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「完」特技の私スキルは魔除けなの  作者: さしみのつま
30/32

( 30 )粛清(しゅくせい)の結末

スザンヌは身体の中に吹き荒れる嵐に翻弄(ほんろう)されていた。それは、悲しみと憎悪という痛み

だけの感情であった。


美しい女性は、愛する夫と子供を奪われて嘆いている。止まらない涙に神に訴える。




『どうしてなのですか。罪の無い私の家族と人々が、この世を去らなくてはいけない理由があるのですか?』




その答えを受け取る事は無かった。戦いで愛する者を失って人は心を失っていく。絶望は怒りを生む。怒りの炎は焼きつくさなければ止まらない。


嘆き悲しみ憎悪を(たぎ)らせた怨念は大きな力となりNone(無し)となる。全てを終わらせる力を得るのだ。


ガッシャーーン!ガンガンガンガン!


小山のような巨大な(なた)が、地面を揺るがせて家の外に出現する。周りの家を潰す鉈は、鋭い刃を光らせていた。


『醜い争いを終わらせなくては、いけない。この私が!』


スザンヌの姿を借りた女は、鉈の側に立ち鉈の柄に触れる。小さな少女は、驚く力で振り上げた。


『全てを、無しにするのです。』


「駄目です、スザンヌさん。悲しむのは、貴女だ。貴女の家族や友人が消えてしまっても、いいんですか?」


目の前に立った美しい少年が、それを止めようとする。スザンヌは、彼に鉈を投げつけた。


ガーーン、ガッシャーーン!


ジュリアンは身を交わし、鉈は地面に跳ね上がる。そして、地面を削りながらスザンヌのもとへ戻るのだ。魔力の掛けられた武器だった。


ガガガガガガガガガガガガーー!


再び、鉈に手を触れるスザンヌ。だが、スザンヌは押し込められていた心を取り戻そうとしていた。



(私が出来る事は、お母さんや友達を大事にする事なの。皆を傷つけたくないの。お願い、分かって!)



そして、懸命に願いながら取り憑いた怨霊の女性と戦った。ジュリアンは見ているしか無かった。だが、この場所に現れた人物に気がつく。


「ゴメスさん!」


ゴメスは、自分の身体の中に居る怨霊と戦っているスザンヌの様子に決意した。徐霊は出来ないが、一時的に動けなくする事なら出来る。


(神さまの気紛れで、人も国も消滅させられやしない。人間は、オモチャじゃ無いんだよ!)


と、バッグから何かを取り出した。それを広げると、畳1枚ほどの大きな布であった。上に放り投げて呪文を唱える。


「カエル吸引!」


布に浮き出たのは、大きなカエルの線画。布から離れカエルの線の画は大きな口を開けながらスザンヌの身体に被さった。パクンと飲まれたのだ。


ジュリアンは、驚く。ゴメスが魔法使いだと知らなかったからだ。突然、抗議する声が響く。


「パトリシアさん、酷いですよ。戻して下さい。天使様がお怒りですから!」


目の前に降ったように現れたのは、悪魔のアグアニエベ。天使達と世紀末を見届けるはずが、邪魔されたからだ。苦情を言う悪魔をゴメスはジロリと見る。


「なんだ、文句をつけに来たのか?」


「そうですよ。この国が消える日なんですから、手を出さないで欲しいですね。そうでないと、天使様に処罰されます。いいんですか?」


「神さまのお手伝いをする悪魔は、天使の言いなりか?それぞれの生を持つ人達が、関係なく消滅させられるんだぞ。」


「この国は、終わりなんです。だから、消して最初から始める。それが、正しい事でしょう。」


「転生する前の俺も、国ごと大昔に消滅させられた。俺は、終わりたくなかったのにだ。そこに暮らしていた人々もだ。どうしても、終わりが必要だと言うのなら。」


「必要だと言うのなら、何ですか?」


ゴメスは、アグアニエベにニヤリと笑いかける。目が、怒りに光った。転生して探しても自分の国が無かった苦しみが天使に分かるか。消されてたんだぞ。


「俺が代わりにやってやるよ。もっと、上手く!」


ゴメスは、魔法の武器の大きな鉈に歩み寄った。その柄を掴むと振り上げたのだ。代行者として。


「怨霊の大鉈よ、このゴメスに従うんだ!」


ゴメスの魔力は、鉈を操ろうと包み込む。怨霊の魔力との攻めぎ合いだ。


バッバッバッ、バリパリバリパリーー!


激しい音を立てて青い炎と赤い炎が鉈の上に立つ。怨霊の魔力とゴメスの魔力の戦い。そして、赤い炎がゴメスごと包み込む。ゴメスが支配したのだ。


「さあ、やってやろうじゃないか。天に変わって世直しというのをな!」


見守っていたジュリアンは、背筋がゾッとする程の凄みを感じる。この男は、怨霊さえ負かす恐ろしい力を持っているのだ。


その目が自分を見た時に、捕らわれるのを感じた。寒気がジュリアンを襲う。それは、彼の危険の知らせでもあった。ゴメスは、嬉しそうに笑う。


「そうだ、伯爵。貴方の事を忘れてた。この武器なら、あなたの呪いも消してあげられますよ。一瞬で吹き飛ばして、ね。絶対に外せないとされてる強い呪いでも。く、くくくくー!」


ジュリアンは、震えた。この男は、呪いを解くのを喜んでいる。だが、鉈を振れば呪いと一緒に自分も消えてしまうかもしれないのに。


青ざめて、ジュリアンは思った。可愛いい少女の事を。


(誰かを好きになる事を諦めていました。でも、今はスザンヌと共に過ごしたいと望んでいます。どうか、神さま。私を地上に留めて下さいませんか?)


