( 31 )内緒にしている事
魔法学校の無い日の夜、スザンヌは王宮に出かけていた。
魔法の移動ドアから出て、王様の部屋に歩く。執事のハリスが待っていた。
「こんばんは、スザンヌ様。お待ちです。」
開けてくれた扉の中には、美しい若者が居る。ジュリアンは、立ち上がって挨拶するのだ。
「こんばんは、スザンヌさん。」
その視線が自分に向けられるだけで嬉しい。スザンヌは、頬が赤らむのを止められない。
ドキドキドキドキー。
(この人の事を魔法学校で話せないから、困るわ。)
話さなくてはいけないのだけど、恥ずかしい。からかわれるのが分かっているからだ。
「スザンヌさん。そろそろ、お披露目したいのですが。」
「お披露目って?」
「私達の婚約ですよ。」
「ご、ご、ご、ごんやく!ゲホッゲホゲホー!」
「大丈夫ですか?お水を飲んで。」
思わず、咳き込んでしまった。この美男子が、病弱なジュリアン・エバンス公爵だと説明するのも大変だ。別人としか思えない。
本人いわく、呪いが解けたそうなのだが。希に魔力のある者が出る血筋で、彼も魔力があるという。魔力で意識を飛ばしていたそうだ。
「そ、それで、お仕事は慣れました?」
話を反らさなくては、別の話にしなくては。スザンヌは、見つめるジュリアンから懸命に目を合わせないように務めた。
ジュリアンは、うなだれて吐息をつく。
「どうして、僕なんかが。スザンヌも、思いませんか?」
「え、何を?」
「僕が、王様になる事ですよ。」
「でも、でも、仕方ないし。他に居ないんだから。」
「そこが、問題ですよね。たまらない!」
「でも、でも、ジュリアンさんなら大丈夫だから!」
大丈夫と言ってるスザンヌも、何が大丈夫なのか分からない。政治の事は意味不明なのだから。
あの時、王宮から帰ると、相談に行ったのだ。あの商人のドルウ・ゴメスに。
他に頼れる人が居ないから。会社の上で暮らしているゴメスは、快く迎えてくれる。ドアを開けておいてくれる心配りは、モテ男の癖。
(私みたいな子供に変な気なんか起こさないのに。何時も、やってるからよね。)
そう思うスザンヌだった。話を聞いてゴメスは、苦笑い。
「仕方ないわ。だって、他に居ないから。貴族が公爵を残して居なくなったんですから。」
どうしてだか、あの時から消えてしまった貴族達。その上に、ジュリアンの従兄弟の乱暴者も叔母さんも姿を消して出て来ない。スザンヌは、聞いてみた。
「ねえ、スザンヌさん?王宮なんて、働いてた人も居なくなったでしょ。何時かは、戻って来ると思いますか?」
「さあ、私には。戻ったら戻ったでいいじゃないですか。」
「まあ、そうですけど。」
パトリシアや学校の皆には内緒で、ゴメスには力を貸してもらっている。貴族が居なくなったと分かった時に、ジュリアンを王様の代理に据えたのもゴメスだ。
政治の事や王宮の切り回しをする人達など、彼だからこ集められたと考えている。まるで、元々、働いていたように皆が動いていたからだ。
いったい、どうやって集めたのか不思議でたまらない。
王宮を訪れたドルウ・ゴメスは、宰相の執務室へと向かう。どこへ行っても目立たないように行動するのが彼の癖だ。
それは、転生前の経験から何時に何が起こるのか分からないというのを見に染みて知っているからかもしれない。
魔法で王宮へ入り、誰にも見られないように宰相の部屋へ辿り着く。そして、部下と打ち合わせをしている宰相が1人になるのを待った。
「ゴメスさま、お待たせしました。」
若き宰相は、部下が出て行くと声をかけてくる。ゴメスは、控えの間から部屋へ入った。
「慣れたようだな、何年もやってる仕事振りに安心したよ。」
「お褒め頂き、感謝します。下積みなしの、いきなりの宰相ですから不備もあります。」
「いや、君は出来る人間だ。新しい官僚のリストだ。目を通して欲しい。」
「ゴメス様の選ばれる者は、生え抜きばかり。文句のつけようもありません。これは?」
「買い集めた爵位だ、君のもある。」
「私のも、ですが。」
宰相は、感慨深げに爵位の書類を手にした。
「こんなに、簡単に手にできるとは。もっと、苦労するとばかり。」
「この国は、貴族が姿を消してしまったからね。残された遺族は、爵位さえも売り払って縁を知りたいのだ。消えたのは、恐ろしい呪いという噂が広がっている事からもだろう。」
「これは、他の重臣たちにも?」
「そうだ。皆が王宮で爵位なしでは、外国の賓客に甘く見られてしまう。殆どが、元貴族だから支障は無い。」
ゴメスがアッサリと言うのを聞きながら、宰相は複雑な思いになった。
(本心は、皆が喉から手が出るほどに欲しい物だ。誰もが血のにじむ苦労を味わって来たのだから。)
没落した貴族の家の者ばかり。何時かは家の再建を夢見ている。それが、こんなに簡単に手に入るとは。ゴメスは事も無げに言うが、様々な手を使ったのは伺える。
(私も、この男の駒なのかもしれない。出来れば、敵にだけはなりたくないな。勝てそうに無い。)
それほどに、頭が切れるのだ。魔法使いと称しているが、どれほどの魔力なのか。配下になったからには、尽くすしかなかった。
ロリーは、王宮に近い屋敷街の1つの家に居た。それは、大きなお屋敷だ。姿を消した大臣の持ち物だという。
残された家具ごと、ゴメスが買い上げて王宮に入った者達に貸し与えていた。売られる前に片っ端から約束を取り付けるという手早さで、貴族の大きな館の全てを買ったのではと言われてもいた。
(家具は使え物ばかりで助かりますわ。ゴメス様は、買い取っても良いと言われてますし。)
1番、嬉しいのは、宰相についた兄に爵位が与えられた事だ。別の場所で暮らしている母親や召し使いを堂々と呼び寄せられる。
(お兄さまが宰相になるとは、想像もしませんでした。ゴメス様が裏で手を回したのではと囁く人もいますが、付いて行くだけです!)
兄からも、言動に気をつけるように注意されている。新しい王様が、どのような方かも分からない。ロリーは、覚悟を決めていた。
王宮では、重臣達が爵位を手に入れて空気が浮わついていた。それを知らないスザンヌが、入って来たロリーに尋ねる。
ロリーは、店を閉店した後は王宮雇いの「魔除け」秘書になって働いてくれているのだ。
「ねえ、ロリーさん。何かあったのかしら?」
「何がですか、スザンヌ様。」
「皆、変なのよ。ジュリアンさんも、役職についた人達がハイテンションで疲れるって。」
「ああ、そうなんですか。内緒ですけど。」
「うん、うん、何?」
「ゴメスさんが、無いと形がつかないから爵位を買い取って下さったんです!」
「ええーっ、しゃくい?て、何、それ?」
「男爵とか公爵とか、貴族に付き物の位ですわ。」
「ゴメスさん、賭け事で手に入れてきたのかなー。」
「え、賭け事?何ですか?」
「ううん、何でもないの。」
「そうですか?」
まさか、自分の家が賭け事で手に入れてきた爵位の男爵家とは言えないスザンヌだった。




