。おい、まずはマシュー、次にお前だロイド」
言われた通り、マシューが水晶に手を触れる。水晶が淡く光り、補給兵が数値を読み上げる。
「マシュー路地3等兵、魔力5」
「えっと、5ってどれくらいなんですか?」
「新兵を3として判定していますので、その倍くらいですね」
「ってことは、多いってことですか?」
「新人としては多いと思いますよ」
「やったー!」
マシューは思ったよりも魔力が多かったことに喜んでる。続いてロイドさんが手を触れた。水晶は明るく光った。
「ロイド路地1等兵、魔力8」
「えぇっ!? ロイドさん、俺のさらに倍近いじゃないですか!?」
「まあ、魔力は使うほど鍛えられるからな。それに俺は工兵だ。普通の兵士よりも魔力は多いんだよ」
「ちなみに、リーダーはどれくらいなんですか?」
「あ? 俺もまだ測ってないな」
リーダーはついでとばかりに水晶に触れた。その瞬間、水晶が眩しいくらいの光を放つ。
「ア、アラン城壁、魔力10! 測定限界です!」
「リ、リーダーすげぇ・・・」
「さすが英雄だな・・・」
マシューとロイドさんが唖然としてつぶやいた。リーダーも測定を終え、残りは私だけだ。私は魔力量には自信がある。きっとロイドさんよりは多いと思う。
「よし、最後はエミリーだな」
「はーい、じゃあ触ればいいのね?」
私は水晶へ両手を乗せ、魔力を送り込む。その瞬間、部屋全体の空気が一変した。 眩い、というレベルではない。太陽が目の前に現れたかのような激しい黄金色の光が水晶から溢れ出し、薄暗い待機所を一瞬で白一色に染め上げた。
「うおっ!? な、なんだこれ!?」
「眩しっ……! 水晶が、壊れるッ!」
マシューが目を押さえて叫び、補給兵は悲鳴を上げて尻餅をついた。パキパキと不穏な音が響き、魔力測定器の水晶にみるみるうちに無数の亀裂が入っていく。やばいと思って手を離すと、光が収まると同時に高価そうな測定器はただの粉々になったガラス屑へと姿を変えて床に散らばった。
「あ……あら。壊れちゃった」
私は舌をペロッと出す。これでごまされてはくれなさそうだけど。
部屋の中は、完全な静寂に包まれていた。補給兵は腰を抜かしたまま、粉々になった床を指差してガタガタと震えている。
「な……、今のは、一体……」
リーダーが、まるで計り知れない化け物を見るような目でエミリーを凝視した。その顔は驚愕で完全に強張っている。
「……測定器を許容量オーバーで爆破させただと……?」
私の異常な魔力量が、白日の下に晒された瞬間だった。