自分の家系に掛けられた呪いを甘んじて受けて死ぬ事も恐れ無かったジュリアンだが。ここに来て、始めて願っていた。生かされる事を。愛する人との時間を。


「鉈よ、俺の命令だ。旧き呪縛を粉々にしろ!」


動きを封じられたジュリアンの上に大鉈が振り降ろされた。


ガッシャーーン!ギギギギギギギギ!


鉈がジュリアンの1部を切り裂いた。それは、ジュリアンに貼り付いて離れない呪いであったのだ。ジュリアンの家系に掛けた呪いは、ジュリアンが生まれ落ちた時から共に居た。


『止めろ、お前も呪ってやるぞ!』


鉈に切り離されながら、呪いの神は叫ぶ。だが、ゴメスは笑っているだけだ。あまりの激痛にジュリアンは意識を無くす。


ゴメスは、楽しそうに鉈に命じた。


「やっちまえ、根こそぎ呪いを潰すんだ!」


新しい主人の指示に従った従順な武器は、空に飛び上がる。ひと飛びで、ジュリアンの屋敷の庭に落下した。そのまま、庭に突っ込んだ。


ドドドォーーン!ゴーンゴーンゴーン!


地中に居る呪いの神の使い達。悲鳴を上げて逃げ惑う。まさか、地中まで誰かが襲って来るとは思ってもいなかった。呪いを掛けた子孫を破滅させるだけだったのだ。


ギャーギャーギャーギャー!


鉈は、思う存分に容赦なく地中の巣窟を破壊しつくした。呪いの神より恐ろしい存在だ。








ゴメスは、ジュリアンに贈り物をした。それは、幸せな夢だった。



『ねえ、ジュリアンさん。ほら、見て。呪いなんて簡単に壊せるのよ。ほら?』



愛する少女スザンヌは、微笑みながら杖を振った。すると、ジュリアンの脚にまとわりつく魔物達が消え去っていくではないか。



『ジュリアンさんの家系の呪いは、私が解いたから安心よ。』



まるで、夢のような事だった。それが叶わない事だと嘆きながらジュリアンは目を開ける。何故か、土の上で寝ていた。


「ここは、何処だろう。どうして、ここは掘り起こされてるのか。」


工事でもしているのか。庭らしいが、全て掘り起こされて土が無期だしだった。凸凹状態だ。


ジュリアンは、頭を振りながら身体を起こす。頭がボーとする。まるで、強い魔力で振り回されたようだ。車酔いに近い。


気がついてみれば、そこは自分の屋敷の庭だった。叔母のローズ夫人に奪われたはずの。少し離れた場所にスザンヌが倒れているではないか。


「スザンヌさん、大丈夫ですか?」


倒れたスザンヌを介抱していたのは、ハリスだった。スザンヌは起き上がるとジュリアンを探す。



「ジュリアンさんは?大丈夫?」



お年寄りだから、どこか悪くなってなければいいけど。


「呼びましたか、スザンヌさん?」


妙な事に、ふらつきながら若者が近づいて来るではないか。銀の髪の美しい姿にスザンヌは戸惑う。どうして、ここに。この人が?


「あのー、ジュリアンさんは?」

「僕です、ジュリアンです。」


スザンヌとハリスは、顔を見合せた。同じ名前なのか。信用されてないと感じ取った若者は、困り果てる。


「僕は、本当にジュリアンなんですけど。困ったな・・・。」


時間が立って、やっと、ジュリアンお爺さんだと納得するのだが。何故、この姿になったのかというと。呪いが解けたそうだ。


「呪いが無くなったみたいです。スッキリしました。スザンヌさんのおかげです!」


神さまに願った事が叶えられたのだ。スザンヌと一緒に居たいという望みが。


嬉しそうに言う彼の年齢が、実は本当に21歳だったというので驚くばかり。知っている相手なのに、はじめましてから始まった。


後から、王様と貴族が国から消えてしまった事が分かった。勿論、ジュリアンの情け無しの叔母と欲張り従兄弟の姿も。お陰で平和になった。



(うーん、分からない。ジュリアンお爺さん(もう、お爺さんではないけど)の呪いを消したのが私?そんな事できるわけないじゃん!冗談だよね、きっと。)



それが、ゴメスのやった事だとは思いもしない。


ゴメスは代行で王様も貴族も処分終了。怨霊と大きな鉈は、アグアニエベに引き渡した。それは、誰も知らない事であった。






「夜の魔法学校」



移動ドアから出て来たスザンヌに、生徒達は挨拶する。


「こんばんは、スザンヌさん。」「お仕事は、どう?」


今では、家族みたいになっている生徒たち。スザンヌは、商売や家族の事を話す。聞いてもらえる相手が居るのは幸せだ。


結局、スザンヌは「魔除け」の店を辞めてしまった。王宮で「魔除け」専属として雇われて働いている。出世だ。


「お父さんたら、王宮で働き始めたのよ。無理だって言ったんだけど、出世して高官になるつもりなの。」


そう近況を教えても話せない事もある。それが、スザンヌの悩みになっていた。

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